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60.戦力外通告

 しかし、そのサンドワームの話は今の自分達にとってはどうでも良い事である。

 何故なら、レウス達が向かうのはそのバランカ砂漠では無くて王都カルヴィスだからだ。

 今の自分達が何処に居るかが分かっただけでも、カルヴィスからどれ位の時間を掛けてここまで来たかが推測出来る。


「ここからカルヴィスまでどれ位掛かりそうなんだ?」

「ここからだと……そうだな、かなり離れているから大体三日は掛かるだろうな」

「え……とすると俺達はかなり長い時間、意識を失ったままここに運ばれて来たってのか?」

「どうもそうらしいな。どうやってこんなに長い距離を私達を一度も起こす事無く走破したのかは分からないが、私達が三人揃ってここまで来てしまったのは間違い無いだろう。とにかく今はこの場所をアジトにしていたのかも知れないウォレス達を倒したんだし、カルヴィスに戻らなければな」

「そうだな。俺達が居なくなったと知ったら学院の連中はかなり心配していると思うし」


 だが、その傍らではアレットが魔法陣をデスクの上に描いている。

 その行動の意味が良く分からないレウスに対し、エルザはハッとした表情になった。


「あ、そう言えばそれがあったわね」

「そうよ。私達三人だけじゃ無事に帰れるかどうか分からないから、学院の人に連絡をして何処かで迎えに来て貰った方が安全ね」

「確かにな」

「おいおい、二人だけで納得しないでくれ。一体何をするつもりなんだ?」

「さっきも言ったと思うけど、ここで通話魔術を展開して連絡を取るのよ」


 それを聞いて、レウスは自分の身に起こっている事を先に伝えるべく口を開く。


「なあ、アレットは魔術が使えるのか?」

「ば、バカにしないでよ……これでも私は魔術師の端くれよ!!」

「いや、そうじゃなくてその……すまん、言葉が足りなかった。ここに来て一回でもアレットは魔術を使ったか?」

「ああ、そういう事ね。ううん、これから使う魔術が初めてよ。だってこの建物の中に居る敵はレウスが全員撃破してくれたんでしょ?」

「えっ、それは確かにそうだけど……違和感は無いのか?」


 自分があのウォレスに何かをされて魔術が使えない状態になっているので、同じ話がもしかしたらアレットとエルザにも起こっているかも知れないと考えての確認。

 しかし、そのレウスとアレットのやり取りを聞いていたエルザがキョトンとした顔でレウスに向かって口を開いた。


「何か不安な事でもあるのか?」

「不安しか無いよ。アレットが魔術を使えるかどうかが分からないんだからさ」

「さっきからずっとそう言っているが、一体どうしたんだ?」

「いや、どうやら俺……あのウォレスって男に何かをされて魔術が発動出来なくなっているんだ」

「そうなのか?」


 見た目には何も変わり無いけど……とエルザもアレットもレウスの全身を眺めて首を傾げる。

 そんな女二人を見たレウスは、論より証拠とばかりに自分で魔術を使ってみる。


「んー、実際に見て貰った方が早いな。だったらこの窓の外に向けてファイヤーボールを撃ってみようか」


 そう言いながら窓をバンッと開けて、外に広がる空に向けて右手を突き出したレウスは意識を集中し、手の平に魔力を集めて叫んだ。


「全てを燃やし尽くせ、ファイヤーボール!!」


 しかし、その叫び声だけが空しく部屋の外に向かって響き渡るだけで何も状況は変わらない。

 本当ならこの叫び声と共に紅蓮の炎がボールとなって手の平から飛び出す筈なのだが、今のレウスは魔術が使えなくなってしまったのでこれが正常なのだ。

 そしてエルザとアレットにとっては異常事態である。


「えっ、ちょっと……どうしたんだよ?」

「魔力の流れを一切感じないわ。これは魔力が手に向かって集まっていない証拠よ。貴方……何かされたの?」

「それが分からないままこうなってしまっているからどうしようも無いんだ。仮にこの先、俺がバランカ砂漠のサンドワームと戦う事になったら勝てる確率なんて無いだろうよ」


 ウォレスとのタイマン勝負の前に、自分の身体に何かをしたから魔術が使えなくなったと言われたのは覚えてるんだけど……とレウスが言えば、エルザもアレットも苦々しい顔になった。


「そうだとしたら私達も同じ事になってしまっているかも」

「とりあえず、試しにその通話魔術を展開してみたら使えるかどうか分かるかも知れないぞ」

「うん、分かったわ」


 レウスに促され、改めてアレットは通話魔術用の魔法陣をデスクの上に描き切って魔力を注ぎ込むべく手をかざした……が。


「……あれっ!?」

「おいおいおい、お前まで止めてくれよアレット?」

「いや、私は一生懸命魔力を送っているつもりなんだけど……あれー? おっかしいな、普通だったらそろそろ通話魔術が使える筈なんだけど……あれえ?」

「くそっ……その様子だとどうやら俺だけじゃなくて、エルザとアレットにもあのウォレスって男は何かをしたらしいな」


 何と、レウスの悪い予感はどうやら的中してしまった様である。

 自分はともかく、魔術師であるアレットまで魔術が使えないのであれば、彼女はもはや戦力外通告を受けたも同然となってしまったのだから……。

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