568.村の掟を破るには?
ルルトゼルの村の近くにある町の住人の話によれば、それこそこの国で有名なブローディ盗賊団の連中でさえも、村の方には恐れをなして近づけない状態らしい。
獣人ばかりの村だと言う事で、独自のコミュニティを築き上げているだけに留まらず元々の戦闘能力が高い住民ばかりが集まっている。
例えば鼻の利く狼獣人の住民に人間の臭いを察知され、目の良いワシ鳥人に目視で姿を発見され、チーターやヒョウの獣人に猛スピードで追い掛けられ、鹿獣人に角で刺され、ライオン獣人によって食い殺される。
「こんな未来が待っていてもおかしくないわよ」
「ちょ、ちょっと……怖い事を言わないでよ……」
「怖いからこそこうやって警告しているんじゃない。そもそも今の話の中に出て来たワシ獣人は、空中から弓を持って狙撃して来るのよ。かと言ってこっちが反撃しようとすれば、それこそ翼を持っていて逃げられちゃうのがオチって感じ」
「ワイバーンも追い掛け回すんだろ?」
「そうね。私と姉様も狩猟部隊っぽいワシ獣人に狙撃されて、危うく墜落死よ。でもあの追い掛けて来た時の目が血走って殺気を剥き出しにして来た様子からすると、向こうはワイバーンだけじゃなくて目についた獲物はもう片っ端から追い掛け回しちゃうレベルかもね」
「だとすると……どうにかして交渉するしか……」
「だから無理だって。話し合いで解決出来る程、あの村の人間の憎み様は半端なものじゃないのよ!」
ドリスに強く止められたレウスとアレットだが、それを他のメンバーに話す事によって何か良いアイディアが得られるかも知れない。
と言う訳で明日から早速行動を開始する事にして、今日は何処に行くかを決める為の話し合いの日となった。
「とりあえずそのルルトゼルって村も大事だと思うし、何より貴方の五百年前の仲間だったライオネルの弓が木の下から発掘されたってのにも驚いているんだけど、今はまだそのタイミングじゃないみたいね」
「そうだな。チャンスになる様な展開がありでもしない限り、その集落に入るのは難しいだろうな。集落とは名ばかりで、住民が三千人以上居るって言ってたしな……あの熊の女は」
「外界とのコミュニケーションを拒絶した民族集団……これはまさに運命共同体って話よね」
「タチの悪い方の運命共同体だけどな」
サイカのセリフにソランジュが突っ込むが、その獣人達も訳があってそうした生き方を選んでいるのだから、村の掟を破りたくないと言ったあの熊獣人の従業員だって気持ちは分からないでも無いレウス達。
しかし、レウスはカシュラーゼの開発したあの大砲がまだ世界各地にあるのだと言う事を思い出して、ネガティブな予想をし始める。
「でも……もし、だぞ。もし今回のカシュラーゼとの戦いで、あの大砲が世界各地に設置されていて発射されたとしたら、今は何処からどう狙っているのか分からないだろう。だからあの大砲がもし、ルルトゼルの村まで狙っているとしたら……」
「その場合は、集落が一気に壊滅する可能性も否定出来ないわね」
レウスの予想にアニータが続く。
「そうしたらますますその村の住民達は人間達への憎悪を深め、完全に敵対関係になって見境無く余所者を排除する行動に出るかもね。それから人間社会へ出て行ったかつての仲間達も敵とみなして、それで帰って来られない様にするって言うのもあり得るわ」
「だよなぁ……。となればあの村に関わりが深そうな人物のツテを探してみるしか無いか」
と言っても、今ここで考えてすぐに出て来る様な話でも無いのでやっぱり最初は王都に向かう事にしたのだが、その時ふとエルザがある人物の存在を思い出した。
「いやちょっと待て。獣人だったら一人心当たりがあるぞ」
「本当か?」
「ああ。ちょっと今から魔晶石で連絡を取ってみるけど……居るかな、あの人」
そう言いながら取り出した魔晶石で、何処かに連絡を取り始めるエルザ。
その一方ではティーナがこのアイクアルの地図を取り出し、王都であるロンダールの場所を確認していた。
「ここが今の私達が居る牧場で、ここが王都のロンダールですわ」
「南の方にあるのね」
「そうよ。レイベルク山脈の南にあるから大回りして行かなきゃならないのよ。でもワイバーンを使って飛んで行けばあんまり掛からないから心配しないで」
「そうね。そう言えば私達が乗って来たワイバーンって結局どうなったの?」
「かなり疲れていたみたいですから、今日は一晩ゆっくりと休ませて明日出発しましょう」
サイカとヒルトン姉妹のやり取りが終わった時、丁度エルザの通話も終わったらしく連絡先の様子を伝えて来た。
「おい、そのルルトゼルの村なんだけどどうにかなりそうだぞ」
「それは本当か、エルザ?」
「ああ。リーフォセリアの王国騎士団長のギルベルト様に連絡を取った所、その村とは関わりが深いらしいから口添えしてくれるそうだ」
「そ、それじゃ明日その村に行けば……」
すぐにでもライオネルの弓が見られるかも知れないと考えるレウス達だが、そうは上手く行かない様だ。
「いや、向こうもエドガー叔父さんとかレウスの両親の事で調査をしていて忙しいらしいから、数日待ってくれって話だった」
「そう、か……。だったらやっぱり先に行くのは王都のロンダールだな!」




