703.預かり先
一種の恐怖感を覚えながら、レウス達はボルドのその新たなる決意に耳を傾ける。
「今回の事で、私は嫌と言う程思い知った。確かに獣人ばかりのこの村は、あのライオネル以外の人間から始まって部外者を受け付けない様に拒絶をして来た。だが、その場合には外部から突然こうして攻撃を受けた時に、何が起こったのかが分からないまま滅びる危険性もあったと言う事だ」
外の世界との交流を拒絶し続けて来た結果、外の世界で何がどうなっているのかが分からず、他国の文化にも触れずを貫いて来た。
そして今回の砲撃だって、レウス達からその実行犯や実行する為に造られた大砲の存在を教えて貰わなければ、永久に何が起こったかを分からずじまいだっただろう。
それを考えてみて、このルルトゼルの村にもそろそろ行動を変える必要が出て来たのだと村長のボルドが言い出したのだ。
「ただし……まだ思っている段階の話である、と言うのは分かって貰いたい」
「外の世界との交流を持てれば良いと思う、ってのはまだ仮定の段階だって言うのか?」
「そうだ。この村の住人達の意識をすぐに変えるのは無理だ。数日単位では絶対無理だし、数か月……いや下手したら数年単位と言うのもあり得るだろう」
実際の所、村長のボルドだって村から見た部外者を拒絶している一人な訳だし、今回の砲撃を引き起こしたのもそれこそ部外者だと言うのを考えると、まだまだ素直に「外の世界に出る」と言う選択肢を実行に起こす気にはなれないのが現状だった。
最初だってギルベルトを疑った。
今度の砲撃だって、もしかしたら自分達に対して無理やりにでも外との交流を持たせようと、この村を襲撃して来て今は脱獄してしまったあの連中とこの部外者達が手を組んでいたかも知れないとまで思っていた、と素直に口に出してしまうボルド。
それに対して、レウスよりも先にギルベルトがキレてしまった。
「ざっけんじゃねえぞ……このジジイ!!」
「ギルベルト?」
「俺達があの連中と手を組んで、今回の砲撃を引き起こしただあ? そんな事をする暇なんか俺達には無えよ!! そもそも仮にそうだったとして、何で爺さんは俺達にライオネルの弓を見せたんだよ?」
そんな事をしたら部外者にライオネルの弓のありかを知られるし、最悪の場合はこの石碑の目の前で物言わぬ屍になってボルドが発見されていたかも知れない。
なのにどうして、レウス達にライオネルの弓を見せたのかがギルベルトには本当に意味が分からないのだ。
そう聞かれたボルドは、レウスに目を向けてこう弁解する。
「君が、この石碑に刻まれているライオネルの知り合いを連れて来るって言っていたからな。だから懐疑心もあったんだが、実際に見せてやればそれが本当かどうかが分かるかも知れないって思ったからだよ」
「意味が分かんねーよ」
「つまり試したのさ。そこに居る彼が本当にライオネルの知り合いなのかを。結果としてはまぁ……成功かな」
「成功?」
「そうだ。その場では敵と繋がっているかどうかまでは分からなかったが、今回の件で素直に調査命令に応じてくれた事や村の中に入って来たドラゴンを退治してくれた事、それからソルイールでドラゴンを退治した事とか、今までの話の数々を聞いていて君達があの襲撃集団と繋がりが無いって確信が持てたよ」
「……あ、そう」
どうにも凄く納得が行かないし、長いセリフでゴリ押しされて強制的に納得させられた様な気がしないでも無いのだが、少なくとも自分達がカシュラーゼの連中と繋がりが無いのは分かって貰えたらしいとレウスは思った。
そして何時までもこの話題で引っ張る訳にもいかないので、レウスはエレデラム公国に向かう話をする。
「まぁ、分かってくれたなら良いけど。それでだな、俺達はさっきも言った通りエレデラム公国に向かう。だけどこの見つけたエヴィル・ワンの身体の欠片とか、エレインからの手紙とかを一緒に持って行くと、また奴等が狙いに来る可能性があるんだよな」
だから今回はこのライオネルの弓がある場所に、そのまま一緒に置いて行こうと考えているレウス。
だが、その保管方法について異議を唱えたのはアンフェレイアだった。
『ちょっと待って。それも危険よ』
「えっ?」
『だってほら、今回の話でカシュラーゼの連中にこの村が襲撃されたでしょ? そうなるとあの連中がライオネルの弓がある場所を突き止めていないとも限らないわ。そもそも既にこの村を裏切って、カシュラーゼ側についちゃった住民が居るからなおさらよ』
「ああ、それもそうだな……」
口には出さないものの、そうなるとボルド含めてこの村の連中も信用出来ないレウス。
今だって、納得が行く説明だったかどうか非常に疑問の残るボルドのセリフを聞かされたばかりなので、レウス達としては素直に預ける気が無くなってしまう。
それはアンフェレイアも彼等の気持ちを汲み取っている様なので、ここは最善策を選んで提案してみた。
『だから、カシュラーゼ側でもルルトゼルの村の住人側でも無い私がライオネルの弓ごと纏めてそれを預かれば良いんじゃないかと思って』
「ぜひお願いします!!」
即答するレウス。
この世界の神の片割れである彼女に預かって貰えるなら、こんなに心強い事は無い。少なくとも自分達が持っているよりかは遥かに安全だからだ。




