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569.王都ロンダール

 既に色々と疲れていた事もあって、その日は夕食をご馳走になって湯で身体を洗い流し、すぐに寝入ってしまった全員。

 その全員が次の日の朝から向かうのは、このアイクアル王国の王都であるロンダールだ。

 行く前に少しそのロンダールの話を聞いておこうと考えたレウスが質問をしてみると、今までの各国の都とは違う印象を持つ事になる答えがヒルトン姉妹から返って来た。


「ロンダールってどんな所なんだ? 王都だからやっぱり広いのか?」

「そうね、かなり広いわ。でも他の国の王都と違うのは、農耕が盛んな国だけあって食糧の自給率が恐ろしく高いのよ」

「ええ。王都に住んでいる殆んどの人は家庭菜園をやっている人が多いですし、貴族の方々の中にはご自分のお屋敷の庭を畑にして、働いて自分でお野菜や果物を収穫する方もいらっしゃいますのよ」

「へえーっ、それは食糧不足と言うものにも縁が無さそうだな」


 生き物が生きて行く上で重要なのは「栄養」。

 その栄養を人間や獣人、それから魔物達の大半は食べる事で得る訳なのだが、王都ロンダールの食事に対する意識は他のどの国よりも高いらしい。

 しかし、エルザのその感想は間違いの様である。


「いえ、それがそうでもないのです」

「違うのか?」

「ええ……最近はカシュラーゼからの食物の要求が多くて。あそこの国は今話題の科学技術に力を入れていて、食料自給率は殆んど輸入品頼りの状態が続いている国家ですからね。まあ、それもカシュラーゼと一緒に戦争に参加して、サィード様の国であるヴァーンイレスを滅亡させた仲間意識があるのではないでしょうか?」

「仲間意識か……」


 ろくでもない仲間意識もあったもんだ、と思いつつワイバーンで辿り着いたのは、この国のトレードカラーである黒を基調にしている城門が出迎える城下町であった。

 しかし、今まで自分達が訪れて来た城下町とは明らかに違う点がある……とすぐに気が付いたのがエルザだった。


「おい、そこの出入り口の近辺を見てみろ」

「え……あら、城門のそばに野菜の露店があるじゃない」


 ヒルトン姉妹が言っていた通り、確かに食糧の自給率が高そうだと思ってしまう一つの光景が広がっている。

 それは数多く並んでいる露店。その大半が食料を売っている露店であり、城門を出入りする人間や獣人を相手にして商売をしているらしい。

 エルザとアレットがその会話を繰り広げていると、前に冒険者としてこのロンダールを訪れた事があるソランジュとサイカが会話に入って来た。


「そうだぞ。私達も最初に来た時はお主達と同じく驚いたものだ」

「ええ。産地からそのまま運んで来て売っているから新鮮でね。それに城門の内側で売っているから魔物に襲われる心配も無いし、夜は町の城門を閉じるから活発化した魔物が狙いに来る心配も無いわ」

「えっ、でも空から襲撃とかされるんじゃないの? それこそワイバーンとか……」

「それは平気だ。空には魔術防壁を張り巡らせてあるし、各所にある見張り台にはああして弓を持っている騎士団員が常駐しているし」


 前にここに来た事があるソランジュとサイカは、このロンダールの住人からその話を聞いて感心したものである。

 事実、空から魔物が襲撃して来る事は「無きにしも非ず」のレベルだが、全くあり得ない話では無い。

 その上、町の屋敷の中に畑を作っている貴族も居るとの事でその防犯レベルへの意識はやはり高いのだろうとアレットとエルザも感心していた。

 だが、その一方でアニータはレウスに対してポツリと呟く。


「でも、その力を入れている食物もカシュラーゼに取られているんじゃあ……陰りが見えて来たって感じかしらね?」

「陰り?」

「そうよ。確かにヒルトン姉妹の言う通り、カシュラーゼの食料自給率はこの世界の中でも最低レベル。国土だって狭いし、その狭い国土だって食料を自給するよりも多くの魔術実験の為に町や村を持っていて、海に面した村で漁業をやっている事がやっとのものね」

「へぇ……そりゃあ輸入に頼らざるを得ない状況になる訳だ」


 でも、とレウスの感想に話を続けるのはその二人の間に割って入って来たヒルトン姉妹である。


「それだけじゃありませんわ。この国の国王は能天気なんですのよ」

「能天気?」

「そう。それも超がつく程のね。カシュラーゼが食料をもっとよこせって言ったらホイホイ渡しちゃうし、国内の盗賊団よりも魔物討伐の方が先決で未だに野放し状態だし……まあ、これは魔物の方が多いから仕方無い部分もあるんだけど」


 ヒルトン姉妹によれば、この国のトップは「嵐の杖」と呼ばれる能天気な性格の女王。

 十年前、干ばつが起こった時にこの女王オルエッタ直々に神殿の祭壇に杖を突き立てた事で暴風雨が巻き起こった。それに伴って大雨が降ったのが切っ掛けで干ばつから救われたのも本当の話で、それ以来「嵐の杖」と呼ばれているのだ、とレウスとアニータに語った。


「本人は女王である他に魔術師でもあるから、カシュラーゼから色々とノウハウを学んで食料自給率をもっと上げる為の機械システムの開発とかをしているらしいわ」

「それって、割とちゃんと国政をやっているって事じゃないのか?」

「そう思うでしょ? でもそれは国外に向けて良い顔したいって話。肝心の国内の状況なんてまるで気にせず、十年前の戦争だってその干ばつと重なってたのに、戦争に協力するとか言い出して国民から猛反発を食らったんだから」

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