表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

714/875

711.月の剣と呼ばれる理由

 そう決意したは良いものの、自分達は完全なる部外者なのでまだまだこの国については分からない事ばかりだ。

 なので最初は世界中を旅して回って来たサイカやヒルトン姉妹等に話を聞こうと思ったレウスだったのだが、それよりももっと詳しい事をアイクアル王国の女王であるオルエッタが教えてくれた。

 そしてこの国のもっと詳しい成り立ちだったり、大公に関する話は何だかんだで騎士団長のラニサヴがしてくれる展開になった。


「本当だったら脱獄したお前達に色々話す気なんて無いんだけど、ラグリス大公の命だから仕方が無い」

「何だか嫌そうだな」

「それはそうだろう。今のお前達は容疑者なんだからな」


 レウス達に対して明らかな嫌悪感と敵意を向けるラニサヴだが、向けられているレウス達も向けたい気持ちは変わらない。

 この国にやって来てすぐに地下牢へと入れられ、そして気が付いてみれば犯罪者扱い。

 そんな最底辺の待遇をされてしまえば、既にこの国に対するイメージは幸運の国だなんだと言われようが最悪以外の何も思いつかない。

 ラニサヴが言うには、このエレデラム公国は昔から妙に幸運が味方してくれる国なのだとか。

 と言うのも今の大公が先祖代々から物凄い強運の持ち主の連続で、だからこそ長年その大公の座に君臨して居るらしく、しかもその強運が国民全体にまで影響があるので争い事が起きても大した被害も無く今までやって来たと言う。


「そーだなー……単純に凄い強運って言われてもイメージ全然湧かないな。何かさ、こう……具体的なエピソードって無いのか?」


 凄いと口で言うのは簡単だが、実際に話を聞いてみるとあんまり凄いものでも無かったりした経験はソランジュにも結構あるからこそ、きちんとしたエピソードがあればあるだけ納得出来る。

 彼女にそう聞かれて、それならば……とラニサヴは幾つかの幸運な国の由来となったエピソードを話し始める。


「例えば、か。まずは魔物が大量発生した時があったんだが、魔物の大元の巣は大きな洞窟の中にあった。その魔物の洞窟に討伐の為に騎士団が向かった所、到着の三日前から大雨が降っていた事とその洞窟周辺の地盤が緩かった事も重なって、騎士団が洞窟に入る前にその洞窟が全て崩落。当然魔物も全て生き埋めになって全滅したと言う事があった」

「うーん、それだけじゃまだ弱いな……それは自然現象でも普通にありそうだしな」


 ソランジュは適当にリアクションを濁しつつ、次のエピソードをラニサヴに求める。


「前に……と言っても百五十年以上前の話になるのだが、今でも伝説としてこの国のみならず他の国でも語り継がれている話だ」

「ほう、それは興味深いな」

「他の国がこのエレデラム公国に領土拡大の為に侵攻して来た時があった。その国が一二万もの大軍をこのエレデラム公国に進軍させて来たのに対し、こちらの戦力はその六分の一の二万しか居なかった。誰がどう考えても勝ち目は薄いと思うだろう?」

「まぁ、確かにそうよね。そんな戦力差なんてよっぽどの事でも無い限りは崩せる気がしないから、負けるのが私でも目に見えるわよ」


 ラニサヴの質問に対して、騎士団長の執務室で一緒に話を聞いていたアレットは自分のストレートな答えを口に出した。

 だが、ラニサヴは若干誇らしげに首を横に振った。


「その余程の事が起こった。相手の大軍が都に向かって攻めて来た時、都の前には広大な平原があるのだがそこでお互いの分がぶつかり合う予定になっていた。しかし、その平原に敵軍が姿を見せて進軍して来た時、突然それまで晴れ渡っていた空が一気に雲に覆われて大嵐になったのだ」

「えっ、それって……地面がぐちゃぐちゃになったりしない?」

「そうなんだ。平原は瞬く間に土の地面がぬかるみ、相手の騎馬隊はまるで馬が役に立たずに足止めを食らう形になった。そこで我がエレデラム公国軍は一気に逆転する為、地元の地の利を活かして岩場の影や崖の上から足止めを食らっている敵軍に向けて矢を放ったり、落石を行う事によって勝利する事が出来たのだ」

「なるほどね……」


 何だか凄い偶然にしか思えないのは気のせいだろうか、とアレットはこの時思ってしまった。良い事の偶然でも何回も立て続けに起これば、それは幸運になるのであろうか?

 どうにもいまいちこう言う事は信用し切れないメンバー達の中から、更に次のエピソードをサイカが求める。

 すると、ラニサヴはとっておきのエピソードがあると言い出した。


「この国の都……つまりここ、バルナルドは地図で見ると分かる通り山と森の間に出来ている。北から攻め込むには森と湖が邪魔をして、南からは山が護ってくれる。東西は見通しが良いから敵が来てもすぐに分かる。天然の防壁とも言えるその場所が出来たのが、この国の強運の始まりとも言われているんだ」

「このバルナルドが出来たのが?」


 それと強運と何の関係があるんだろうかと疑問に思うサイカに対して、ラニサヴはその時のエピソードを話し始める。


「大公の先祖までさかのぼって行くと、黄金に輝く剣を月の光にかざした所……大地が裂けてその都の自然の防壁が生まれたと言う伝説がある。だから今までの大公は歴代全てで「月の剣」の二つ名がついているんだ」

「そ、そうなのか……」


 でもそれはあくまで伝説だろう? と何処か冷めた気持ちでその話を聞くサイカ。

 そしてそれはエルザも同じだった。


「じゃ、じゃあよぉ……その黄金の剣って何処から出て来たんだ? それからどうして、その場所で光に剣をかざしたらこのバルナルドが出来たんだ?」


 今の話の中で最も疑問に思ったポイントをエルザが尋ねると、ラニサヴはこう返して来た。


「俺も伝承の中でしか聞いた事が無いから詳しくは知らん。その都を作ったとされる初代の大公は、元々別の場所にあったバルナルドの自室で自分の夢にお告げをされたそうだ。『この剣を満月の夜、山と森の間で月の光に向かってかざすと良い』とな。そしてそれを実行した結果がそうなったと言う訳だ」

「…………」


 多分、自分以外の人間でも初めてこの話を聞かされた時にはこう思うだろう……と口には出さないものの、エルザは心の中でこう呟くしか無かった。


(嘘臭い話だ……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お気に召しましたら、ブックマークや評価等をぜひよろしくお願い致します。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ