704.お勉強
村長のボルドを始め、ライオネルの弓を村の宝として崇めている住民の獣人達もこの理論には納得する。
何せ、神であるアンフェレイアが預かってくれるとなればこれ以上に安全な事は無いと悟ったからである。
こうしてライオネルの弓とエヴィル・ワンの身体の欠片がアンフェレイアの元で保管される事が決まり、安心出来る預け先で一安心したレウス達は、ようやく次の目的地であるエレデラム公国へ向かう事が出来る。
「そう言えば、オルエッタ陛下達はレアナ陛下からテレパシーを受けてからここまで来るのがかなり早かったみたいですけど、どうやって来たんですか?」
「私達は転送陣を使ってここまで来たの。それはそうと、エレデラム公国の事前情報が何も無いままじゃ不安でしょうから、私が教えてあげるわ」
と言う訳で、フェイハンやギルベルトが再び復興作業に戻ったりドゥドゥカスへの連絡をしている間、何と一国の国王であるオルエッタが直々にエレデラム公国について教えてくれると言うので、レウスは南地区の村長の家でお勉強させて貰う事になった。
ちなみに他のメンバーは全員、フェイハン達の手伝いをしに行ったり今までこの村の中に預けていた自分達のワイバーンを取りに行ったりしている。
「ええっと、まずは何処から話をすれば良いかしら?」
「何処から……って言われても、それは陛下にお任せ致します。ただし出発まで余り時間がありませんので、出来れば手短にお願いしたいと思います」
「分かったわ。それじゃあ……エレデラムの事を一言で言えば、気味が悪いわね」
「えっ……」
いきなりのストレート過ぎる表現に絶句するレウスだが、オルエッタ曰くこれは自分だけじゃなくて、他の国からも同じ様に思われているらしい。
「本音よ。そもそもの話で言えば、月の剣と呼ばれる強運な大公が治めているからこそそう呼ばれているのよね」
「月の剣……」
「そうよ。貴方がアークトゥルスの生まれ変わりだって言うのはさっき貴方自身から聞いたけど、貴方の時代にはエレデラム公国はまだ無かったから知らないのも無理は無いかもねー」
「ああ、そういや無かったですね。五百年前にはまだこの場所は確か違う国でしたから。エレデラムって地名があったのは知っていますけどね」
小さな木製の丸いテーブルの上に広げられ、一部分がはみ出しているその世界地図を見ながらレウスは五百年前の記憶を辿る。
それについてはオルエッタの方も分かっているらしい。
「ええ。エレデラム公国はまだ出来て三百年の国だからね。前の国が無くなって、それで新しくエレデラムって国になったの」
「なるほどね。それでその強運な大公が治めているのと、気味の悪い国だって言われているのはどんな関係があるんですか?」
「ん……強運過ぎて気味が悪いのよ」
「……例えば?」
そんなに気味悪がられているのなら逆に気になるよね、と思うレウスはもう少しそこについて突っ込んでみる。
すると、なかなかのエピソードがオルエッタの口からもたらされる。
「えーっとね、最もたる例としては……他国が攻めて来ても突発的な大嵐が起きて、その攻めて来た側の国が撤退したものがあるわ。それから大嵐が起きなかった様な場合でも、その攻めて来た方の軍事関係や人間関係でトラブルが起こって作戦自体がボツになったり、作戦を実行出来た場合にも実行している最中のトラブルによって撤退を余儀無くされたりして、幾度と無く攻め込まれているのにほとんど戦わずに済んでいるのよね」
「うっわ、それは確かに気味が悪い国ですね」
しかし、ここでレウスには気になる事があった。
「あれ……でも、ちょっと待って下さいよ。確かそのエレデラム公国が建国されたのって俺が死んでから後の話でしたよね?」
「ええ、そうだけど」
「その幾度と無く攻め込まれているのは分かるんですけど、その大公って人間の方なんですか?」
「そうよ。男性の人間の方よ」
「……まさか、凄い長生きだって人じゃないですよね?」
「あはは、違うわよー。もしかしてその今の大公だけが強運な人だと思ってたの?」
「ええ、まあ……」
もしかすると強運過ぎるからこそ、人間じゃない「何か」が今の大公の座についているのかと考えていたレウスだったが、それについては正式にオルエッタから否定される。
「違うわよー。その人は普通に五代目の大公。でもエレデラム公国は初代の大公からその強運さが代々受け継がれているらしいのよね」
「遺伝なのか、それとも体質なのか……?」
「そこまでは分からないけど、結局その強運な歴代の大公達のおかげで都のバルナルドも大公が住んでいらっしゃるオーレミー城も安泰なのよ」
エレデラムは科学に秀でた豊かな自然のある国。
そしてその自然と科学力を守る為に、基本的に何処の国とも中立的な関係を保っている。
そして科学力の面ではあのカシュラーゼとも協力しているらしいのだが、だからと言って今回の暴走しているカシュラーゼが攻め込まないと言う話では無いらしい。
「カシュラーゼはエレデラムにも侵攻を企てているんですかね?」
「それについては私は何も聞いていないから分からないわ。でも、エレデラムの方からは何も話を聞いていないし、まだ何もされていないんじゃないかしら。もしくは既に攻め込まれたかも知れないけど、その強運さに諦めてカシュラーゼが撤退したとか……」
「あり得ますね。とにかく、俺達はそのエレデラムに向かいますよ。色々教えてくれてありがとうございます」
「いえいえー」