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578.女王の脱出

「……エンヴィルーク様、今の会話は聞こえていましたか?」

『ああ、バッチリ俺様にも聞こえたぜ。こっちで紙にメモも取ってあるから、これを急いでアークトゥルスの生まれ変わりに知らせなきゃな』

「そうですわね。では、私は塔に戻りますので」

『分かった。気を付けて戻れよ。後は俺様に全て任せておけ』

「はい、よろしくお願い致します」


 塔に幽閉されていた筈のカシュラーゼの女王、レアナがその塔を抜け出した。

 このままじっとしていても何も始まらないとばかりに、まずは部屋の窓に取り付けられているカーテンとベッドのシーツの端をそれぞれ結び、長い一本の紐にする。

 塔の窓は空気の入れ替えの為に必要な設備だが、高さがあるせいで鉄格子ははめられていなかった。

 なのでレアナは意を決して、外に居る見張りに気付かれない様に注意して窓を開けて、そこから下に向かって手作りの長いロープを垂らす。

 塔の上まで見上げる人物は少ないし、このカシュラーゼでは魔物対策もディルク主導の下でしっかりとされているだけあってワイバーンやドラゴンが飛んで来る事も滅多に無い。

 なので、下に向かって下りる分にはまさに絶好のチャンスだった。


(私だってこれでもレイピアや弓を習って来ただけあって、腕力と背筋力はそれなりについていると自負していますからね! でも……上るのも考えて体力はなるべく温存しておかないといけませんわ)


 このまま黙って塔の中で幽閉されて、たまにテレパシーでエンヴィルークと連絡するなんてまっぴらごめんである。

 自分にも、何か出来る事がきっとある筈。

 となれば自分に出来る範囲の事をやれば良いのでは? と色々考えてみて、辿り着いた答えが「今のカシュラーゼの内部事情を探る事」だった。

 エンヴィルークがテレパシーを使えると言っても、実際に目で見てみないと分からない事だってある。

 なのでここは自分が実際に目で見て、そして耳で聞いて何か情報を得られれば良いと考えたレアナは、このカシュラーゼの城の構造を知り尽くしているので何とか脱出しようと決意した。

 そして手製のロープを使って窓から脱出した彼女は、自分が幽閉されていた部屋の下にある窓のふちに足を掛け、更にそこから余っている分のロープを下に垂らして着地する。


(この渡り廊下は城の中に繋がっていますから……この先にある窓の中から入ったら、城の中の重要区画に繋がっている筈ですわ!)


 城の中を知り尽くす事が出来る立場の人間である事に感謝をして、レアナは渡り廊下の屋根の部分を歩いて渡り、その先にある窓に手を掛けてゆっくり押し開ける。

 鍵は掛かっておらずすんなりと開いた窓の様子を探り、もぞもぞと中の廊下へと入り込むレアナ。


(この区画の場所ですと、確かクルシーズ城の中にある騎士団長の執務室が一番近い筈ですわ)


 とは言うものの、現在の騎士団長はディルクの不興を買って魔術の実験台にされて灰になってしまったのだ。

 そして現在は誰か別の人物が代理を努める為にやって来たらしいのだが、外部の人物にいきなり騎士団長を任せるなんて話がぶっ飛んでるとしか思えない。


(私がもしディルク様の立場だったら、現在の騎士団員の中から最も優れている人物……例えば王国騎士団第一部隊長のライマンド様とかを推薦して、そのまま騎士団長に任命しますがね)


 外部の人物をすんなり入れるだけでもリスクが高いのに、まさか騎士団長の代理をさせるとはリスク管理の欠片も無い。

 それとももしくは、ディルクがそれだけの信頼を置いている人物なのかも? と廊下を進みながらレアナが考えていると、不意に聞き慣れぬ声が騎士団長の執務室から聞こえて来た。


(あら、どなたかしら?)


 部屋の前に見張りも置かずに割と大きな声で話をしているのが聞こえ、レアナは思わず聞き耳を立てる。

 そして聞こえて来たのは、知らない誰かが話しているさっきの内容だった。


(た……大変ですわ。これは私だけではなく、エンヴィルーク様にも知らせるべきだと思います!!)


 レアナは急いでエンヴィルークにテレパシーを繋ぎ、そのテレパシーを通じて何とか盗聴出来ないかとエンヴィルークに頼んでみる。


『ああ、出来ねえ事はねえけど……もっと声が聞こえる所まで近づいてくれねえか? 俺様にも声が届く様にしてくれたら、こっちも俺様のこの耳に魔力を集中させて聞き取れる様にすっからさ』

「わ、分かりました……」


 言われた通りに、レアナは部屋の中の会話がもっと聞こえる様に扉に顔をくっつける。

 するとテレパシー先のエンヴィルークから返答があった。


『こっちは聞こえるぜ。ただし、俺様がこれ以上大きな声を出すと部屋の中のそいつに聞こえる可能性があるから、その部屋の中の会話が終わるまで俺様は黙ってっからな』

「分かりました」


 そうして部屋の中の会話を聞き取り、レウス達の事を探っていたり大砲の再建造を考えたり、ブローディ盗賊団が動き出しているのを突き止めたレアナはエンヴィルークに後を任せ、自分の脱走がバレない内に塔の中へと戻るのだった。

 手製のロープによって腕を酷使しながら塔を上った結果、翌日に筋肉痛に悩まされると言う土産とともに……。

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