583.聞きたかったけど聞けなかった事
登場人物紹介にフェイハン・チャオシャンを追加。
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「だから俺は、あの謁見の間での質問の時に思い留まったんだ。騎士団の団員は動かさないで欲しいって頼もうとしたのと、女王に対して騎士団が買収されているかどうかを尋ねようと思ってさ」
「あ、だけどそれを思い留まったからあの時の貴様の返事に間があったのか!」
「そうだ。でもあんな公の場でそんな事を聞いてみろ。あの時は俺達の周りに騎士団長のあの女と女王と、それから貴族連中や騎士団の関係者だってまだ他にも居たから、その中にブローディ盗賊団と繋がっている奴が居たって不思議じゃないからな……」
あの場所で不用意に「女王陛下は、騎士団が買収されている事をご存じですか?」と聞くのが一番まずいとレウスは悟った。
それが原因でブローディ盗賊団に何か情報でも流れたら、それこそ盗賊団の拠点に向かうのも苦労しそうだし、知っていたとしたら盗賊団に女王陛下自身が情報を流す可能性がある。
逆に知らなかったとしたら女王陛下の命が危ないので、結局は思い留まって黙っているのが一番無難な判断だとレウスは考えたのだった。
騎士団長のフェイハンにしても同じ事で、買収されていたのを知っていたらその黒幕が彼女と言う事になるし、知らなかったとしたら女王ともども抹殺されていた筈だ。
「それは分かる。貴様のその判断が一番無難だと私も思う。あの場所で考えられるのはまず、騎士団長も女王陛下も両方とも騎士団が買収されている事実を知らない」
「または全くの逆で、両方とも知っている可能性もありますわね」
「それからお主が言うには片方が知っていて、片方が知らなかったって言うパターンもあるよな?」
「そうよねえ。例えば騎士団長のフェイハンが買収の事実を知っていてオルエッタ女王陛下がそれを知らなかったら、オルエッタ女王と一緒に私達は捕らえられていたか殺されていたか……」
「逆に女王陛下が知っていて騎士団長が知らなかったら、女王陛下権限で騎士団が私達を殺しに来たでしょうね」
「どのみち、抵抗したって人数的に圧倒的に不利な状態である事に変わりは無いわ」
エルザ、ティーナ、ソランジュ、サイカ、アレット、アニータの六人がそう反応するのを見て、レウスはもう一つ聞こうと思っていた事を口に出す。
「そしてこれが終わったら、俺はルルトゼル村への通行許可を貰えないかどうか女王陛下に聞こうと思ったんだが、それも止めた」
「どうしてよ?」
「今までの話から分かるだろう。ブローディ盗賊団を討伐した後で聞くならまだしも、あの場で聞くのはやっぱり違うと思ってた。そのルルトゼルの村は獣人の縄張りだから、後に合流する予定のギルベルト団長に聞いてみる。あいつは獣人だから、村に近寄っただけで攻撃はされないだろうしな」
「ああ……確か姉様と一緒に聞いた所によると、その人ってトラの獣人だっけ?」
「そうだ。とりあえず部屋の外に気配は無いからフェイハンが聞いているとは思えないんだが、念には念を入れてこうして全員で円陣を組んで、小声で話し合っているんだからな」
フェイハンを部屋から出したのは勿論この話を聞かれたくない為だが、不信感を抱いた彼女が部屋の外で聞き耳を立てていないとも限らないし、魔力を耳に注ぎ込んで盗み聞きをしているとも限らない。
なのでこの部屋から彼女を出した後、レウスはパーティーメンバーを集めて取り囲む様に魔術防壁を張り、念には念を入れて円陣を組んだ状態でこうやって話をしているのだから。
「ま、何にしても俺達はこの国では部外者だ。このヒルトン姉妹以外はな。そして俺達の周りには敵がウヨウヨ居ると思って行動した方が良いだろう。ただでさえ騎士団が買収されているって事実が分かっている以上、下手な行動は出来ない」
「でもそれって、これから私達がブローディ盗賊団を討伐しに行く上で騎士団の妨害があるかも知れないって話にも繋げられるわよね?」
「その時はその時だぞ、ドリス。そうなったら盗賊団に騎士団が加担していたと言う事で、纏めて討伐するだけだ」
それが結局、オルエッタ女王やフェイハン騎士団長を敵に回す事になったとしても仕方が無い。盗賊団と手を組んだ向こうが悪い。レウスはそう考えていた。
もしかしたらその結果、このアイクアル王国そのものが滅亡してしまう事になる可能性だってある。
そしてレウスは魔晶石を取り出してギルベルトに対して通話を開始すると、今までの事を簡潔に説明し始めた。
『……分かった。それじゃ俺はまずルルトゼルの村に入れる様に通行証を作ってからそっちに向かう』
「助かる」
『そっちも気をつけろ。その女王は能天気に見えて何を考えているか分からないぞ。何せ彼女は「嵐の杖」なんだからな』
「分かった」
通話を終了したレウスはパーティーメンバー達の方を向き、決意した様子で移動を促す。
「……それじゃそろそろ俺達も行くとしようか。ブローディ盗賊団の連中を壊滅させる為の作戦会議に」
「そうね。余り待たせるとそれこそ怪しまれるし」
騎士団長のフェイハンが渡してくれる情報が何処まで本当なのか、それはこのパーティーメンバーの誰も分からない。
それに彼女が敵か味方かも分からない以上、どんな状況にも罠があって当然だと考えて行動するべきだと肝に銘じたレウス達は、いよいよその会議へと向かった。




