574.頂上へ急げ!!
登場人物紹介にミネット・アルカンを追加。
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目指すはレイベルク山脈の頂上。
だからと言ってわざわざ登山道を使って向かうなんて事はしない。ここまでせっかく乗って来たワイバーンの存在があるのだから、それを使わないのは愚の骨頂である。
それに、ヒルトン姉妹は今まで使っていたワイバーン達を休めておいて牧場の中でも自慢のワイバーンを四匹貸してくれたのだ。
これで二人ずつ騎乗して移動して来たのだが、今回も同じ様に合計で八人なのでレウス達は四匹のワイバーンで頂上へと向かって進む。
「私達に着いて来てください!」
「最短ルートで飛ぶから、スピードを限界まで上げるわよ。掴まっている人は振り落とされない様にしっかり力を入れておくのよ!」
ヒルトン姉妹がそれぞれ騎乗しているワイバーンの後ろから、レウスとアレットが騎乗するワイバーンとソランジュとサイカの騎乗するワイバーンが続く。
事前に魔力を少しだけレウスに注入して貰ったワイバーン達は、本来の身体能力以上のスピードで太陽の照り付ける大空を飛んでいた……のだが、その途中で雲行きが怪しくなって来た。
「んん? おいティーナ、あれってもしかして雨雲じゃないのか!?」
「えっ……まずいですわね。高度を少し下げましょう!!」
このまま頂上まで一気に飛んで行けた筈なのに、いきなり雨雲が現われた事でやむなく高度を落として下から徐々に高度を上げる事にしたティーナ。
それを見たアレットが首を傾げる。
「何で高度を落としたのよ?」
「余り高い場所を飛ぶと、それこそ落雷に当たってしまう危険性が高くなる。ほら……この位置からでも見えるだろ。所々で雷が発生しているどす黒い雨雲だからな。このまま近づけば俺達全員丸焦げになる可能性もあるから、高度を下げて迂回するんだ!」
「え、あ……きゃっ!」
グイッと荒っぽく高度を下げたレウスの腰にしがみつきながら、振り落とされない様にこらえるアレット。
「ちょっとぉ、もっとスムーズな操作を心掛けてよね!」
「この状況でそんなのんきな事を言っていられるか。流石ワイバーンの牧場で生まれ育ったって言う姉妹の事だけはある!」
「え?」
「速いんだよ、あの二匹のワイバーンは。ちょっとでも気を抜いたらあのワイバーン二匹に置いて行かれそうだ! 小さな時からワイバーンに慣れ親しんで、余程乗り回していないとあんなに速く飛ばす事は出来ない。それもまだ十五と十七の女達がだぞ?」
「わ、私も貴方も十七じゃない!」
「今の時代に生まれ育った俺達も、そう言えば確かにな。……例えば、騎士学院では馬術の特訓をするだろ? それで上手い奴はスピードを乗せるのも早いだろうし、まるで自分の手足の様に馬を操る。ワイバーンだってそれと一緒さ。俺だって、五百年前はワイバーンに乗るのも一苦労したもんだ」
こうして喋りながらも、レウスは巧みにワイバーンを操って前の二匹のワイバーンに引き離されない様に上手くスピードに乗せる。
もしかしたら、やはり五百年前の勇者と言う事もあってレウスの方がワイバーンの操縦は上手いのかも知れない……と考えているアレットの目の前に、レイベルク山脈の頂上がうっすらと見えて来た。
「見えた、あそこね!?」
「そうだ。この位置からだと見上げる形になるが、ここからタイミングを見計らって高度を上げるぞ。そして高度を上げたらアレットに頼みがある!!」
「え、何?」
「頂上を望遠鏡で見てくれないか。もし大砲でもあったら、それこそ狙撃される危険性があるかも分からないからな!」
「え、ええ……うひゃああ~っ!?」
そんな無茶苦茶な……と思っている間に、レウスはワイバーンの高度を上げる。
突然下から突き上げられる様な感覚に見悶えしながらも、ふと周りを見てみれば他のワイバーンも高度を上げているのに気が付いたアレットは、もぞもぞと制服の黒いコートの内側から突風に耐えつつ望遠鏡を取り出した。
「どうだ、何か見えるか!?」
「もうちょっと高度を上げて!!」
「もう少し……もう少し……これでどうだ!?」
「ん~……あ!?」
やや斜め上に見上げる形になる、望遠鏡のレンズの中に見えたもの。
それは今の状況の中でもハッキリと分かる位、天に向かって大きな黒い口を開けている鉄製の大きな……。
「た、大砲よ! 大砲が見えるわ!」
「大砲だって? やっぱりそうか……」
「やっぱりあれ、そのブローディ盗賊団ってのがこの山の上まで登って来て造ったのかしら!?」
「俺に聞かれても困るが、その可能性は高いな。だがまさか、ここからこの天気であの女達はアプローチするつもりなのか!?」
望遠鏡をコートにしまい込んでいるアレットの耳に聞こえるのは、レウスが驚く声。
どうやらこのワイバーンで頂上の大砲の場所に向かう様なのだが、運悪くその時になって雨が降って来た。
叩き付ける様に降って来るその雨は、あっと言う間に大粒のシャワーとなってワイバーンの背中の上に居る二人の上に降り注ぐ。
「くそっ、これじゃろくに前が見えないな。こうなったらあの大砲の後ろに回り込むぞ!!」
「え……きゃああああっ!!」
ぐんっとスピードを上げて宣言通りに大砲の後ろ側へと移動したレウスは、そのまま山頂に向かって高度を上げ始めた。
そしてそこには、やはり今このアイクアルで噂になっている連中が待っていたのだ……。




