585.城下町で出会った人物
「とりあえずこれで作戦は決定したし、後は各自でワイバーンを使って現地へと向かう。そして何か気になる事や新しく見つけた事があれば、即座に魔晶石を使って連絡を取り合うんだ」
「交戦状態の時はどうしたら良いんだ? 例えば貴様がブローディ盗賊団のリーダーと戦っている時とかさ」
「その辺りは落ち着いたら連絡してくれ」
エルザからの質問に答えてこれで現地へ出発する手筈が整ったかと思いきや、フェイハン曰く現地へ出発するのは何と明日の話になるらしい。
では一体今日はここで何をするのかと言うと、フェイハンの案内に従って城下町で出立の準備をするのだ。
「ワイバーンだって今日すぐに出発するより、明日までゆっくり休ませた方が良いでしょ?」
「まぁ、それは確かにそうだけど……」
「それに食糧だって大切よ。腹が減っては戦は出来ぬって昔から言うし、我がアイクアル王国はこのエンヴィルーク・アンフェレイアの食糧庫って愛称もあるんだから、新鮮な野菜とかお肉とかもたっぷりあるんだからね!」
「そ、そうね……」
妙に元気一杯のフェイハンに、パーティーメンバーの中で一番ポジティブな思考の持ち主であるサイカも若干引き気味である。
だが、これが彼女の性格なのであれば受け入れるしか無いのだとサイカは割り切り、彼女もまた他のメンバー達に混じって一緒にロンダールの城下町へと繰り出す。
「騎士団にも食材を提供してくれている業者があるから、そこから直に保存の効く食材を卸して貰いましょうよ」
「良いのか?」
「平気よ。だって何時もツケで後から払うんだし。騎士団が纏めて月末に支払うのよ」
当たり前の様な口調でそう言うフェイハンが案内したのは、業務用に色々な食材や飲み物、それから調味料等を多めの量で販売している業者直輸入の大きな市場だった。
そこでレウス達は日持ちがしそうな干し肉や瓶詰め等を購入し、ついでに何かめぼしい物が無いかどうか探し回ってみる。
(こうやって賑わっている光景を見る分には、いかにも平和ですって感じがして良いんだが……)
市場の賑わいを見ながらレウスは考える。
こうして賑わいを見せている市場があり、多数の人間や獣人や馬車が行き交う往来があり、そして人々の平和な生活がある。
だが、それがもしあのシルヴェン王国の様に大砲の一撃でぶっ壊されてしまったとしたら……と考えるとゾッとしてしまう。
今回はレイベルク山脈の山頂にある大砲を破壊した事で、その危機は未然に防ぐ事が出来たのだが、また大砲を造ろうとしているなら絶対に止めなければならない。
(しかもそれを裏で手助けしているのがこの国の騎士団……これは一筋縄じゃ行かなさそうだ)
「騎士団の奴等が動き始めているってなれば、俺達もいよいよやばいかもな」
「……え?」
何処かから「騎士団」と言う単語が出て来たのに反応したレウスは、思わず周囲をキョロキョロと見渡してその声の主を探してしまう。
すると今度はその声と別の声が聞こえて来たので、どうやら複数の人物が騎士団に関しての会話をしているらしい。
レウスが周囲に視線を巡らせてみると、その声の主達は見知らぬ男女のコンビだった。
「そうねえ。最近は騎士団の連中が取り逃がしたブローディ盗賊団の連中が企てていた何かの陰謀が誰かに潰されたって聞いたけど、これは騎士団のメンツにも関わって来るんじゃないかしら?」
「ああ。噂じゃ騎士団とブローディ盗賊団の連中が癒着しているんじゃないかって話も出ている位だしな。何にしても騎士団の連中が動き出したらしいから、俺達もそろそろ動くべきなんじゃねえのかな」
「それが良いと思うわ」
会話をしているのはまず、白い髪の毛に赤い目を持ち、赤いマークが着いている茶色のコートを着込んだ、背の高い槍使いの男。
そしてもう一人は青いシャツに黄緑色のズボンを合わせ、腰にはショートソードを提げている黄色に近い金髪の女だった。
この人物の容姿を間近でこうやってじっくりと見て、レウスは以前ヴァーンイレスでサィードの忠実な部下となったイレインの話を思い出した。
『コルネール様は白い髪の毛を短髪に切り揃えていました。瞳の色は赤で、背は高い方です。噂によると、最近何処かの戦場で顔に傷を負ったらしいですので、もしかすると顔に傷があるかも知れないですね』
『分かった。それではアーシアの方は?』
『アーシア様は黄色に近い金髪をかなり長めに伸ばしていました。今も変わっていなければその金髪が目印です』
『……それだけか?』
『そうですね。後の情報は良く分からないのです。でもコルネール様とアーシア様は何時も一緒に行動されておりましたので、もしかすると今もまだ一緒に行動されているかも知れません』
『良い仲だったと言うのであれば、その可能性は大いにあり得るだろうな』
その会話が脳内に蘇ったレウスは、思わずその二人の名前を口に出していた。
「もしかして……コルネールとアーシアか?」
「え?」
「ちょっと貴方、私達の事を知っているの?」
「あ、いや……名前は聞いた事あるんだけど、こうして実際にお目に掛かるのは初めてだからつい名前が口から出たんだ。それにしても本当だったんだな、何時も二人一緒に居るって言うあいつの話は」




