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56.魔術が使えないなら、物理攻撃だけで頑張るしか無いよな

(駄目だ、魔術が発動しない!!)


 元々余り使えない魔術ではあるのだが、完全に発動しないとなるとそれはそれでかなり困る。

 使えない部類に入るとは言っても、自分が使える魔術の中にはそれこそ敵の攻撃から身を守る防御魔術や回復魔術があるからだ。

 学院の訓練場でエルザとエドガーに見られてしまった必殺技の魔術を始めとして、何が原因なのか分からないが魔術が一切発動しない。

 呪文を詠唱しても、ただ単に自分の声が空しく建物の中に響き渡るだけである。


 それはあの部屋のドアを開けて、そのドアのそばに立って居眠りしていた見張りの首をへし折って永久に眠らせてから、魔術防壁を展開した時に判明したのだ。

 何時もなら魔術防壁を展開すれば、自分の身の回りに薄くて青白い膜が見える筈なのに、それが一切自分の目に見えなかったのが何よりの証拠だ。

 最初は呪文を間違ったかな? ともう一度詠唱をしてみたがやはり結果は変わらなかった。


(おいおい……何で魔術が発動しないんだよ。これってもしかしてあれか、プロテクトの魔術でも掛けられたか?)


 いや、でもそれだったら時間経過ですぐに解除される筈だ。

 元々レウスは魔力が常人の十倍あるのだが、それと同時に魔術攻撃への耐性も高い方に入る。

 だから自分で掛ける「内部からの」魔術は普通に効果を発揮するのだが、他人や魔物から掛けられる「外部からの」魔術には耐性があるので前世でドラゴン討伐チームの一員として一緒に行動していた魔術師もレウスに魔術を掛けるのを渋っていた程なのだ。


(あいつも俺には魔術が効き難いから、魔力の消費も激しいんだってブーブー文句垂れてたっけ……っと!!)


 考え事をしながら歩くのは良くない。

 危うく、目の前からやって来ていた敵の一人の攻撃を受けてしまう所だった。

 振り下ろされるロングソードを横に避けて回避し、ハイキック一発を敵の側頭部にお見舞いしてノックアウトさせる。

 屋外と違って、こうした建物の中で戦えるスペースは限られている。

 本来であれば槍を持ってそのリーチの差で戦うのが一番有効なのだが、誘拐された時に槍まで一緒に誘拐されなかった為か今の自分は丸腰であった。

 なので仕方無く、ここは今しがたハイキックでノックアウトしたばかりの男のロングソードを奪い取って使う。


(武器が無ければ現地調達、それも駄目なら素手で戦う、戦う術が無くなったら逃げる!!)


 戦術で大切なのは相手に立ち向かう事ばかりでは無い。

 いかにして戦いを回避するか。

 いかにして強大な敵から自分が生き残れるか。

 いかにして不利な戦況から脱出出来るか……それは一人だろうが集団だろうが変わらない。

 今の自分は出口を探してこの建物の中を歩いているので、その出口が見つかるまで余りエネルギーを使いたくないと考えているレウス。


 そう考えながらも敵は次から次へとやって来る。

 ロングソードも前世の記憶を身体が覚えているので使えなくは無いが、父のゴーシュから槍をメインに習っていたせいもあってかやはり槍の方がやりやすい。

 だがある物で戦うしか無いので、レウスはロングソードを巧みに操って的確に相手を倒して進む。


 狭い通路では打ち合いを続ければ押し負けしやすくなるので、蹴り技を相手の足に繰り出してバランスを崩し、そこで相手の胸を突き刺す。

 また相手の足を切って動きを止め、顔面を蹴ってノックアウトさせる等の、剣術と体術を上手くミックスさせた戦い方をするレウス。

 はたから見ればいやらしい戦い方にも思えるが、手合わせならまだしもこうした実際の戦場では殺し合いになるので、手段を選んでなんかいられない。

 それに窓の外に広がる景色を見る限り、どうやらここは三階の様なので襲い掛かって来た敵の懐に飛び込んでそのまま持ち上げ、窓をブチ破って一階の地面に投げ落とす。


 挟み撃ちにされない様になるべく多人数を相手にせず、一人一人を確実に倒す。

 この建物はどうやら廃墟らしいと分かったが、それ以上に気になった事がある。

 それは先程、ガラスを突き破って敵を窓から投げ落とした時に、自分の鼻を掠める潮の匂いだった。


(こんな三階にまで潮の匂いが漂って来るって事は、ここは何処かの港町らしいな。外に出たら助けを求めると同時に、俺が何処まで連れ去られて来たのかも確認しないとな!)


 窓の外ではすっかり日が登っているので、今頃学院から自分が居なくなったと知って騒ぎになっている頃だろうか?

 俺自身もパニックなんだけどな……と苦笑いを浮かべつつ、自分が囚われていた三階のあの倉庫から二階へ、そして一階へと歩みを進めて行っていた所までは順調だった。


 しかし、あの男は見逃してくれないらしい。


「何処へ行くつもりなのかな、アークトゥルス君?」

「お前は……さっきウォレスとかって呼ばれてた奴だな。そこを退け。俺は学院に帰る!!」

「そうはいかないんだよアークトゥルス君。僕はある人から命令を受けて、君を連れて来る様にって頼まれてるんだからねえ?」


 そう言いつつマチェーテを構えるウォレスに対し、レウスはロングソードを構えた。

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