712.謎の光
その嘘臭い話を聞き終えた一行は、次に自分達の無実を晴らす為の第一歩としてラグリスからの話にあった「謎の光」についてラニサヴから詳細な話を聞く。
「それでだ、お前達に俺達と一緒に調査をして貰いたい謎の光についてなんだが、このバルナルドから北に向かった所に先程話した自然の防壁となっている森がある。その森の更に奥に湖があって、夜になるとキラキラと光り輝くんだ」
「また湖か……しかし、それは単純に月の光が水面に反射して光り輝いているだけじゃないのか?」
呆れた様にソランジュがそう言うものの、ラニサヴは首を横に振った。
「それは違う。最初は俺だってそう思ったが、光り輝くのは月が出ている夜だけじゃなくて曇っている日とか雨の日とかでも同様に光り輝いているんだ」
「そうか、それだったら確かに奇妙だな」
アイクアル王国の南に位置しているクルト湖の中には、凶暴な肉食魚のアグニスが住み着いていた。そしてそのアグニスが住み着いている更に奥には、凄く回りくどい方法で封印されていたエヴィル・ワンの身体の欠片とエレインからのメッセージが入った箱が結界によって守られていた。
まさか今回もそれと同じで、光り輝く何かが湖の底に沈んでいるのではないかとレウス達が伝えてみるが、ラニサヴからの返答はこうだった。
「いや……だからまだ調査が出来ていないんだ。何しろその報告がされる様になったのがほんのつい最近の話でな」
「最近ってどれ位前の話だよ?」
「まだも二日も経っていない」
「すっごい最近じゃないか。最近って言うか数日前の話だろう!?」
「だからまだ調査が出来ていないんだ」
果たしてそれは最近と言えるのだろうか、とソランジュが変な意味で頭の中を悶々とさせている横で、アニータがラニサヴに対して話を進める様に促す。
「それはどうでも良いわ。私達が必要な情報を教えて欲しいの。その湖が光り輝く奇妙な現象を確かめて欲しいのね?」
「そうだ」
「まさかその湖には、さっき話した様に肉食魚が居るとかそう言う話では無いでしょうね?」
「いや、そうじゃないんだが……ええとだな……」
「……?」
ここに来ていきなり答え方の歯切れが悪くなるラニサヴ。
一体、何をそんなに答え難い事があるのだろうかとアニータを始めレウス達一同が疑問に思っているのを見て、ラニサヴは奇妙な事を言い出したのだ。
「あそこには普通の魚しか居ないんだが……時折り、その湖で釣れた魚から妙な物が見つかる事があるんだよ」
「妙な物?」
「ああ。金属片がこびりついていたり、それから体内に金属片を飲み込んでしまってそれが原因で死んでいたり。そうした魚は市場に出せないからその場で漁師達が処分してしまうらしいんだが、それ関係で何度かあの湖の調査依頼が来ていたんだ」
「まさか、それもまだお主達は調査をしていないとかそんな話なのか?」
話の内容からすると、キラキラと水面が輝きだした時からずっと前の話らしいので流石にそこまでの怠慢は無いと信じたいソランジュ。
ラニサヴはその疑問に対して、首を横に振って否定する。
「違う違う。その時はきちんと漁師達と連携して騎士団の調査チームが調べに行った。だが湖の底までさらっても何も出て来なかったんだ」
「どう言う事なのよ?」
「俺に聞かれても困る。その時の報告書は湖の底から多数の金属片が出て来たって話しか無かったんだからな」
「また金属片なのね……」
疑問を呈したドリスだが、それを横で聞いていたティーナがふとこの国の特徴を思い出してそれに関連した疑問をぶつけてみる。
「あの……その金属片って、この国の科学力で調べてみましたか?」
「それはもちろんだ。何かの手掛かりになるかも知れないから研究者達が調べた。だけど分かったのは、それが遠い過去に存在していた物だった事だけだった」
「遠い過去? 年代は分かっていますか?」
「いいや、正確な年代までは特定出来ていない。何しろ湖の中から発見された金属片だから腐食が凄くてな。かなりアバウトな年代を推定するので精一杯だったんだよ」
「うーん……」
腕を組んで考え込むティーナ。
その横でアレットが自分なりの予想を述べる。
「まぁ……その話を今ここで聞いても実際に現地に行ってみないと分からないと思うわ。その金属片と光の輝きに何の関係があるのかは分からないけど、金属片がそれだけ大量に沈んでいたとしたら天気に関係無く光り輝いていてもおかしくないんじゃないかしら?」
「いいや、金属片が沈んでいたとしても天気に関係無い事は無いだろう。それこそ月の光で金属片が反射して光り輝いているなら分かるけど、曇りや雨の日にも関係無しに光り輝いているとなると、やっぱり何か別の原因があるんだと思うぞ」
「そうかしらねえ……」
エルザがアレットの予想に反論するが、やはりアレットの言う通り現地に赴いて調査をするのが現実的だろう。
何時までここで議論していても、結局そうしなければ話が進まないのでレウス達は早速明日から調査に乗り出す事に決めた。
しかしその湖には重大な秘密が眠っていたのである……。