575.因縁の始まり
ワイバーンに乗って空からの降下作戦を決行したレウスは、先陣を切って他のパーティーメンバーが見ている中でその大砲の近くへと飛び降りた。
「な、何だお前!?」
「お……おい、何処から現われた!?」
突然空から降って来たレウスに対してどよめく集団……それもそれぞれの服装が大体同じで、全員が揃いも揃って緑をトレードカラーにしているのを見ると、やはり……とレウスは一つ頷いてから尋ねる。
「お前等、ブローディ盗賊団だな?」
「……そうだが」
「このレイベルク山の頂上にこんな物を建造したのはお前達だな。それも自分達の独断ではなくて、誰かに頼まれてこんな場所にこんな物を建造したって所だろう」
「何が言いたいんだ?」
緑色の集団の中から、自分の仲間をかき分けてずいっと歩み出て来た一人の男。
顎ひげを生やした大柄な体格に、中途半端に前髪が何房か垂れ下がっている紫色の髪の毛が特徴的な、推定年齢二十代の彼がレウスに対して訝しげな視線を向ける。
雰囲気が他の人物達と何だか違うので、レウスにはこの男がブローディ盗賊団のリーダーだと感じ取った。
そんなリーダーらしき彼の視線を感じ、レウスは単刀直入にここに自分がやって来た理由を口に出した。
「俺はカシュラーゼの造っている大砲を壊して回っている人間だよ」
「な……何だと!?」
「その驚きっぷりからすると、どうやら事実らしいな。となればお前等がここにこんなのを造っているのは、恐らく王都のロンダールを狙撃する為に造ったんじゃないのかな」
続けて空から降りて来るパーティーメンバー達の気配を自分の周りに感じながら、レウスは自分の予想をズバズバとブローディ盗賊団に向かって口に出す。
それに対してリーダーらしき男は、ハッと鼻で笑ってその予想を否定する。
「おいおい、俺達が盗賊団だからってこんなのを造ったって事にはならねえだろ。それはちゃんとした証拠があってほざいてんだろうな?」
「証拠ならあるさ。おい、ちょっと説明してやってくれよ。目撃証言の話をさ!」
後ろを振り向いて顎で指示を出すレウスに対して、どうして自分で説明しないのか理解が追い付かないドリス。
「えっ、どうして私なのよ?」
「俺よりもちゃんと話をしてくれると思っているからさ。それじゃ任せるぞ」
ポンッと彼女の肩を叩いて、耳元に唇を寄せてそう呟くレウスはパーティーメンバー達の中に混じってその光景を観察する。
雨がまだ降り続くこのレイベルク山脈の頂上で、理由の説明と言う大役を任されてしまったドリスは、仕方無く一歩踏み出してリーダーの男に向かって口を開いた。
「ええと……その人と一緒に私達は目撃証言を手に入れたの。およそ一週間前に、このレイベルク山脈の中にある登山道をあんた達ブローディ盗賊団の連中が、大きな荷物を抱えて進んでいたってね。観光客の証言を聞いたから間違い無いわよ」
「……そんなのは見間違いかも知れないじゃねえか。まだ証拠とは言えないなあ?」
「だったらさっきの部下の動揺は何だったのよ?」
「それは突拍子も無い事を言われちまって驚いたんじゃねえのか?」
あくまでもシラを切り通すつもりのリーダーの男の様子を見て、ドリスの姉のティーナが踏み出した。
「でしたら何故、貴方達はこんな場所でこんな大人数で集まっているのですか?」
「決まってんだろ、登山だよ登山。盗賊団だって登山の一つや二つをするさ」
「そうですか、登山なんですね。それでしたらその後ろにある大砲は、貴方達ブローディ盗賊団の方々とは何の関係も無いと考えますけど、大丈夫ですね?」
「ああ、これはこの国の騎士団が取り付けたんじゃないのか? 俺達には何の関係も無えよ。ほら……最近は魔物が色々と多くなって来て物騒だって話も聞くからよぉ、俺達も迷惑してんだよなぁ」
「そうなんですね。それでしたらその大砲、ここで破壊してしまっても良いと言う事ですね?」
「は?」
ティーナがその一言を発した直後、彼女の斜め後ろから突然一本の矢が飛んで来た。
それを目撃したリーダーの男は慌てた様子で叫んだが、既に矢は大砲の一部分に突き刺さっていた。
「なっ、何しやがんだいきなりよぉ!?」
「あら、いけませんでしたか?」
「ダメに決まってんだろうが! これは大事な物なんだぞ!」
「えっ、それっておかしくないかしら?」
「何がだよ!?」
ヒルトン姉妹と、矢を放ったアニータに対して怒りを露わにするリーダーの男に向かって、ドリスが自分の思った矛盾点を指摘する。
「だってさぁ、さっきあんたはこの大砲の事を「俺達とは何の関係も無えよ」って言ってたじゃない。なのに今、その無関係の筈の大砲が矢で傷付けられた事に対して凄く怒っていたわよね」
「うっ……!?」
しまった、と冷や汗をかいて表情を変えたリーダーの男に対して更にドリスが畳み掛ける。
「それにあんた、これは大事な物なんだぞって言ったわね。それもおかしいわよ。自分達と無関係の筈で、しかも騎士団って言ったら盗賊団の敵でしょ。普通はその騎士団が造ったと思わしき大砲が傷つけられたら、喜んで「俺達の仲間になりたいのか?」とかって言ったりするんじゃない?」
「いや、それは言わないが……」
「まあ良いわ。何にせよ、自分達と無関係の筈の物を傷付けられて怒るその態度と、大事な物だって自分で言った事はさっきのあんたが嘘をついているって事になるのよ!!」




