59.砂漠の記憶
「レウス……あ、今はアークトゥルスさんって呼んだ方が良いのかしら?」
「別にレウスのままで良いよ。ってかもっと喜べよ。再会したんだからさ」
三階の奥にある大きな部屋……どうやらここはこの大きな建物で一番偉い人が仕事をする場所だったらしいのだが、そこでガサゴソと探し物をしているのが、こちらも久し振りに会った気がするアレット・レナールだった。
だが、彼女のリアクションは何だか薄い。
「久し振り……って、ここで目覚める前に学院で一緒に片付けしてたからあんまりそうは思わないわよ。それよりも今は頭の中がパニックだからね。まずやるべき事を整理しましょう」
「そうだな」
「とりあえずこの現状を把握して、学院に伝える為にここにあった紙とペンを使って私なりに纏めてみたの。そしてそれを通話魔術で学院に伝えようと思って。だけど、まずは大体それで大丈夫か確認して欲しいのよ。それに、数は少ないけど誰かとやり取りしていたのを書き留めたメモも何枚か見つかったし、情報としてはかなり正確だと思うけどね」
「ん……分かった」
レウスとエルザはアレットが調べた事を纏めた紙に目を通す。
そこには箇条書きで、この建物がある場所の事やあのウォレスが何者なのかが書かれていた。
「ええーと、まずは……私達を誘拐したのはどうやらセバクターとヴェラル率いる集団から依頼を受けた、彼等を慕っている裏社会の有力犯罪集団がやったらしいな。そしてレウスが言っていた通り、あの茶髪の……何だっけ、名前?」
「確かウォレス……だったかな?」
「ウォレスか。……あ、すまん、名前がその後に書いてあった。ウォレスがリーダーだと。そして学院の中にウォレスは自分の部下を何人か潜入させ、生徒達の寮の見取り図を盗み出してある程度の教室の位置や間取りを把握し、私達を誘拐したらしいな」
「俺、一回あのヴェラルって男とは目が合っているからな。俺の部屋は多分分かっているだろうから俺を狙うのは頷ける。だが……何でアレットとエルザまで狙ったんだ?」
「そこまでは分からないが、それだけの理由があったのは確かだろうな」
どうやらレウスを誘拐する話の他にも、セバクターとヴェラルから指令を受けてウォレスが動いていた様だ。
そのヴェラルとは通話魔術システムでここから連絡を取り合っていたらしい。
気になるその場所はと言うと……。
「えっ、ここってタニーの港町なのか!?」
「何処だそれは?」
「隣国であるソルイール帝国との国境にもなっている、バランカ砂漠のすぐ近くにある港町だ。と言う事は王都カルヴィスから相当離れた場所まで私達は連れて来られてしまったらしいな」
「そうなのか……俺は地元と王都しか知らないから分かんないぞ」
「何だよそれ……」
エルザがそう言いながら絶望感漂う表情を浮かべるが、あいにくレウスはこの時代において、自分の生まれ育った田舎町と王都カルヴィス以外に出た事が無かったので位置がピンと来ない。
彼のその困惑した表情と、今までのやり取りを横目で見ていたアレットが引き出しから新しく紙を取り出してそれに簡単な地図を描き始める。
「ええと、この形が私達の居るリーフォセリア王国ね。で、ここが王都のカルヴィス。その横にこうやって大きな山があって、そこからずーっと右……東に向かって進むと砂漠があるのよ。バランカ砂漠って言って、今エルザが言っていた通り隣のソルイール帝国との国境の役目も果たしているのよ」
そこまでアレットの説明を聞いていたレウスが、アークトゥルス時代の記憶を唐突に思い出した。
「バランカ砂漠って……ああ、そういや五百年前にでっかい街があった場所じゃねえかよ!!」
「えっ、そうなの?」
「そうそう。と言ってもその時は砂漠の中に大きな街があって、そこが交易拠点の一つになっていたんだよ。バランカ砂漠自体は五百年前からずーっと今でもあるんだな。何だか懐かしいや。で、そのバランカ砂漠の中にあるのがバランカの街……なんだけど、今もあったりするのか?」
「ううん、今は砂漠がずーっと広がっているわよ。でも古代の大きな遺跡があって、そこで調査が行われているんだけど大きな魔物が邪魔していてなかなか捗ってないみたいなのよね」
「魔物……あー、もしかしてあいつかなぁ……」
遺跡の調査を妨害する砂漠の魔物と聞き、レウスにはそれが何なのか一瞬で心当たりに辿り着いた。
「それ、多分そこの主だよ」
「ヌシ?」
「そうそう。俺が倒したギローヴァスがあの森の主だった様に、魔物達が集まる場所には必ずと言って良い位にその魔物達を束ねるリーダー的存在の魔物が居る。ここまでは騎士団の授業で習ったりしたか?」
「ああ、それは知っているぞ」
「なら話は早い。バランカ砂漠の主はサンドワームだ。それも凄くでっかい奴なんだけど、これが非常にしぶとい奴でさ。攻撃して来てこっちが反撃しようと思ったら砂の中に逃げ込みやがる。そしてまた砂の中からいきなり現れて、大きな穴を作ってそこに敵を引きずり込む厄介な奴が居るんだよ、あそこにはさ」




