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596.手掛かり探し

「ぬぐぉ!?」


 それでも刺されたまま終わる訳も無く、アニータは女を両手で突き飛ばしてから右のハイキックで女の顔面を蹴り飛ばして地面に倒れ込ませる。


「ふぅ、ふぅ!」


 しかし、アニータが突き飛ばした女はナイフを握ったままだったので、突き飛ばしたと同時にナイフが身体から抜けてしまった。

 そのナイフを抜き取られた脇腹からはじわじわ血が出て来ている。

 それを見て、これは早く勝負を決めないとまずいと感じたアニータは、起き上がろうとしている女に目掛けて全力で飛び掛かる。

 その後ろにあるのは、落下防止の為に造られている塀の低くなっている部分。

 塀は上下にジグザグになる様に造られており、低くなっている場所にはアクセントとして金属製の柵が設けられている。

 その柵の一つに向かってアニータが女を抱きかかえつつ、その勢いのまま押し付けて砦の下に投げ落とした。


「きゃ……きゃあああああああっ!?」


 一瞬、自分の身体に浮遊感を覚えるアニータ。

 その後に地面に引っ張られる感覚を覚え、空中で手足をバタバタと激しく動かしてみるもののそれも無駄なあがきに終わり、背中から地面に叩きつけられてしまったのだった。


「ふう……」

「おーい、アニータ!! 無事だった!?」

「何とかね」


 声のする方を見ると、ドリスが返り血を浴びながらも手を振ってアニータの元にやって来た。

 どうやら無事らしいのを確認すると同時に、先程自分がナイフで刺された傷がジワジワと痛み出して顔をしかめる。


「あらっ、怪我しているじゃない!!」

「こんなの……こうやって回復魔術を掛けておけば平気。それよりもそっちは怪我とかは平気なの?」

「私? かすり傷程度だから平気。それよりもさっきの弓使いは見つかったの?」

「うん。もう下に落としたわ」

「え?」


 そう言いながらアニータが、先程自分があの女を突き落とした場所から下の方を指差してみる。

 するとそこには、ピクリとも動かずに横たわっている金髪の女の姿が見えた。


「……あれ、貴女が落としたって言う弓使いの女?」

「そうよ。だから何か持っているかもしれないわ。もしかしたら盗賊団の他の拠点のヒントとか、仲間の情報とか、それこそ前から探しているエレインやライオネルの手掛かりとかがね」


 だからさっさと下に降りて探しに行くわよ、とアニータがスタスタと歩き出すのを見て、ドリスはふとこんな事を考えてしまった。


(罪悪感って何だっけ……?)


 戦場ではそんなものを感じていたら活躍出来ないし、生き残る事も出来はしない。

 生と言うものは、幾つもの犠牲の上に成り立っているものなのだと昔、自分の父親から聞かされた事があるドリス。

 だが、こうして戦いが終わってみるとふとその罪悪感にさいなまれる事があるのだ。

 それでも今は前を向いて進んで行くしか無いので、ドリスはアニータの後に続いて砦の下へと下りて行った。



「……死んでいるの?」

「いや、気を失っているだけよ」

「そう。だったら色々と聞き出せそうね」


 地面に落ちた時のショックで気絶したらしいのだが、ふとこの名前も分からない金髪の弓使いの女の周りを見たドリスが、彼女の身体の周りに木片が散らばっているのに気が付いた。


「あら、この木の欠片は何なのかしら?」

「ああ……それならあそこに残骸があるわよ」


 そう言いながら指を差すアニータのその指の先には、一部が粉々に砕け散っている木箱の山があった。

 それに思いっ切り叩き付けられた後にゴロゴロとここまで転がり、彼女は気絶してしまったらしい。

 とりあえず女同士なので遠慮せず、まずは胸や尻も含めて全て持ち物を検査。

 それから下まで下りて来る時に発見したロープで、この身体検査の終わった弓使いの女を手近な木に縛り付けておく。


「目ぼしい物はあったかしら?」

「ええと……特に何も無いわね。気になると言えばこのメモだけかしらね」


 そう言いながら取り出されたメモをドリスに見せられ、その中身に目を通し始めるアニータ。

 すると、そこには妙な事が書かれている。


「一ヶ月後までにルルトゼル……これしか書いていないわね」

「どう言う意味かしら?」

「さぁ、私に聞かれても困るわ。書いた本人にしか分からない事もあるからね。でも大体の予想はつく」


 一ヶ月と言う長い期間を掛けなければならない事、ルルトゼルと言う人間を忌み嫌う村の名前、そしてここがブローディ盗賊団の拠点なのを全て考えると、恐らくこのメモは彼女も参加するであろうルルトゼル関係の作戦の何かだろうと分かった。


「今の時点で考えられるのは襲撃か……それとも一ヶ月と言う長い期間があるから大砲でその村を狙い撃つつもりなのか……」

「どちらにしてもそれをさせてしまう訳にはいかないわ。それをさせてしまったらますます獣人と人間の対立が激しくなってしまうわよ!!」


 どちらかと言えば、あの大砲を自分達が壊してしまったのでその事情が伝わり、こうしてメモに書き留めたのだろう……と考えるアニータ。

 しかしまだそれが本当かすら分からないので、今度はこの弓使いの女を叩き起こして話を聞き出す事に決めた。

 メモの事も含め、詳しい事情は本人から聞き出すのが一番信憑性が高いからである。

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