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65.不思議な感覚

 一夜明け、三人は朝食を摂ってから港に向かった。

 事前に聞いていた情報通り、緑色に塗られたマストが設置されている船を探して乗り込む。


「さってと、これに乗り込んでしまえば後はソルイール帝国まで一気に行けるな」

「そうね。でも……この先の事を考えないと私達の向かう先が分からないわよ」

「向かう先?」

「そうよ。私達がこの先、何をすべきかって事を考えなきゃ。だってそうでしょ? 私達は誘拐されてここに来たんだもん。しかも指名手配されていて学院には戻れなくなっちゃった。だったらこれからどうするの?」


 ゆっくりとした速度でタニーの港から離れて行く船の上で、遠くに広がる水平線を見つめながらアレットがレウスとエルザに聞いた。

 その二人の内、先に口を開いたのはレウスだ。


「そんなの決まっているだろ。俺達を容疑者扱いする原因に至った、セバクターを追い掛けて捕まえて事情を聞く。もしセバクターとあの赤毛の二人組が手を組んでいたとしたら、そいつ等も一緒に捕まえる。そしてギルベルト騎士団長やエドガーさんの前に突き出すんだよ」

「私もそう思うぞ。ただ、その為には先立つ物が無いとな。手持ちの金には限りがあるし、ギルドで依頼をこなして稼ぐのが一番手っ取り早いだろう」

「ギルドか……うん、それしか無いかもね」


 成り行きでこんな事になってしまった以上、今はとにかくリーフォセリアを離れるだけだ。

 サンドワームが我が物顔でのさばっているバランカ砂漠を回避して、船に乗れたのは不幸中の幸いと言える。

 あの薬で封じられてしまったせいでまだ魔術が使えない以上、無益な戦いは避けたい。

 レウスもこの時代に転生して来てからギルドの存在は知っている。依頼には魔物退治等の戦うタイプのものだけでは無く、民家の雑用の手伝いとか薬草の材料の採集とかの戦う術を持たない人間用の仕事も数多く存在している。

 そうした依頼をチマチマとこなし、当面の間は凌ぐしか無いだろうと考えている彼の隣で、不意にエルザがアレットと同じく水平線を見つめて呟き始めた。


「でもさ、不思議な感覚だよ」

「何が?」

「こうして、五百年前の勇者アークトゥルスと一緒に過ごしているなんて」

「あ……そう言えば今までずっと忘れていたけど、貴方って確か勇者アークトゥルスの生まれ変わりなのよね!?」

「馬鹿、声がでかいぞ!!」


 驚きの顔でとんでもない事を言い出したアレットの口を、思わず片手で塞ぐエルザ。

 幸いにもデッキには三人以外の姿が見えなかったので、ゆっくりと口から手を放してアレットに続きを促す。


「……で?」

「あ、ええと……だから私もエルザと同じ意見だって事よ。アークトゥルスって言えば五百年前にあの破壊の化身って言われているドラゴンを倒した勇者の一人だから、私達にとっては雲の上の様な存在よ。でも……今はまだ半信半疑だけどね」


 しかし、レウス……いやアークトゥルスは戸惑いの色を隠せない。


「それってあのウォレスって奴から聞いたのか?」

「そうね。あの人と部下の人達が話してたからそれを私とエルザが聞いたのよ」

「本当かそれ?」

「ああ、本当だ。私とアレットは確かに貴様がアークトゥルスの生まれ変わりだと聞いた。人間や獣人が転生するなんて見た事も聞いた事も無いが、貴様が訓練場で恐ろしい威力の魔術を使っていた事から始まって、私と一緒にあの黒いドラゴンに立ち向かった時の魔術。そして……私やセバクターとの手合わせを思い返してみれば納得が行く」


 数々の活躍を思い返しながら納得するエルザの横で、アレットも彼女に同意する。


「そうよね。最初に出会った時から魔力がかなり多い様な気がしていたけど、伝記によれば勇者アークトゥルスは常人の十倍の魔力を持っていたとあるから、そう考えると辻褄が合うし。そしてバランカ砂漠の昔の姿……バランカの街と言うのがどんな所なのかをスラスラと言えていたのも、アークトゥルスだって動かぬ証拠よね」

「あ、ああ……そうだな。お前達の言う通りだ。俺は五百年前の世界から転生して来た、アークトゥルスだよ」


 以前に話の流れで一度認めていた気もするが、ここまでの証拠を突き付けられれば改めて認めざるを得ない。

 そして、自分の正体を知っているのは二人の他に騎士団長のギルベルトや国王のドゥドゥカスもそうだと伝えた。


「でも……あのウォレスとその部下達が貴方の正体を知っていたのは、何処からかその情報が漏れたって事よね?」

「確かにそうだな。ウォレスは誰かからの依頼を受けて動いているって話していたから……そこから漏れたんだろうな。でも大体見当はつくけど」

「私も同じだ。多分セバクターかあの赤毛の二人から漏れた線が高い。赤毛の二人は分からないが、セバクターは騎士団長のギルベルト様との面識もあるし、情報が共有されていてもおかしくない」

「え……じゃあギルベルト様もあの人達の手先!?」

「それは分からない。ただ、今回の俺達の指名手配をしたのがあのギルベルトだろ? だったらセバクターやあの赤毛の二人と繋がっていても変じゃないって事だよ」


 複雑な思いを抱えた三人を乗せて、ソルイール帝国行きの船はゆっくりと進み続けた。



 三章 完

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