571.色々なキナ臭い情報
話し合いの結果、まずは北の方にレウスとティーナが向かう。
それから西にドリスとアニータ、南にサイカとエルザ、東にソランジュとアレットが向かって分担して情報収集を始めたのだが、このロンダールの中から色々なキナ臭い情報が出て来たのだ。
その発端が、まず東に向かったソランジュとアレットの手に入れた情報である。
「麻薬の取り引き?」
「ええー、そうなのよ。ここ最近、麻薬の取り引きの黒い噂がこのロンダールで有名になっていてね。この前も南の方で麻薬を取り引きしていたブローディ盗賊団の連中が目撃されたんだけど、騎士団が返り討ちに遭っちゃって」
「はっ? 返り討ち?」
騎士団が返り討ちに遭うと言う事は、余程の手練れが集まっているのかも知れない。
そう考えたソランジュとアレットだが、実態はまるで違ったらしい。
「そうなのよ。それもこれも、この国の騎士団はのんびり屋でねえ。騎士団は魔物相手には機敏なんだけど、人間や獣人相手にはどうも詰めが甘いって言うか、何て言うか……甘いのよねえ」
溜め息を吐きながらそう話す、平民街の住人である中年の女が話す情報によれば、騎士団に対してうっぷんが溜まっている人間や獣人は結構居るらしいのだ。
一説によれば騎士団がのんびり屋なのは、国のトップであるオルエッタ女王が能天気なのに影響されてのんびり屋になったかも知れない……と話した女だったが、いずれにしても騎士団がのんびりし過ぎて、その盗賊団に逃げられてしまったのは事実の様だ。
「リーフォセリアの騎士団からすると、とんでもなくあり得ない話ね」
「私達冒険者から見ても、この国の騎士団とはなるべく協力したくないって思う。それにイーディクトの騎士団だって皇帝のシャロット陛下がああだから魔物優先だけど、それでも人間や獣人相手に手を抜く様な事はしないと思うし……」
これは色々と問題がありそうだな、と考えているソランジュとアレット。
そしてそれは、南に向かったサイカとエルザも同じ事を考えていた。
「ええっ!? 魔晶石の盗掘団を逃がしちゃったですってえ!?」
「そうなんだよ。おかげで俺達工員は商売にならねーっつの」
北の方にあるレイベルク山脈には、魔晶石が多く採掘出来る鉱山がある。
そこで働いている工員が集まっている酒場で情報収集をしていた二人も、騎士団がブローディ盗賊団の連中を逃がしてしまったと言う報告をする工員の愚痴を聞いていた。
「俺達も国に税金払ってんのに、騎士団がこんな腑抜けばっかりじゃ税金払う気も無くなっちまうっつーの」
「税金……」
「そう、税金。魔物対峙してくれんのは助かってるけど、それだって俺達国民が税金払ってんだから良く考えてみたら騎士団の義務だもんな。で、その魔晶石がごっそりやられちまったせいで作業は当分中断。おかげで食い扶持も稼げなくなって、別の仕事探すしかねーって感じだぜ」
そう言えば、以前セバクターがレウスの両親であるゴーシュとファラリアの素性を探る為に、魔晶石をアイクアルから仕入れていたとレウス本人から聞いた事がある……とサイカとエルザは思い出した。
「それで、結局その盗賊団は捕まったのか?」
「捕まってると思うか? 俺等の雰囲気で何となく分かるだろ?」
「……ええ、そうらしいわね」
どうやら捕まってはいないらしい。
自分達の方までその現実に溜め息を吐きたくなって来るサイカとエルザだが、それは西の方に居るドリスとアニータも同じ状況になっていた。
「それって本当なの?」
「はい、そうです。最悪の展開になってしまったんですよ。僕達傭兵団も奮闘したんですが、結局ブローディ盗賊団の連中は傭兵団も騎士団も殆んど全滅させて、そして逃げおおせてしまったんです」
西側にある冒険者ギルドへとやって来ていた二人は、そこに居る傭兵の一人からブローディ盗賊団絡みの話を聞いていた。
何でも一か月前、傭兵団の連中が北にある湖のほとりにブローディ盗賊団の連中を追い詰めたまでは良かったものの、丁度そこに遠征で魔物討伐にやって来ていた騎士団員達が偶然にもその睨み合いを続けている所に遭遇。
そして逆上した盗賊団が戦いを始め、騎士団員達と傭兵団が抵抗した。
だが騎士団員達は対人戦には余り慣れていなかったせいなのか、せっかく人数で優っていたのにフォーメーションはバラバラで、騎士団員達が傭兵団の足を引っ張る展開になってしまい部隊が殆んど壊滅。
負傷した騎士団員達の手当等に駆り出されてしまった傭兵団は、結局ブローディ盗賊団の連中を逃がしてしまって作戦も失敗に終わってしまった。
「僕達はその後、騎士団から慰謝料と言う名前のお金を貰ったんだけど……妙に多かったからあれは多分口止め料も入っていたんだろうね」
「口止め料?」
「そうそう。だって多過ぎるって一発で分かったんだもん。おかげで武器と防具が新調出来たんだけど、それまでの作戦を台無しにされた展開や、僕達傭兵団の方が対人戦でまともな動きが出来ていたのを思い返してみると、とても手放しで喜ぶ気にはなれないね。むしろ恨んでいる位だよ」




