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55.今後の予定

 レウスが部屋を抜け出そうと歩き始めた頃、彼を誘拐した犯人グループのリーダーのウォレス・フレーデガル・リヒトホーフェンは、自室で自分の雇い主と通話魔術で会話をしていた。


『そっちは上手く行った様だな、ウォレス』

「はい。貴方の手筈通りに事を運んでおきましたよ」

『そうか。それなら順調だな。だが油断するなよ。見た目は若い奴でも相手は五百年前の勇者なんだ。俺も戦った経験があるがかなり強かったぞ』

「貴方がそこまで苦戦されたのですか?」

『ああ。後であいつの正体を知った時は驚いたが、五百年前の勇者の生まれ変わりであればあの若さであの強さも納得が行く。もしウォレスが戦うなら、あいつに対して真っ向勝負で挑むべきでは無いな』

「ご忠告感謝します」


 用心深い性格なのか、通話魔術の術式の中に自分の声を変える機能を入れてある通話相手に対し、ウォレスは礼を述べてから話を変える。


「貴方は世界中で活躍されていて実績も十分ですからね。それに学院の実情にも詳しい。弟子だって居る。そんな貴方を脅かす様な存在ですか、そうですか……。ところでレウスとやらの移送は馬車ですか?」

『いや、船を使ってくれ。そこからなら港も近いだろうから、貨物と一緒に木箱に詰めて紛れ込ませてしまえばバレないだろうからな』

「かしこまりました」

『それじゃまた連絡する。くれぐれもしくじるなよ?』

「分かっております、お任せ下さい」


 通話を終了したウォレスは、現在は港町の外れにあるこの廃墟の一つをねぐらにして活動している組織のリーダーである。

 違法な物品の密輸入、国外からの密入国者の入国手引き、またその逆で国外への逃亡も手助けしている裏社会の実力者。

 今まで必要とあれば殺人もこなして来ているのだが、今回は関わる人間があろう事か五百年前の勇者アークトゥルスの生まれ変わりだと聞いていた。

 最初は「そんなバカな」と全く信じていなかったのだが、カシュラーゼから脱走したドラゴンを魔術で呆気無く倒してしまったと聞いてからウォレスの考えは変わった。


(まさかあの勇者アークトゥルスの生まれ変わりがこの世の中に現れたってだけでも驚く事なのに、それがこうして僕達の身近に居たなんてねぇ。現実ってのは時にビックリする事だらけだ)


 そして今、自分達がその勇者アークトゥルスの生まれ変わりとなったレウスを捕まえている。

 成功すれば多額の報酬が貰える絶好のチャンスなので、今回の依頼は絶対に失敗出来ないのだ。

 しかし、自分達によって捕らえられていた筈のそのアークトゥルスが逃げ出したとの報告を受けたのは、この通話を終了してから少し経ってからであった。


「ウォレス様っ、捕まえていたあの男が脱走しました!!」


 ウォレスと付き合いの長い、気のおける部下の一人が彼の居る部屋の中に飛び込んで来た。

 しかし、当のウォレスはその部下の慌てっぷりに対して非常に落ち着いた様子である。

 何故そこまで落ち着いていられるのだろうかと部下が訝しげに彼を見ている前で、ウォレスは椅子から立ち上がって机の横に立てかけてある自分のマチェーテを手に取ってグルグルともてあそぶ。


「慌てるんじゃない。逃げ出されるのは想定内だよ」

「え?」

「あの男が噂通りの実力者なら、この程度の事は想定内さ。だけどこっちだってそれを想定していて何もしないなんて事はしていないよ。僕は君を含めて多数の部下を引き連れているんだし、事前にあの男には特殊な薬を打たせて貰ったからね。一度打ってしまえば三日は効果が出続ける、魔術封じの薬さ」

「特殊な薬……ですか?」


 そんなの自分は聞いちゃいない、と首を傾げる部下に対してウォレスはニヤリといやらしく笑って頷いた。


「そうだよ。今まで秘密にしていたんだ。かなり高かったけど奮発した甲斐があったってものさ。あの男を何としてでも仲間に引き入れる為に、ちょっと位インチキなやり方をしても良いって言われてるんだからね、僕達だって。それにあの男の武器はこうして僕の手元にあるんだ」


 そう言いながら、ウォレスはレウスが普段から愛用している少し変わった形状の槍を指差した。

 脱走した彼の手元に本来ある筈の槍は、現在こうして壁に立て掛けられている状態だ。

 その上に魔術まで封じられてしまっているならば、レウスは普段の力を発揮出来ないだろうとウォレスは踏んでいるのだ。


「くれぐれも殺さない様にして連れて来いって言われてるし、この槍だって一緒に持って来て貰って説得材料として使う予定だってあの人はお話しされていただろう? でもこんな物騒な物を手元には置いておけないからここで預かってるんだよ。分かったならさっさと君もあの男を止める為に動いてくれないか?」

「わ、分かりました!」


 部下が部屋を出て行くその背中を見て、ウォレスは久々に歯ごたえのある人物と出会えた……と心の何処かでワクワクしている自分に気が付いた。

 あの男は果たしてここまでやって来るのだろうか?

 それとも自分の元まで辿り着く前に部下によって捕らえられ、あの部屋に逆戻りなのだろうか?

 いずれにせよ、何時でも戦える準備はしておかないと……とマチェーテを物凄いスピードで縦横無尽に振り回しながらウォレスは体を温め始めた。

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