572.ドラゴンがやっぱり居たんだよね
そんな騎士団に対して恨み辛みが明かされているのは、レウスとティーナが向かった北の方にある貴族街も同じ。
それも他の三つのコンビが聞いている話とは違って、対人戦ではなく魔物相手に騎士団がやられてしまったと言うものだったのでレウスもティーナも呆れて物も言えなかった。
「ドラゴンが現われたって?」
「そうよ。黒いドラゴンが二週間前に北の方に現われたの」
それってまさか……とレウスとティーナが顔を見せて頷き、まずは地元の人間であるティーナがドラゴンについて聞き出せるだけ聞き出してみる。
「その黒いドラゴンって、どんな特徴がありました?」
「特徴? さあ……私も人伝いに聞いて知っているだけだから、それでも良い?」
「ぜひ教えてくれ。知っている事を全て教えてくれ!!」
もしかしたらそれがまた、カシュラーゼから世界中の何処かに向かって解き放たれた生物兵器のドラゴンの一体かも知れない。
場合によっては、前に自分達も遭遇した様なシルヴェン王国の王都シロッコに乗り込んで来られると言う最悪の事態になりかねないので、もしカシュラーゼのドラゴンだとしたら暴れられる前に討伐しなければならない。
しかし、そのドラゴンを見つける話については前途多難になりそうだ……と言うのが貴族の娘から伝えられる。
「それなんだけど、どうやらあの排他的なルルトゼルの村でかなりの確率で目撃されているらしくてね」
「る、ルルトゼルですか……?」
「そうですよ、ティーナお嬢様。ルルトゼルの方にいらっしゃる知り合いの方が、最近はドラゴンが現われるから怖いっておっしゃってましたの」
「えっ、知り合いが居るのか?」
「ええ、仲の良い方が数名……」
まさかのまさかで、知り合いがルルトゼルに居ると言い出したこの貴族の娘。
あわよくばルルトゼルに入る為の口添えをしてくれるかも知れないと考えるレウスだが、現実はなかなか上手く行ってくれないらしい。
「だったら、俺達もドラゴンを討伐する為にルルトゼルに行きたいんだが……その知り合いに口利きとかってしてくれないかな?」
「それは無理ですわ。私も知り合いが居るとは申し上げましたが、私があの村に行った事はありませんのよ。あの村は人間を忌み嫌っている村ですから、私達の様な人間が不用意に近づいたらすぐに痛い目に遭いますわ」
「そう、か……なかなか上手く行かないもんだな」
しかし、本題はそのルルトゼルで目撃されている回数が多いドラゴンの詳細である。
シルヴェン王国と同じく、アイクアルはルルトゼルを囲い込んでいる構図になっている場所なのだが、アイクアルの方での目撃証言は恐ろしく少ないらしく、そのドラゴンがルルトゼルで飼われているのではないのか、と疑問が浮かぶレウス。
しかし、その実態はまるで別物だった。
「飼われてなんかいませんわ。それは私も思いましたけど、知り合いの方が違うと証言しておりますのよ」
「違うんですか?」
「ええ。その方のお話によりますと、ルルトゼルで見掛けられているドラゴンと言うのは恐ろしく小さいらしいのです」
普通、ドラゴンと言う魔物は図体が大きくて人間も獣人も一捻り出来てしまう程の攻撃力を持つ。
爪は鋭く、牙も同じ様に鋭い上に尻尾を振り回して攻撃し、挙げ句の果てには自分の大柄な身体を使って敵を押し潰したりもする。
そして反撃しようものなら、その生えている翼を使って攻撃が届かない空中へと逃げてしまうのでかなり厄介な存在だ。
ちなみにこれはドラゴンだけに留まらず、ワイバーンにも同じ事が言えるのだが、その機動力を活かしたのがシルヴェン王国やこのアイクアル王国騎士団にある様なワイバーン部隊なので、味方になると心強い存在でもある。
しかし、その小さいドラゴンは一体どの位のサイズなのだろうか?
「小さいって……動物で言えばどの位の大きさなんだ?」
「ええっと……その知り合いの方が聞いた話によると、どうやらちょっと大きな犬程度の大きさらしいですわ」
「へ?」
「い、犬……だって?」
もっとこう……ちょっと大きな牛とか馬とか、もしくはワイバーンを少し小振りにしたレベルの大きさだと考えていたレウスとティーナは、まさかのその情報に耳を疑った。
だが、貴族の娘の表情は真剣そのものである。
「そうですわ。ですが私はそのドラゴンを見た事はありませんし、知り合いの方だって実際にご自身の目で目撃されたのではなくて、そのルルトゼルの村で話を聞いただけですから、信憑性はどれだけあるのか分かりませんけども」
「でも犬みたいなちっちゃいのだってんなら、そんなのはすぐにやっつけられんじゃねえのか?」
「そこまでは分かりませんわ。その様な野蛮なお話には興味ありませんし、仮に興味があったとしてもルルトゼルの方での話ですから、何がどうなっているかまではさっぱり分からないです」
その知り合いの方とやらも、今は国外に仕事の出張で行ってしまっているらしくすぐに連絡が取れないとの事なので、それ以上ドラゴンに関して情報が手に入る事は無いだろうと諦め、レウスとティーナは他のパーティーメンバー達と合流する為にその娘に礼を言って歩き出した。




