587.姉妹の添い寝(すげーデジャヴ)
その日はチュアダム城で夕食をご馳走になり、レウス達はこの城の中で夜を明かす事にした。
しかし、ここでレウスにとってはデジャヴが待っていたのである。
(どうしてこうなった……?)
今のレウスは、ヒルトン姉妹の部屋のベッドでヒルトン姉妹に挟まれて寝ている。
しかもこれはレウスが望んだ事では無くて、ヒルトン姉妹の策略にまんまと嵌められてしまったのだ。
(そうだ、俺……二人に一緒に風呂に入ろうって誘われて、二人に身体洗って貰って……そしてそのまま成り行きでこうなったんだっけ……)
チュアダム城に戻って来てからの事を回想し、レウスはこの状況を誰かに説明して欲しいと思っている。
これは現実なのだ、と自分の身体に触れている二つの女体のあらゆる感触が伝えて来る。
冒険者として戦う内に引き締まった太腿から始まって、首に巻きついているドリスの腕、ティーナの髪の毛から漂う石鹸の甘い匂い、更に二人から吹き掛けられている熱い吐息。
しかもダブルベッドで三人が寝たらそれは狭いせいも相まって、自分の身体に感じる二人の胸の膨らみが、恋愛には前世の頃から疎いレウスに嫌でも色々な興奮を与える。
他の女達はそれぞれ二人ずつと一人の部屋を与えられているのだが、レウスは部屋が他に無かったと言う事でこの広い部屋を三人で使う様にフェイハンから言われたのだ。
(せめて……せめて男女別室にして貰えなかったんだろうか……)
パーティーメンバーは、あいにく自分以外が全員女だと言う事も相まって部屋の数と人数の関係上、何処か一つが三人部屋になる事が分かっていた。
だから自分は何処か物置部屋でも借りて、そこで寝るから気にしないでくれと言われたのだが、事もあろうに女王陛下の一言が原因でこうしてヒルトン姉妹との相部屋が決定したのである。
「それはダメよ。これからブローディ盗賊団の討伐に向かうのでしょう? その為にはちゃんと睡眠をとって体力を温存しておくべきよ」
「そうよ。物置部屋なんかで寝て風邪でもひいたらどうするのよ。ちゃんと私とオルエッタ陛下で考えてベッドも用意したんだから」
「いや、でも……女と一緒に男が寝るって言うのは、それはちょっと個人的にいかがわしいと思われないかどうか不安がありまして……」
何とかして同室は避けたいと頭をフル回転させるレウスだが、そこに追い打ちを掛けるセリフがレウスの耳に入った。
「まあ、それでしたら私とレウスとドリスで三人部屋で寝るのはいかがですか?」
「はい?」
「ああ、それは良い考えね姉様。前に一緒に三人で寝た事もあるし、あの時の続きみたいなもんでしょ」
「続きとか言うな! 変に誤解されたら困るだろうが!」
「続きって何……?」
どす黒い声が聞こえて来る。
思わずその方向を見たくなくなる様な声の主の方に、レウスはまるでさび付いて動きにくくなった金属の設備の様に顔をゆっくり、そしてぎこちなく向けてみる。
するとそこには、見える筈の無いこれまたどす黒いオーラを漂わせたアニータ以外の他の女達の姿があったのだ。
「ねえ、続きって何? やっぱりあの夜に何かがあったのね?」
「だーっ、違うううう!! 何か勘違いしてる! 落ち着け! 落ち着いて話せば分かるって!」
「貴様……どうやら二人纏めて何かをしようとしたらしいな?」
「そうよねえ。サイカと同じ事をぜひ私も聞きたいわ。ねえ、続きって何よ?」
「答えの内容によっては、お主が細切れになる事も覚悟するのだな……レウス」
完全に誤解されている状態のまま、レウスは変な汗が首筋を流れるのが分かった。
しかし、そこはまた女王陛下が他のパーティーメンバー達を促す。
「続きとは何があったか分かりませんけど、貴女達も早く寝ましょう。明日は朝早くから盗賊団の拠点に向かうのですよね?」
「……分かりました。だが覚えておけよレウス。もし貴様がこの二人に手を出そうものなら、私達全員で貴様を海の底に沈めてやるからな!!」
「そうね。私の魔術で徹底的に痛めつけてからにするわよ!」
「ええ。それから私のシャムシールの切れ味もここいらで確かめたいわよね」
「お主、朝に何があったか聞かせて貰うからな」
「ちょ、おいおい待てって!!」
大量の汗がじんわりとコートの下から浮き出るのを感じているレウスの右腕に、ゆっくりと自分の腕を絡めてティーナが笑みを浮かべる。
「それじゃ寝ましょうか、レウス」
「そうね。三人部屋だなんて豪勢で良いじゃなーい」
「おいこら、腕を絡めるな!! 俺は何かの犯人か!!」
更にドリスが左腕に自分の腕を絡め,姉妹によって部屋に引っ張られて行くレウス。
そのどす黒いオーラから引っ張られるまでのシーンを傍観していたアニータは、実につまらなさそうに一言だけ呟いた。
「……勝手にやってろ」
そしてレウスは今、あの時のデジャヴを覚えながら姉妹によって何故か一つのベッドで三人が寝ている状態だ。
元々六人がそれぞれ二人ずつ、ダブルベッドで三組で寝られる客室なのだが、客間の残りがここしか空いていなかった事もあり、特別に三人で使って良いと女王陛下から許可が出たのだ。
だったら最初からここに女達が六人で寝れば良かったじゃないか! と心の中で叫びながら、レウスは余り眠れないまま夜が更けて行った。




