696.闇夜の砲撃
『う……ぐうううああああああっ!!』
「ちょちょちょ、ちょっとどうしたのよ!?」
「えっ、何ですの!?」
「お、おいどうした!?」
「凄く苦しんでいるわ!!」
四人の人間達の目の前で突然苦しみ出したアンフェレイアに対して、その人間達が駆け寄って様子を見たり回復魔術を掛けたりしようとする。
だがそれはどうやら一時的なものにしか過ぎなかったらしく、身をよじっていたアンフェレイアは徐々に落ち着きを取り戻して再び普通に会話が出来る様になった。
『はっ、はぁ、はぁ……っ!!』
「くっ、何がどうしてこうなったんだ!? とにかくもっと落ち着けそうな場所に移動を……」
『いや、場所を変えても同じ……』
「え?」
『それに私はもう大丈夫よ。これは肉体的なものでも無く、精神的なものでも無く、魔力的なものでの一時的な苦しみなの』
人間達には理解出来ない事を言い出したアンフェレイアが、光が落ちて行った方角に顔を向けながら説明する。
『この世界の魔力が色々な場面で使われているのは分かると思うけど、その魔力が余りにも一度に大量に失われると、世界の神である私の身体にダメージが来る。例えば戦争で万単位の人間や獣人が一気に死んでしまったり、今みたいに原因が分からないのに魔力がかなり失われたり……』
「じゃあその原因を突き止めるべきだと思うんだが」
『ええ。今さっきあの北の方角に向かって落ちて行った複数の光の帯。あれが絶対に原因よ。向こうの方から多数の魔力が失われるのが私に分かったから、とにかく行ってみましょう!!』
◇
ドッゴオオオオオオオオオオオオオン!!
「うっは!? 何だぁ!?」
村の中に用意された簡易宿泊所にてぐっすり眠っていたギルベルトは、その衝撃音で一気に起こされた。
意識が覚醒してベッドから飛び起き、窓の外を見てみる。するとそこには寝る前には絶対に無かった火の手が盛大に上がっていたのだ!!
「な、なななななな何だこりゃぁ!?」
愛用のハルバードを片手に急いで宿泊所の外へと出てみると、そこには既に自分と同じく今の盛大な衝撃音と火の手を確認して起きて来ていた、残りのパーティーメンバーの姿があった。
「あっ、ギルベルト団長!!」
「どうした、何があったんだ!?」
「わ、分からないんです! でもこれは明らかに異常事態です!」
普段は冷静な判断を下す事が出来るエルザも、いきなりの事と寝起きの頭で思考が全然追い付いていない。
同じく冷静な思考をするタイプのソランジュもそれは同じだし、他のメンバーはあたふたするだけである。
しかもそんなメンバー達に追い打ちを掛ける様に、今度は夜空を二つの光の帯が北と西に向かって駆け抜けて行く。
そしてまず、北の方からドッゴォォォォン……!! と音が聞こえたのに続いて西の方でもチュドオオオオン……!! とかなり小さくではあるが確かに聞こえた同じ様な音。
この二つの音が意味するものについて、最初に思い付いたのはドリスだった。
「ま、まさか……大砲で砲撃されているんじゃないかしら!?」
「えっ!?」
「だ、だって……前にもこんな事があったじゃない!!」
「あ……!!」
そこでギルベルトを除く他のメンバーも、ようやく思い当たる事があった。
唐突に起こった町中の大爆発に阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた、シルヴェン王国の王都のシロッコのあの惨状を。
あの時と同じく、いきなり何の前触れも無しに起こった大爆発、それから至る所で火の手が上がって消し炭になっている建物と言った光景は、まさしくルルトゼルがあの大砲によって砲撃されたと言って良いだろう。
そして、それを裏付ける証言が呆然と立ち尽くしているメンバー達の元に駆け寄って来たボルドからもたらされた。
「たっ、大変だぁっ!!」
「どうした、ボルド爺さん!?」
「あ、あの……何処からか謎の光がいきなり四地区全てに落ちたんだ!! 空を見回っている鳥人達からの報告で、それぞれの地区がかなりの被害を受けているらしいんだよ!!」
「な……何だってえ!?」
「くそっ、多分これもまたカシュラーゼの仕業だな!!」
思わず歯軋りをするソランジュだが、今はそんな事よりもまず目の前の惨劇を終わらせなければならない。
それはギルベルトも同じであり、急いでメンバー達に指示を出す。
「とりあえず、まずはこの南地区の救助から始めるぞ!!」
「は、はい!!」
「水属性の魔術が使えるアレットは、主に消火活動の手伝いをしてくれ! それから残りの俺達は逃げ遅れている獣人達の救助だ!! それからボルド爺さんは他の地区にも向かって、何が起こったのか状況を把握して来るんだ!!」
「分かった! それじゃここは頼んだよ!!」
それぞれが役割分担をして行動を開始したのだが、そこでメンバーが足りないのをようやく把握したアレット。
(あれ……そう言えばレウスとサイカとアニータとティーナは何処行っちゃったのかしら? それからアンフェレイアもこんな時に何をやっているのよぉ!?)
この非常事態にこの場に居ないメンバー達に対して怒りをにじませながら、アレットは消火活動に向かった。