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590.竜の笛

 そのまま飛び続けて、ようやく遠くの方にそびえ立つその砦が見えて来た。

 それを確認したドリスはある程度まで砦が大きく見える場所まで近づいて、そこからワイバーンのスピードを下げて大きく左に向かって舵を切り、砦から少し離れた林のそばにワイバーンを着陸させた。


「良し、ここからあの砦の中に向かうわよ」

「ん……それは良いけど突っ走らないでよ。気が付かれたら元も子も無いわ」

「分かってるわよ」


 そう言いながらハルバードを構えるドリスを見て、アニータも弓の弦の張りを確認してから砦の方向に向かって歩き出す。


「ここで大人しく待っていてね」

「グルルゥ……」


 いざとなったらすぐに逃げられる様に、ワイバーンに大人しく待っている様に伝えるドリス。彼女の声に反応して犬の様にまるで大人しくなるワイバーンを見たアニータには、彼女がこのワイバーンを手懐けるコツを良く知っているのだと分かった。


(流石に、小さい頃からワイバーンとか馬とかに触れ合って来たってだけの事はあるみたいね。それにこのワイバーンは彼女と彼女の姉が選んだワイバーンの内の一匹だから、懐くのも分かるわ)


 ワイバーンの牧場で生まれ育った彼女にとっては、こうして手懐ける事なんて造作も無い事なのだろう。

 だが実は、ドリスにはこのワイバーンを操る事についてもう一つ秘策があった。


「そうそう、いざとなったらこれを吹けば何とかなるわ」

「何これ?」


 ワイバーンを大人しくさせ終わったドリスがズボンのポケットから取り出したのは、人差し指の三分の二位の長さしか無い小さな木製の笛だった。

 笛を持っていると言えばレウスのイメージなのだが、まさかドリスもこう言うのを持っているなんて……とアニータは目を白黒させる。

 一体これを何の為に使うのだろうか? とアニータがドリスに聞いてみれば、彼女はアニータとともに砦に向かって歩き出しながら自信満々にこの笛の説明を始めた。


「これは竜の笛よ」

「竜の笛?」

「そう。この笛は竜族が発する鳴き声と非常に良く似ている音が出る笛なの。でもこれをイタズラで吹く人が現われたら、それこそ大きなトラブルの原因になってもおかしくは無いわ。だから限られた人にしか販売されないの」


 この竜の笛は、販売されるのに何と面接と適性検査があるのだと言う。

 それだけの厳しい審査に合格して購入した者だけがこの笛の使用を認められるのであり、実際にティーナとドリスもこの笛の販売担当者から筆記試験と面接テストを受けさせて貰い、それに合格して使用権利を得たのだ。


「私達はワイバーン牧場の経営者の娘だからね。こう言うのを持つのも必要不可欠なのよ。これ吹く事によって、吹いた者の元にドラゴンやワイバーンを呼び寄せる事が出来るの」

「だから危険だって?」

「そうそう。持ち運びはこうやって普通の笛と同じなんだけど、失くしたりしたら罰金ね。場合によっては管理不十分として罪に問われる事だってあるし」

「……に、しては普通にポケットに入れているだけらしいけど?」


 アニータにそこを突っ込まれるドリスだが、ドリスは「心配無用」と言いながら笛をグイっと引っ張ってみる。

 すると笛の根元に金属製のチェーンが取り付けられており、それが腰のベルトに縛り付けられているのが分かった。


「普通の紐だったら千切れたりしたら困るから、こうやってチェーンで繋いであるの」

「それだったら家からの持ち出しも禁止とかになりそうなんだけど。だって筆記試験と面接を受けてそれに合格しないとダメなんでしょ?」

「そうよ。でも私はそれに合格したの。だからこうして持っているの。合格したから持ち運びは所有者の自由。ティーナ姉様だってそうなのよ。これで納得して貰えたかしら?」

「……まあ、一応は」


 竜の笛についての説明もこれで終了し、二人は一層ブローディ盗賊団の拠点と思われる砦に近づいて行く。

 平原と言う事で見通しは良いのだが、それは向こうからも同じ話。

 何時何処からブローディ盗賊団が出て来ても良い様に、事前にフェイハンから貸して貰った望遠鏡で遠くから偵察をするのは忘れないドリス。


「どう?」

「うーん、とりあえずこの辺りにはブローディ盗賊団の気配は無いみたい。だけどあの砦の上には見張りが居るわね」

「見張り……騎士団の団員が買収されているって話だったから、まさかその団員が見張っているなんてオチじゃないでしょうね?」


 アニータにそう問われてドリスは望遠鏡の倍率を上げてみるが、どうやら違うらしい。


「それは無いみたい。だって明らかに騎士団の制服じゃないもん。フェイハンって騎士団長は動きやすい服装であんな格好をしているみたいだったけど、他はちゃんとこの国のトレードカラーの黒を基調としている制服だったもん」

「やけに詳しいのね」

「だってそりゃあ、私と姉様は元々この国の人間だから知っていて当然よ。騎士団とだってワイバーンの取り引きで何度も世話になっているからね」


 だからこそ、この国の騎士団を買収してまで事を進めようとしているカシュラーゼのやり方が一層許せないドリス。

 その強い決意を胸に秘めた彼女は望遠鏡をしまい、弓使いとして援護に回ってくれるアニータとともに更に砦に近づいて行った。

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