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708.強運の始まり

 その足音が聞こえて来た瞬間、レウス達の表情が一気に強張る。

 足音からすると全部で二つらしいが、先程のラニサヴがここに来るのは分かる。

 ではもう一人は?

 恐らく先程自分達を持ち上げたラニサヴの部下か、もしくはまた別の人物か。

 どちらにしても自分達が入れられているこの牢屋の方に向かって来ているのは確かなので、無意識に身構える一行。

 しかし、そんな一行の目の前に現われたのは一行の予想を遥かに超える人間達であった。


「……よっ、助けに来たぞ」

「は!?」

「え…… な、何であなた達がここに居るのよ!?」

「何でって、それはここに忍び込んだからに決まっているじゃない」


 違う、そうじゃない。

 レウス達は一斉にその二人に対して突っ込みを入れるが、その二人はそれよりも先にやる事があるだろうと牢屋の鍵をガチャガチャと開け始めた。


「おいちょっと待て、その鍵は何処から手に入れた?」

「見張りを挑発してぶん殴って、気絶させて奪い取ったのさ」

「待て、それって犯罪だろう。そもそもさっきの質問と被るんだがお主達はどうしてここに居るんだ?」

「そうだぞ。そして何故こんな事をする?」


 ソランジュとエルザからの立て続けにやって来た質問に対し、ガチャガチャと鍵を開けた彼は外へと一行を導く。


「俺達がここに居るのは事情聴取が終わったからさ。それから既にサィードにも会いに行って無事を確認して来たよ」

「その時にサィードから聞いたの。エレデラム公国の方に援助を頼んだら了承してくれたんだけど、それと同時に気になる話を聞いたって」

「気になる話……って、それは何なのよ?」

「そうですわ。教えて下さいコルネールさん、アーシアさん!!」


 アイクアル王国の方で事情聴取を受けていたコルネールとアーシアが、こうしてここまでやって来たのはどうやらレウス達にとって懐かしのサィードが関係しているらしい。

 ヒルトン姉妹にそう問われた二人だが、その二人の口から出て来たのは意外な人物の名前だった。


「実はだな、サィードが言うにはアーヴィン商会って所のゴーシュとファラリアって夫婦が、最近この国に対して書類でアプローチをしたんだってさ」

「しょ……書類?」


 予想外の人物の名前、それから予想外の単語が出て来てレウス達はざわつく。

 しかし、それを止めたのがアーシアだった。


「ちょっと待った待った。先にここから脱出するわよ。話はそれからなら幾らでも出来るし、ここで騒いで他の見張りに見つかったら元も子も無いわ!」

「そ、そうか」


 それもそうだなとレウスは頷き、この場にやって来たコルネールとアーシアに続いて地下の牢獄を歩いて行く。

 しかしここから、徐々にこのエレデラム公国が強運に守られている国だと言うのを実感するとは思ってもいなかったレウス達。

 まず手始めに、地下牢を巡回中の騎士団員に曲がり角でバッタリと出くわしてしまったのだ。


「……おっ、おまぐえ!?」

「静かにしろっ!!」


 その騎士団員をコルネールが槍でぶん殴って気絶させた。

 そこまでは良かったのだが、この地下牢を巡回している見張りは一人だけでは無い。


「だっ、脱獄だあっ!!」

「っ!?」

「やっば、向こうにも居た!!」


 大声で叫びながら走り抜けて行く別の看守の騎士団員は止められず、にわかに地下の監獄内が騒がしくなって行く。

 これ以上モタモタしてたらまずいと察したアーシアは、レウス達の方を見て静かに、しかし力強い声で命じた。


「走るわよ!」

「ああ!!」


 自分達が意味も無くこうして捕らえられたままと言うのはとんでもない話だ。

 アーシアとコルネールの先導に従って、騎士団員達が時折り行く手を阻むのをレウス達は薙ぎ倒しながら進んで行く。


「ここから出た後はどうするんだよ!? ってかそもそもここに出口なんてあんのか!?」

「心配するな! この地下牢は下水道の出入り口と繋がっているんだよ!!」


 だからこそこうやって先導しているんだと言いながら、コルネールは槍で見張りの騎士団員を倒しながら進み続ける。

 下水道の出入り口を通ってこの地下牢へと忍び込んだコルネールとアーシアは、勿論帰り道もそこを通る算段でこの脱獄作戦を進めていた。

 しかし、ここでアーシアに思わぬ出来事が襲い掛かる。


「……うわっ!!」

「ちょっ、おい大丈夫か!?」


 アーシアがその下水道の中で足を滑らせて転んでしまった。

 それだけならまだ良かったのだが、どうやら滑った時に変な転び方をしてしまったらしく左の足首を捻ってしまった。


「あいつつつ……ごめん、歩けそうに無いわ!」

「だったら私が背負うわよ!! 回復魔術を掛けていたら追い付かれちゃうから、出てからしっかり治療しましょ!!」


 サイカがアーシアをおんぶして更に下水道の先へと進む一行。

 だが、それが全て無駄な行為だったと知るのはこの後すぐの話だった。


「……なっ!?」

「おい、どうし……た……」

「え、えええええっ!?」


 下水道の出入り口は、既にエレデラム王国騎士団によって封鎖されてしまっていたのだ。

 それだけで終わらず、後ろからも大量の騎士団員達がレウス達を追い掛けてやって来ている。

 これでは到底逃げ切れないと、レウス達はここで諦めて降伏するしか無かったのであった……。

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