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4.ヌシ

 しかし、ここ最近魔物の凶暴化が世界中で目立って来ているらしく、それはレウスの活動している田舎町やあの森も同じだ。

 そして、そのギローヴァスは一旦暴れ出すとなかなか止まらない性格なので、この森に生息している魔物達の親玉として君臨しているのだった。

 何にせよ、そのギローヴァスがこっちに向かって来ているのであれば食い止めなければならない。


「てな訳だが、あんた達も手伝ってくれ!!」

「えっ、何で私達まで!?」

「この非常事態だからだよ。別に戦えって訳じゃない。みんなでこの町の住民を避難させてやってくれ!!」

「貴方はどうするの?」

「俺はそいつを止めに行く!!」

「お、おい一人じゃ無茶だ!!」


 騎士学院の面々や雑貨屋の店主が止めるのも聞かず、ギローヴァスがこっちに向かって来ていると言う方へとレウスは一人で向かった。

 逆に、この状況では自分一人の方が都合が良いだろうとレウスは考える。

 何故なら、最初に蜘蛛の集団と戦った時に繰り出したスラッシュブロー以上の必殺技を繰り出して、それで巻き添えを食らわれたりでもしたら洒落にならないからだ。


 そんな事を考えながら、町から森への道を突っ走っていたレウスの耳に地響きが聞こえて来た。

 その地響きを伴って、大きな影が土煙と共に駆けて来る。

 レウスがその土煙の方に目をやれば、それは間違いなく町に向かって突っ走って来るあの森の「ヌシ」だった。


(来たか……)


 無意識の内に、右手に握った槍の柄を更に強く握りしめていたレウスは、久し振りの大きな戦いを前にして戸惑いとワクワクが半々だと気が付く。

 戦いには興味が無くなった筈なのにこうして身体が疼いてしまうのは、やはりこれも前世の記憶を持って転生したからなのだろうか?

 前世でもギローヴァスとは何度も戦っていたが、今のレウスにとっては雑魚同然だ。

 何故なら、彼には……。


 ギローヴァスの見た目はかなり独特である。

 まず狼の顔を持っていて、それでいて身体は虎の様に四足歩行でしま模様。

 体格は屈強で、人間の自分よりも遥かに高い三メートル程の身長がある。

 そして何よりも特徴的なのは、その魔獣の首から先が二つ存在していること。

 普通に戦えばその体格差で圧倒されてしまうので、大人しい性格で人間を襲う様な魔物では無いと言うことがランクを下げる理由だ。

 そうでなければ、このギローヴァスはBランクでは無くAランクに位置していてもおかしくない位の強さを持っている魔物だからだ。


 レウスはその向かって来るギローヴァスに向けて、体内の魔力を少し解放しつつ脚に力を込めて地面を蹴る。

 魔力の解放によって普段とは比べ物にならない程の跳躍力を得る事が出来たレウスの身体は、一気にギローヴァスの顔の前まで飛び上がった。

 そのギローヴァスの眉間目掛けて、魔力を溜め込んだ槍を両手で構えて一気に突き刺した。


「ギヒイイイイイイイイッ!!」

「チッ、浅いか!」


 ギローヴァスの絶叫に鼓膜を破られそうになるのを我慢しつつ、レウスは狙いが浅かった事に対して舌打ちする。

 だが、レウスの魔力を乗せた槍の威力はこれで終わりではない。

 レウスは槍を両手でガッチリと握り締め、更に魔力を槍に注ぎ込んでやる。


「爆ぜろ、ハイパーエクスプロージョンッッッ!!」


 その魔力を槍の先端から解き放ちつつ大声で叫ぶと同時に、槍が刺さっているギローヴァスの眉間が爆発した。

 頭部をその爆発で吹き飛ばされたギローヴァスは、叫び声を上げる事も出来ずに身体をゆっくりと地面に横たわらせる。

 レウスはその衝撃で自由になった槍を手放さないまま、空中で姿勢をコントロールして地面に降り立った。


「ふぅ、ま……こんなもんだろ」


 額の汗を拭い、物言わぬ屍となったギローヴァスを見据えつつレウスは戦いが終わった事に安堵する。

 このハイパーエクスプロージョンはレウスが前世で使っていた必殺技の一つであり、強い相手にはかなり役に立ってくれた。

 今の身体でもこうしてしっかりと発動することが出来たので、腕は衰えてはいない様である。


 そう考えていたその時、後ろから複数人の足音が聞こえて来た。


「何だ今の爆発音は!?」

「こっちから聞こえたぞ!!」


 バタバタと慌ただしいその足音の主は、レウスがたった今倒したギローヴァスが現れたと知って駆け付けて来た町の自警団の人間達だった。

 そしてレウスとギローヴァスの姿を見て、やって来た人間や獣人達が一様に驚きの表情になる。


「お、おい……これってレウスがやったのか?」

「え、あ、まあ……無我夢中でやったら何とか勝てちゃったって言うか、はは……」


 自警団の人間達の質問に対して咄嗟の言い訳も思いつかずにそう言ってしまったレウスだが、その自警団の人間達よりも更に驚きの表情になっている人間達がやって来たのはすぐの事である。


「ちょっとちょっと、凄い音がしたけど一体何だったの?」

「あれって確かギローヴァス……え? もしかして貴方がこのギローヴァスを倒したの?」

「嘘……あんなランクの高い魔物を一人で倒すなんて貴方は一体何なのよ?」


 アレットも、それからエルザも他の騎士学院の生徒達もどよめきを隠せない。

 どうやら町の人間達の避難が終わった様で、一人で森の方に向かったレウスの事が気になって後を追い掛けて来たらしい

 しかし、それ以上に気になるこの現実をこうして作ったのは間違い無くレウス本人なのである。

 いずれにせよ、このギローヴァスを倒したという事実はしっかりと説明しなければ町の人間も騎士学院の生徒達も納得してくれそうに無いみたいだ。

 そしてこのギローヴァスの討伐を切っ掛けに、レウスの運命は大きく動き始める事になった……。

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[気になる点] 強いことを知られたくないなら、 倒した後何故すぐに逃げるなり隠れるなりしなかったのか せっかく人に見られない様に一人で向かったのに、 人が駆け付けるまで立ち尽くしてたら意味ないじゃん …
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