592.接近方法
登場人物紹介にコルネール・シュトルンツを追加。
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その後も隠密行動を徹底するドリスとアニータは、見張りの息の根を止めたりたまにやり過ごしたりを繰り返しながら平原を進み、砦に近づいて行く。
しかし、やはり砦に近づくに連れてその見張りの数が多くなって来たので、なかなか隠密行動をするのも難しくなって来た。
「ここから先はなかなか厳しそうね」
「ええ……さて、どうしようか?」
目の前の細くなっている道を塞ぐ様に立っている見張りが二人。
しかもこの位置からだと少し距離があり過ぎて、矢は届くだろうが先程の様にドリスが走ってハルバードを突き立てる前に増援を呼ばれてしまう可能性が高い場所だ。
この見張り二人を倒せばやっとの事で砦に辿り着く事が出来るのに、ここまで来て戻って何処か別のルートを探して迂回するしか無いのか? とドリスもアニータも首を捻る。
ここまでは一本道だったので迷う事は無かったものの、引き返すなんて今更出来やしないのでどうにかしてここを通り抜ける手筈が無いかを考える二人。
「ねえ、さっきの竜の笛を使ったらどうかしら?」
「馬鹿言わないでよ。使ってあのワイバーンにこの砦を襲わせるのは分かるけど、矢を放たれたり魔術を使われたりしてワイバーンが死んじゃったら、ここから私達が帰る手段が無くなってしまうわよ!」
「そうか……」
だったらワイバーン以外の別の方法を考えようと思っていたアニータの目に、とある物が飛び込んで来たのはその時だった。
「あれは……」
「どうしたの?」
「ほら、あれを見て。あれを使えば見張りの気を逸らせるかも知れないわ」
アニータが指差したのは、見張り達から少し離れた場所に積み上げられている大量の木箱。
恐らくここを拠点とする為に色々な物資が入っているのだろうが、あれを崩して見張りの気を逸らそうと言う作戦をアニータが立てたのにドリスも気が付いた。
「まさか……あの木箱を纏めている紐を狙うって言うの?」
「そうよ」
「いや、それはこの距離だとちょっと無茶じゃないかしら?」
「良いから話し掛けないで。弓って言うのは接近戦闘系の武器よりも集中力が必要なのよ」
そう言いながら弓を引き絞り、狙いを定めるアニータをハラハラとした表情で見つめるドリス。
ここからかなり離れている上に、まさか当たる筈が無いだろうと考えている彼女だが、最初に見張りを倒した彼女の腕は間違い無く本物であるとも思っている。
(まさか……ううん、ここは私が信じてあげなくてどうするのよ?)
そう、ここは彼女の腕を信じなければいけないだろう。
ドリスはそのハラハラとした表情をキュッと引き締め、上手くその紐に当たる様に願いながらアニータを見つめる。
その見つめられているアニータは、集中力を極限まで高めて周りの状況を把握する。
(距離はあるけど、この位置からは狙えない訳では無いわ。風も無いし……良し、今!!)
風が止んだタイミングを逃がさず、アニータは引き絞っていた弓から指を離して矢を発射させる。
それによって一直線に風を切って飛んで行った矢が、木箱の紐……の横をすり抜けて積み上げられている木箱の間もすり抜けてしまった。
「げっ!?」
「まずい、すり抜けた!?」
やっぱりこの位置からでは、彼女の弓の腕を駆使しても無理だったのだろう。
そう考えていたドリスだったが、その瞬間に砦の方がざわつき始めたのである。
ここからでは距離があるので一体何が起こっているのかを確認しようとするドリスは、すぐさま望遠鏡を取り出して覗ける場所を片っ端から覗いてみる。
すると、その狙いから外れてしまった矢が意外な場所に突き刺さっていたのが確認出来た。
「あっ……」
「どうしたの?」
「あの……貴女が放ったさっきの矢が、どうやら砦の見張り塔の一角で警備をしていた盗賊団の見張りに当たって、その見張りが落ちちゃったみたいなの」
「何だと?」
積み上げられた木箱の山を崩すべく、木箱の山の紐を狙ったその矢は斜め上に向かって飛んで行った。
しかし運悪くそこで吹いて来た風に流されてしまった矢が、風に乗って狙いがズレた結果その見張り塔の見張りを倒して、地面に落下させてしまったらしいのである。
すると砦の方がざわつき始めるのは当たり前であり、警戒を呼び掛ける大声も色々と聞こえて来た。
「てっ、敵襲だ!! 何者かの敵襲だぞ!!」
「おい、大至急この砦の周りの警備を固めろ!!」
「その辺りをしらみ潰しに探すのよ。きっとまだこの近くに矢を撃って来た犯人が居るわ!!」
男女問わずブローディ盗賊団の団員達が大声で叫び、警戒態勢を取り始める。
現実ではそうそう上手くいかないものなのだと、この経験から分かったドリスとアニータは強行突破で砦の中へと入る事に決めた。
そしてこうなってしまったら仕方が無いので、近くの敵にはドリスがハルバードを振るい、遠くからやって来る敵に対してアニータが弓で攻撃して、とにかく迫り来る敵を先制攻撃で撃破して行く二人。
「はああっ!!」
「ふっ!」
数こそ少し多めなものの、どうやら騎士団の関係者はここには居ないらしく、二人が戦ってみても呆気無く倒されてしまう者が多い。
中には腕の立つ敵も居る様だが、なるべく多人数をいっぺんに相手にせずに一人ずつ撃破する戦法で進む二人。
その二人の目の前に、砦の出入り口が現れたのはそれからすぐの事であった。




