584.盗賊討伐の作戦会議
「今、あたし達が掴んでいるブローディ盗賊団のアジトの場所は大きく分けてこの三つね。他にも小さなアジトを幾つも持っているみたいだけど、大きなアジトの情報と言えばこの三つが有力よ」
「となれば、この三つのアジトとあのレイベルク山脈の山頂に向かうグループで、全部で四つのグループを作るべきだな」
レウス達は長い木製のテーブルが用意された会議室で、これから何処にどうやって進軍するかの作戦会議を立てていた。
何せ、相手は神出鬼没のブローディ盗賊団。
その正確な人数は把握出来ていない状態だし、アジトだってこの地図に描かれている場所だけで全てだとは当然思っていないので、まずは大きなアジトだけでも潰す事が出来れば奴等にとっては大きな打撃になるだろう。
「本当はここに居る全員で合計九人だから、三つのグループでそれぞれのアジトに向かうべきなんだろうが、あの連中がまた大砲の建造を計画しないとも限らない以上は、レイベルク山脈の山頂に向かって確認するグループも必要だからな」
「それって考え過ぎなんじゃないかしら? あたしだったら三つのアジトを潰してからでも遅くは無いと思うんだけど」
考えすぎだ、とレウスに向かって言っている王国騎士団長のフェイハン。
だがレウスはレアナからの情報で、ブローディ盗賊団に対してエドガーが大砲の再建造を頼んでいる会話を耳にしたと言っていた。
実はこのテレパシーの事や、自分達がレアナと繋がりがある事を言ってはいないレウス達。
そのエドガーに買収されている立場かも知れないフェイハンに迂闊にその事を話せば、せっかく窓から脱出してまで情報提供をしてくれたレアナの命まで危うくなってしまう可能性がある。
なのでここは「レイベルク山脈の山頂でブローディ盗賊団が口を滑らせてその事を話していた」と言う筋書きで話を進めるレウス。
会議室に向かう前に簡潔にパーティーメンバー達に事情を説明していた事もあって、レウスとフェイハンの話の流れを察した女達は口をつぐんだままやり取りをレウスに任せていた。
「でも、まさか口を滑らせてそんなに細かい情報まで聞き出せるとは余り思えないんだけど……」
「だから俺もびっくりしているんだよ。お前等、バックに居る奴の事をそんなに話して良いのかよって心の中で突っ込みを入れた位にはな」
「確かにそれもそうね」
「で、この大砲を破壊してもまた造ってやるからなーって俺達がワイバーンでそこから飛び去る時にあのリーダーっぽい紫の髪の色をしている男が言っていたから、これってやっぱりまたあそこに造るんじゃないかって思ってさ」
「なるほどね。予定外の事が起こっても冷静に対処出来る人ってなかなか居ないわよ。まして、その大事な大砲が破壊されて平常心を保っていられなくなったんでしょうから」
そして話し合いの結果、レウス達は最初にこの王都ロンダールに来た時のメンバーの分け方で再び事を進める。
そこに今度はフェイハンと、これから向かう各地のアジトの周辺にある町の騎士団員達もそれぞれのグループに入れる予定だったのだが、レウスがそのフェイハンの提案を却下する。
「いや待て、ここは俺達九人でまず行動した方が良いかも知れない」
「どうして? 相手は人数が不明の状態が続いている盗賊団なのよ? だったらそれこそ人数が多い方が……」
「それが逆に仇となる場合もあるんだ。今までだって大勢の騎士団がブローディ盗賊団相手に立ち向かったけど、結局取り逃がしているって町の住民の噂なんだぞ。だったら今回は少人数で挑むべきだ」
そう言うレウスの横から、話の流れを察したティーナが歩み出て援護する。
「そうですわ。それに少人数で行った方が相手の油断を誘えると思いますし、大人数であればある程そのブローディ盗賊団のアジトからの撤退も難しくなると思いますの」
「そうだな。人数が多ければ多いだけ部隊の動きも遅くなりがちだ。ここは油断を誘う為にアジトには俺達九人だけでそれぞれ乗り込もう」
「……本当に上手く行くのかしら? あたしはそうとは限らないと思っているけど……」
「まあまあ、これでもレウスは私達よりはこうした戦場の動きに慣れていますし、経験もありますから大丈夫ですわよ」
「そう? なら……その言葉をあたしは信じるわよ」
勿論、レウスがこんな提案をしたのは下手に大勢の騎士団員がこの作戦に絡んで来て、ブローディ盗賊団に変な事を吹き込まれたらアウトだからだ。
それを防ぐべく、レウスは騎士団長のフェイハンだけを自分のパーティーに入れる事に決めたのだが、彼女を自分と一緒に行動させようとは思っていなかった。
もし彼女もまた盗賊団と繋がっていて、大砲を再建造している現場であのリーダーに出会ってしまったら、リーダーが口を割った訳ではなくてレアナから情報を手に入れたと言う嘘がバレてしまう恐れがある。
そして回りまわってエドガーの耳にも入るかも知れないし、リーフォセリアの騎士団長であるギルベルトだって自分達と合流する前に危険に晒されるかも知れないので、なるべくリスクを回避する方向でレウスはこうして話を進めていたのだ。




