582.女王からの頼み
おいおいおい、この女騎士団長まで一体何を言い出すのかとレウスが更に困惑する。
それは後ろで跪いているドリスやティーナも同じ心境の様だ。
「ね、姉様……話が変な方向に向かってない?」
「そうね。ちょっと何を言っているのか理解出来ないわ」
そんな困惑するレウス達一行の前で、アイクアルの女王陛下は臣下の女騎士団長であるフェイハンの意見に耳を傾ける。
「ほう、それは何かな?」
「この方達はその大砲を破壊出来ると言うだけあって、腕が立つと思います。それにブローディ盗賊団の連中が最近勢力を拡大し、国内各地で動きを活発化させているとの情報も出て来ています。ですからこの方達にブローディ盗賊団の討伐をお任せしてみるのはいかがかと」
「ふむ……フェイハンはこう言ってるけど、結局は貴方達がどうしたいかだけど……」
(この女、能天気な上に人任せも良い所だな。まさかここまでとは俺も思っていなかったけど、出来れば無意味な争いは避けたい……)
しかしその一方では、ブローディ盗賊団の連中とは少なくともこの国に居る限り因縁が続くだろうと考えているレウス。
エドガーの手によって騎士団が買収され、それによって騎士団が本来の自分達の職務を遂行しない状態にされている上に、ブローディ盗賊団の連中もやりたい放題になっている。
それにエドガーやディルク達カシュラーゼの面々は、自分達と同じくエヴィル・ワンの身体の欠片を狙っているので、代わりにブローディ盗賊団の連中に探させる可能性は高い。
それを色々考えた結果、レウスはこの提案を受け入れる事に決めた。
「分かりました。俺達はそれを引き受けます」
「れ、レウス!?」
「理由は後で話す」
レウスがまさかこの提案を受け入れると考えていなかったアレットは、そのまさかの展開に驚きを隠せない。
しかしレウス本人はその一言だけで彼女を黙らせた上で、話を着々と進めて行く。
「そうか、それじゃぜひお願いするわ」
「その代わり、条件があります」
「条件?」
「はい。今現在の状態で、ブローディ盗賊団に関して掴めている情報を全て俺達に共有して下さい。相手の情報を知らなければ何も出来ませんから」
「ああ、それはフェイハンと話し合ってね。他には何かあるかしら?」
「……今はとりあえず以上です」
「分かったわ。それじゃ後はよろしく頼むわよ」
そのやり取りを見ていたエルザが、レウスの答え方に違和感を覚えた。
(今、何だか返事に間があった様な……?)
何か戸惑う様な事があったのだろうかと思うエルザだが、女王陛下の前で単刀直入に聞く事は出来そうに無いのでここは我慢する。
こうして謁見も終わり、今日はブローディ盗賊団の連中を壊滅させる為の作戦会議と言う事で、騎士団長のフェイハンも混ぜた上での打ち合わせを会議室で行なう筈だったのだが、その前に荷物を纏めさせて欲しいとレウスが頼み込んだ。
「全員の荷物は俺が管理する事にしているから、必要な物をこの俺の部屋で各自で選び出して貰う。終わったらすぐに向かうから、先に会議室で待っていてくれないか?」
「……ええ、分かったわ」
フェイハンが客間から出て行ったのを見て、レウスは他のメンバー全員を集めて秘密の話を始める。
話題は勿論、何故今回の提案を受け入れたのかが中心だ。
「わざわざブローディ盗賊団と戦う様な道を選ぶなんて、お主はどう言うつもりなんだ?」
「そうよレウス。貴方は何を考えているの?」
ソランジュとアニータに詰め寄られたレウスは、オルエッタ女王の前で跪いていた時に考えていた事を理由として説明する。
「どの道、この提案を受け入れなくてもこのアイクアルの中でエヴィル・ワンの手掛かりやエレインの手掛かりを探すんだったら何処かで鉢合わせする可能性が高いだろう。それに盗賊団は盗むのが仕事だから、お宝の情報を掴んで行動している連中が相手ならやみくもに探すよりもその連中から情報を聞き出した方が効率が良いと考えた」
なるべく無駄な戦いはしたくないのだが、今回は自分達もお宝の様な物を狙うのでこの結論に達したレウス。
それに、彼がこうして騎士団長のフェイハンを一度外に出して話をしているのにもちゃんとした理由があった。
「この国の騎士団がカシュラーゼに買収されているとなれば、さっきの女騎士団長はその筆頭だと思うのが普通だろう?」
「まあ、それは確かにそうですわね」
「だからだよ。ブローディ盗賊団の情報をくれって言って、自分達の飯の種になっている相手の情報をすんなりと外部の連中に渡すと思うか?」
「いや、思わないわね」
アレットの返答にレウスも頷く。
窃盗団としての自分達の活動がやりやすい様にエドガーが買収してくれた騎士団。その騎士団が自分達の情報を金にするなんて事をすれば、それは重大な契約違反になってしまう。
だからこそ、偽の情報を渡されて罠に嵌められる可能性も考えなければならない。
相手の人数はこちらよりも明らかに多いので、エルザ曰く一騎当千の実力があるレウスでさえもそんな大人数には対抗出来ないだろう。




