598.得られた情報
登場人物紹介にアーシア・マリピエロを追加。
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「五、四、三、二、一……ゼロ」
「ぎゃあああああああっ!?」
前の二本とは比べ物にならない大きさの悲鳴が、木々の間に木霊する。
それを見ても冷静な表情のまま、アニータは女に向かって呆れた様な口調で話を続ける。
「私はね、無駄な行動が嫌いなの。これ以上この私に同じ質問をさせる様であれば、次は指じゃなくて左腕の関節を折るわよ?」
「う……うっ……」
「で、このメモの内容は一体何なの? これだけの内容を答えるだけなのに、これ以上骨を折られたり、関節を逆方向に曲げられたいの?」
「わ……分かったわよ、言うわよ!!」
これで三本目。
中指を折られ、次は腕をへし折ると言い出したアニータに対して流石に恐怖感を覚えたのか金髪の女は質問の内容に答え始めた。
「その内容は……確かにルルトゼルの事に関する話よ」
「もっと詳しく」
「一か月後にルルトゼルを襲撃するって言う話だったわ。でもそれ以上の事は何も分からない。何でルルトゼルを襲撃するのかって言う話になったのかも分からないし、私は単純にこの拠点のリーダーを任されているだけの人間だから、それ以上の話はリーダーから回って来ていないの」
「最初からそうやって素直に答えていれば良いのよ。それじゃ次の質問。貴女の名前は?」
「……アーシアよ」
その名前を聞いて、傍らに居るドリスの表情が明らかに変わった。何故ならその名前にはつい最近、聞き覚えがあったからである。
「えっ!? アーシアって確か……レウスがあのロンダールで出会ったって言っていた、あのヴァーンイレスのアーシア……」
「違うわ」
「はい?」
まさかそのアーシアがこんな場所に居るなんて、と驚きを隠せない様子のドリスに目を向ける事もせず、アニータは冷静にそれだけ呟いて違和感を覚えた事を告白する。
「今、目が泳いだ。アーシアって言うのは偽名だと思うわ」
「何でそんな事が分かるのよ?」
「分かるわ。これのここを見て」
「ん~?」
ドリスがアニータから差し出されたのは、アーシアと名乗った女がアニータに突き刺したナイフだった。
刃の部分には血がついているものの、柄の部分には血が少し飛んでいるだけに留まっている。
それを見せられたドリスだったが、その柄の部分を良く見てみると何かの文字が刻まれている事に気が付いた。
「あら、これは……名前かしら?」
「そう。わざわざこんな自分の名前を彫るなんて事をするなんて、普通の武器にはしないわ。誰かから贈り物として貰ったナイフか、それとも自分の愛用している武器だからこうやって名前まで彫ったのか……いずれにしてもこれを貴女が使っていたとなると、これは貴女の持ち物よね」
「……」
苦虫を嚙み潰した様な表情を浮かべる金髪の女の表情を見て、アニータが言っていたのは本当だったのかとドリスも納得する。
そして改めて、ナイフの柄に彫られている文字からこの金髪女の本当の名前が判明した。
「ミリス・ジネヴラ・カセッラ……これが貴女の本名って訳ね」
「そうなるわね。でも、今の流れでもう一つ疑問に思った事があるわ」
「え、何?」
一体今の会話から何を感じたのだろうと、それこそ疑問に思うドリスに向けてアニータは淀みの無い口調で答える。
「この女から、アーシアって名前が出て来た事よ」
「そこ?」
「そこ。アーシアって名前は割と一般的だけど、適当に考えた名前にしては余り出て来ないと思うわ。それにこれは私の推測だけど、自分が金髪だから同じく金髪のアーシアの名前を咄嗟に思い付いた可能性も考えられるわ」
「そ……それは深読みし過ぎだと思うけど……」
ドリスは苦笑いを浮かべながら、そのアーシア改めミリスに目を向ける。
しかしミリスの方はと言えば悔しそうで、それでいながら何処か心の中では諦めた様な……そんな何とも言えない表情を浮かべているのが印象的であった。
「えっ、まさか本当なの?」
「かも知れないわね。こんな表情って、余り狙って出来る様なものでも無いし」
もしそれが本当だとしたら、アーシアと名乗ったのにも理由がある筈だ。
それは恐らく、先程ドリスが思わず口走ってしまったレウスからの情報共有の中に出て来た、ヴァーンイレスのサィ-ドの幼馴染みがこのブローディ盗賊団と何か関係があるからこそなのかも知れない。
『その二人組なんだけど、何だか複雑そうな表情をしていたって言うのも話した筈だ。もしかしたらブローディ盗賊団と繋がりがあるかも知れない。万が一って事も考えられるが、もし俺達がこれから向かう拠点でその二人に出会ったら、生け捕りにして色々と情報を聞き出すんだ!』
(そう言えばレウスがこんな予想をしていたわね。自分達の故郷ヴァーンイレスが完全解放に向かって動き出していると言うのに、あの表情には何か引っ掛かるものを感じた……って)
ここに来る前のレウスのセリフを思い出し、ドリスはこのミリスを始めとするブローディ盗賊団が本当にコルネールとアーシアも仲間に引き入れたのでは? と不安な気持ちが心を徐々に支配して行くのが分かって身を震わせた。
あのルルトゼルの事を記載したメモもあるのだし、これはもっと話を聞かなければならない様である。




