705.エレデラム公国へ
オルエッタからのお勉強も終わった所で、他のメンバーの準備や手伝いもそれなりに一区切りついたのを確認し、後はこの村の事を任せてレウス達はいよいよエレデラム公国に向かう。
ちなみにオルエッタからは「国境を通る時にこの紙があればスムーズに行けて安心よ」と言われて渡された通行証もある。
「それじゃあ俺達はそっちに向かう。何かを見つけられるかも知れないからな」
「ああ、気を付けてな!!」
『ここの事は私達に任せておいて』
「ああ。弓と欠片も頼んだぞ」
村人達は復興作業で忙しいので、見送りはアンフェレイアを始めギルベルト、ボルド、ガレディ、フェイハン、そして通行証を作ってくれたオルエッタだけに留まっている。
そのメンバーに見送られて、レウス達はアイクアル王国の西にあるエレデラム公国を目指してワイバーンで飛び立った。
しかし、他にもまだやらなければならない事があるのを思い出したサイカが提案する。
「ねえ……エレデラム公国に向かうのは良いけど、大砲を破壊した方が良いんじゃないかしら?」
「え?」
自分のワイバーンと並んで飛んでいる、サイカのワイバーンからそんな声が聞こえて来たのに反応して、そちらの方を向くレウス。
これからエレデラム公国に向かう気満々だったのに、唐突にそんな事を言われて気が抜けるレウス。
だが、考えてみれば確かにそうかも知れない。
「……そうか、それは確かにそうだよな」
「でもそれってさぁ、まだ全ての国の大砲の位置が分かっていないんでしょ?」
「まあ、それも確かに」
反対側で並列状態で飛んでいたドリスからそう言われるものの、既にアイクアル王国の砲台は潰している。
それにまだ砲台の位置が分かっている国が一つ……そう、最初に砲撃の惨状を目の当たりにしたシルヴェン王国である。
あれは現状調査の為に破壊はしないで欲しいと言われていたかと思うのだが、あそこからこのルルトゼルの村を狙うのだって無理では無いかも知れない。
大砲の射程距離がどの位なのかがまだ分かっていない以上、そんな危険は無いのかも知れないが壊しておくのに越した事は無いだろう。
そう思っていたのに、ドリスから畳み掛ける様に疑問が飛んで来る。
「でもさ、破壊するのにあのシルヴェン王国の騎士団の許可を貰わなければならないんじゃないかしら?」
「いやいやいや、その上の立場の人物の許可が要るでしょ。シルヴェン王国の国王よ」
「あ……」
話に割り込んで来たのはアレットだった。
確かに現地調査をするとなれば管轄は騎士団なのかも知れないが、あれだけの大きな大砲の話を国王が聞いていない訳が無いだろうと思うサイカ。
そして、良く考えてみればまだシルヴェン王国の国王に出会った事が無い……。
それを考えてみるとかなり時間が掛かりそうだし、そもそもシルヴェン王国とエレデラム公国はそれぞれが反対方向なのでそれもまた時間が掛かる原因になる。
しかも、その大砲を壊したからと言って他の大砲の位置が分かっていないとなれば、その他の大砲の場所を調査して見つけて破壊しないと結局まだ砲撃されてしまうリスクは残っているのだ。
レウスがそれを色々と考えた結果、ここはやはりシルヴェン王国の大砲をスルーしてエレデラム公国へ向かう事を決めた。
(大丈夫なのかしら、この男……いや、このパーティー……)
聞こえて来る会話を聞きながら、アニータは一歩引いた目線で考えていた。
このレウスと言うリーダーは周りの意見に流されやすい傾向があるし、五百年前もきっとそれは同じだったのだろうと。
そして最終的に五百年前のドラゴン討伐は上手く行ったらしいが、この旅の終わりまでにまた利用されまくって終わるのかも知れない……と。
そんな思いのアニータを乗せたワイバーンを含む一行は、そのまま南西に向かって飛び続けてエレデラム公国の国境へと辿り着いた。
レウスがオルエッタから聞いた話によれば、強運な大公が治めているとの話だった。
なので期待半分、不安半分のレウスを先頭にしてオルエッタに作って貰った通行証を使って国境を越えた一行は、まず都のバルナルドへと向かう。
「ルルトゼルの西地区の方から今こうやって来たから……都のバルナルドは国の中央辺りにあるって話で、オルエッタ陛下からはそこまで距離も無いって言われてたな」
「ええっと、バルナルドは山と森の間にあるのよ。かなり見つけやすい都なんだけど、天候の変化も結構あるから気をつけなきゃね」
こっちにも来た経験のあるドリスにそう言われ、レウスは一目散にそのバルナルドを目指して飛んで行く。
考えてみれば、今まで本当に色々な国を回って来た。
そしてここまでやって来た訳だが、国境で聞いた限りではカシュラーゼ軍の話は今は特に無いらしい。
(カシュラーゼの噂を聞かないのはやっぱり強運な国だからなのか? カシュラーゼが勢力を伸ばすとすれば世界全土に目を向けていてもおかしくないと思うんだが……)
だとしたら、自分達もその強運に守られて安全に情報を集められるかも知れない。
あるいはその強運に負けて、この国からこちらが撤退する事態に陥るかも分からない。
全てはその強運な大公が治めるこの国次第だろう……と思いながら飛んで行くレウス達の後を、かなり離れて追い掛けている二つの影があった。