595.拠点のリーダーとの戦い
意気込むドリスと、鼻血が止まって後から追い掛けて来たアニータの二人で砦の中の制圧戦が開始される。
確かに相手は大人数ではあるものの、それ程大きくない砦である為にここの拠点を使用している人数で言えば少ない部類の様である。
更に砦の通路も人が四人横に並んで一杯になってしまう広さしか無いので、そうした場面ではアニータの弓がその利点を活かして活躍する。
「ぎゃっ!」
「ぐえっ!!」
狭い直線の通路となれば、一直線に飛んで行く矢の餌食になりやすいのは当たり前である。
アニータにとっては、こうした狙いをつけやすい大きな的が前方からどんどんやって来るシチュエーションはまさに「入れ食い」状態。
その一方で、前衛を担当しているドリスはアニータの邪魔にならない様になるべく体勢を低くして戦っていた。
(敵の足を潰せば、それだけで機動力は大幅にダウンするわ!!)
歩く、走る、跳ぶと言った、人体の運動の動きのほとんどを担っている下半身をなるべく潰す事によって相手の動きを鈍くしてから仕留める。
ちなみに元々これはドリスの戦い方ではなく、姉のティーナが良くやっている戦法である。
ドリスの場合は姉のロングソードと違って、使っている武器がハルバードなのでこの狭い一直線の通路では敵の足を払うのも突き刺すのもかなり楽だ。
そんな状況で順調に進んでいたドリスとアニータの目の前に、何時の間にか屋上への扉が現われた。
「どうやら、この先が屋上になっているらしいわね」
「拠点のリーダーらしい人物は居なかったみたいだけど、もう倒しちゃったのかしら?」
そう言いながら屋上に出てみる二人だが、そこには予想と違って誰も居ない。
本当にもうここの拠点は制圧してしまった様だ。
となればここにもう用は無いので、だったらさっさとレウスを始めとする他のメンバーに連絡を入れてから王都ロンダールに戻ろうと思っていた二人の元に、突然何処からか矢が飛んで来た。
「っ!?」
「なっ!?」
ドリスとアニータは咄嗟に周囲を見渡す。アニータは弓を下ろしているので勿論彼女が放った矢では無い。
となれば何処かに敵の弓兵が居ると言う話になり、自分達がその弓兵に狙われているとなれば排除しなければいけない。
その飛んで来る矢は一本だけでは無く、少し間を置いてではあるが何本も飛んで来た。
確実に自分も狙われているのだと緊張感が高まる二人だが、その矢の攻撃が合図となっていたのだろうか、砦の屋上の至る所から敵が姿を見せ始めた。
「くそっ、待ち伏せよ!!」
「弓兵に気を付けて!! まだ何処から狙われているか分からないわよ!」
だったら、その矢を放って来ている奴を探し出してさっさと仕留めなければ、自分が穴だらけになってしまう。
戦っているのは自分達二人だけではなくて敵も大勢居るのだが、その中できちんと自分達二人を狙う事が出来ると言うのならば、それこそかなりの弓の使い手であると言うのがイメージ出来るアニータ。
この屋上は割と広い上に、落下防止で高い塀に囲まれジグザグに入り組んだ通路の造りをしているので、身を隠せそうな場所は幾らでもありそうだ。
(何処かに身を隠すのが一番ね)
そう考えたアニータが場所を移動して、隠れて体勢を立て直しつつ狙撃をしようと後ろを振り向いたその時、いきなり身体に衝撃が走った。
「うぐっ!?」
自分が何者かに思いっ切り体当たりされたのだと分かったのは、自分の身体と密着する様に目の前に誰かの髪の毛が見えたからである。
その体当たりして来た人物は、金色の髪の毛の……。
(……女?)
髪は長いが胸が余りにも無い。
最初に目に入った金髪、それから次に視界に飛び込んで来た赤い服。色合い的にかなり派手なのが分かるそのいで立ちをしている女の背中には弓が背負われている。
(弓兵……!)
アニータには一瞬で分かった。
この体当たりして来た女こそが、さっきから自分達を狙撃して来ていた弓兵なのだと。
しかし弓本体と同じく、彼女の背中に背負われている矢筒にはもう矢が無い為、矢が切れて仕方無く接近戦闘に移行したと言う所だろう
その弓兵は体当たりで倒れたアニータに飛び掛かって、屋上の地面に身体を押さえつけて来た。
「ぐお、むぅ!!」
「向こうのハルバード使いの女も、それから貴女も逃げ足が速いですね。私の矢をことごとくかわすとは」
「……っだらぁっ!!」
喋り続ける女をアニータは渾身の力で押し返す。どうやら着痩せ等では無く、肉付きに関しては貧弱らしい。
そして押し返された女は、自分の本来の武器である弓の代わりに懐から一本のナイフを取り出した。
「抵抗しても無駄です、諦めなさい!」
「盗賊団の分際で何を言っているのよ。抵抗しても無駄なのはそっちよ!」
その会話でバトルがスタートした。
女はナイフを振りかざして向かって来たが、アニータは冷静にその攻撃を見切りつつ反対に女の腹にミドルキック。それからすかさず女の顔面に左のパンチを叩き込んでやった。
先程、アニータがドリスにやられたのと同じ事である。
「ぐほっ!!」
だが何とか踏ん張った女は、次に繰り出されたアニータの左回し蹴りを回避し、懐に飛び込んでアニータの脇腹にナイフを思いっ切り突き刺した。




