709.冤罪
こうして、忍び込んだコルネールとアーシア共々レウス達は牢屋の中に戻される事になった。
いや、牢屋には戻される事は無かった。
騎士団長のラニサヴによってそのまま連れ戻されたレウス達は、何とそのままこの国の大公であるラグリス・フォルトゥーナの元へと連れて行かれる事になったのである。
コルネールとアーシアも一緒に連れて行かれる破目になったのであるが、いざ出会ってみた大公のラグリスは傲慢な性格のラニサヴとはまるで違う、かなり穏やかな人物であった。
「そなた達が噂になっている、アークトゥルスの生まれ変わりの男とその仲間達か」
跪くレウス達の目の前で、黒髪の坊主頭の壮年で大柄な男が椅子に座って確認を取る。
それに対してレウスは「はっ」と返事をした。
「そうかそうか。して……そなた達がどうしてこのエレデラム公国でこの様な事態になっているのか分かるかな?」
「地下牢獄から脱獄したからです……」
「確かにそれもある。だがそれよりももっと重要な事が理由なんだ」
「え……?」
一体何の話だろうか? と顔を上げたレウスを始め、パーティーメンバー達はラグリスの次の言葉を待つ。
しかし、それはかなりショッキングなものだった。
「そなた達と関わりの深い者から、この様な書類を入手したのだ。そなた達がこのエレデラム公国で悪さを企んでいるとな」
「しょ……書類?」
「それってもしかして、さっきこの二人が話していた事ですか?」
「おい、バカっ!!」
「あ……」
ポロっと口を滑らせてしまったドリスを一喝するエルザ。
それに呼応して周りの騎士団員達から殺気が溢れ出るが、大公のラニサヴだけは全然意にも介さない様子で話を続ける。
「ほう……何処でその情報を仕入れたかは分からないが、恐らくその二人は何処かの国の王族関係者か何かかな? 聞かせてくれ」
「は……はい、俺達はヴァーンイレス王国の国王の座に就いたサィードの幼馴染みです……」
「ああ、それだったら話は聞いているよ。それも確か、そなた達がヴァーンイレス王国を取り戻したとかって話だったな」
ラグリスによれば、この書類は自分達エレデラム公国だけではなくて、各国の国王や皇帝に配られているらしいのだ。
それは、レウス達の今までの所業を事細かに記載した上でこれからレウス達が何をしようとしているのか、と言うものである。
「だが、この書類に書いてある事が本当だったらそなた達を見過ごす訳には行かないな」
「書類の内容が分からない事には何とも言えないんですけど、俺達が悪さを企んでいるって話でしたよね? それって何なんです?」
「それはだな、まず……そなた達がこの世界において大砲による砲撃を企てているって話だ」
「た……大砲による砲撃って……それってもしかして、あの……」
レウス達には心当たりがあり過ぎる話。
それもその筈で、ほんのちょっと前にレウス達が滞在していたルルトゼルの村の四地区全てが砲撃を受けた。
それだけに留まらず、レウス達がアイクアル王国に入国した後に更に入国手続きを取る事態になった、あのシルヴェン王国の王都シロッコも同じく砲撃されて壊滅状態に陥ったのは忘れたくても忘れられない出来事である。
それに何故自分達が関わっているのか?
しかもこのラグリスの言い分だと、まるで自分達が砲撃を主導した様な言い方である。
「ちょちょちょ、ちょっと待って下さい。それって俺達が主犯格みたいな話になっていませんか?」
「この書類に書いてある事が全て本当だとしたら、それはそうなるだろうな」
ピラピラと書類の束を右手に持って軽く振りながら、レウスに対して厳しい声色でそう言うラグリス。
だが、そこでアレットがもう一つの違和感を覚える。
「あれ……ちょっと待って下さい大公。さっき「まず」っておっしゃいましたよね? それってまだ私達が他にも何かを企んでいるって事になりませんか?」
「ああ、そうだ」
これに加えてまだ何かあるのか。
コルネールとアーシアが言っていた通り、レウスの両親がそんな書類をこのラグリスの元に届けていたとしたら、完全にこれははめられた事になってしまう。
そうだとしたら例え両親だとしても絶対に許せない。そもそもカシュラーゼ側についた時点で自分達にとっては敵なのだから。
その内容についてなのだが、当然レウス達の身に全く覚えの無いものであった。
「もう一つの容疑だが、このエレデラム公国の中で麻薬を流行らせようとしているらしいな。アーヴィン商会のゴーシュとファラリアから、自分の息子が麻薬の原料になる薬草を大量に奪い去って逃げているとの情報がもたらされている」
「いやいやいやいや、おかしいですよねそんなの。何でそんな俺達が麻薬なんか……」
「そうは言われてもな。聞いた話によれば、そなた達はカシュラーゼと繋がりがあるマウデル騎士学院の学院長や名うての傭兵と深い知り合いらしいな。そもそもそんな制服を着込んで今もこうして旅をしているそなた達が、絶対にカシュラーゼと繋がりが無いとは言い切れまい?」
「そんな……」
現に一度脱獄しようとした上に、その脱獄をさせようとした二人がカシュラーゼと繋がっていた事実があるだけでも、レウス達の否定には何の説得力も無かった。