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66.海を渡って

 海を渡ってソルイール帝国に入った三人は、ベルフォルテの町へと次の日の朝に辿り着いた。

 何とか指名手配される前にこうしてソルイール帝国へ逃れる事が出来たのは良かったが、まずはギルドで依頼を探そうと提案するアークトゥルス……いや、レウス。


「俺は勿論アークトゥルスじゃなくてレウスとして依頼を探すけど、二人はどうする? 俺達三人とも別々の依頼を受けるか? それとも三人で纏めて受けられる依頼にするか?」

「うーん、そうねえ……まだ魔術が使えないって事を考えると、魔術が使える様になるまでは戦う事を必要としない依頼を三人で纏めて受けましょうよ」

「そうか。エルザは?」

「私もそれで良い。こうしてあのウォレスの部下達から奪い取って武器を色々と調達して来たから、とりあえず何かあった時の為に弓と……それから短剣をアレットに渡しておこう」


 そう言いながら、担いでいた袋の中に入っている弓と矢と数本の短剣をアレットに渡し、自分も短剣を赤いコートの下に隠すエルザ。

 それを見て、レウスは思わず苦笑いをこぼした。


「そういうの、結構抜け目無いんだな」

「何を言うか。それは貴様もお互い様じゃないのか? その腰の二振りの、どちらも鞘に収まっているロングソードは何なんだ?」

「あ、いや……これは……現地調達です、はい」

「だったら人の事を言うんじゃない」


 エルザに指摘された通り、レウスはウォレスと戦った時に槍の代わりに使っていたロングソードにプラスしてもう一本、鞘も含めてロングソードを持って来ていた。

 機動性を考えて余り多くは持ち歩けないのだが、それでも武器があると無いのとでは大違いだ。

 しかも、エルザが持って来ていたのはそれだけでは無かった。


「ああそれと、他にも解毒剤とか治療薬とか金属のアクセサリーとか色々と役に立ちそうな物を持って来たぞ」

「おいおいおいおい、それって泥棒じゃねえか」

「ああ、泥棒だな。しかし私達はあのまま黙って従っていたら何をされるか分からなかったんだぞ。少し位こういう事をしてもバチは当たるまい?」

「……騎士見習いの発言とは思えないわね」

「じゃあ今渡したそれ、返してくれるか?」

「あ、いえ……有難く使わせて頂きます」


 武器も薬も金もあるに越した事は無いので、持てる分だけ色々と持って来たエルザだったが、レウスとアレットにしては複雑な心境である。

 しかしこんな所でこんな事でああだこうだと言っている場合では無い。

 まず、酒場のマスターからアレットが聞いた話で間違いが無ければセバクターはここに来た筈である。

 なので再び手分けしてセバクターやあの赤毛の二人の情報を手に入れるべく、この港町ベルフォルテで散り散りになる三人。

 だが、レウスにとっての修羅場がこの後に待ち受けていたのである。



 ◇



「おらおらあ、良いぞやっちまえ!!」

「てんめえええ、ぶっ殺すぞ!!」

「やれるもんならやってみろよおらあっ!!」

(な、何だあれは……)


 ベルフォルテ港の市場を中心に情報を集め回っていたレウスは、怒鳴り声やら叫び声やらが聞こえて来る方向へ目を向けた。

 どうやらタチの悪い酔っ払い同士が喧嘩しているらしく、周りの人間や獣人達もそれを止めるどころかはやし立てる者ばかりだ。

 この港の名物の一つなのかも知れないし、ギャラリーの様子からすると日常茶飯事なのかも知れないが、余所者のレウスにとっては非常に迷惑極まりないので関わらない様にして通り抜けようと歩くスピードを上げる。

 だがそれが運の悪い事に、殴り飛ばされた酔っ払いの一人が殴られてぶっ飛んで来た先にレウスが居るシチュエーションになってしまった。

 そうなれば、当然……。


「うおあっ!?」

「ぐほっ!?」


 酔っ払い達の方に目を向けたらどんな言い掛かりをつけられるか分からなかったので、見ない様にして通り過ぎようとしたのが逆にいけなかった。

 横から突然襲って来た衝撃にレウスは成す術も無く吹っ飛ばされてしまい、左半身に鈍い痛みが走る。


「いってえ……」

「うう……ぐう、くそっ……おいコラッ、てめえ何処見て歩いてやがる!!」

「ぐはっ!?」


 完全にレウスは被害者なのに、その被害者を更に酔っ払いの大男は全力でぶん殴る。

 とばっちりを食らってこっちは倒れたのに、そんな人間を殴りつけるなんてもう許せないし黙っていられない。


「おい……余り調子に乗るんじゃないぞ? 酔っ払ったら何をしても良いと思っているのか? 暴力は犯罪だぞ?」

「ああー!? てんめぇ、こっちが大人しくしてりゃ良い気になりやがってえ!!」

「大人しくしていないのはそっちの方だろうが。俺はただ歩いていただけだ。そこにあんたがぶつかって来た。しかもおまけに殴られているんだこっちは! 悪いのはどう考えてもそっちだろう!?」

「何をこのやろお!? おいみんな、こいつやっちまおうぜ!!」


 ああ、やってしまった。

 関わり合いになりたくなかったのに、気が付けば売り言葉に買い言葉でトラブルに巻き込まれてしまった。

 口々に雄叫びを上げながら向かって来る酔っ払いの男五人に対して、レウスは持っていた槍を構えた。

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