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566.ライオネルの噂

「どうするか決めるって言われてもなあ……まず俺達がこの国に来た目的は、エレインの行方を掴む事だろ?」


 用意された食事の中からパンをちぎって口に放り込むレウスがそう言えば、それに続いてアニータも目的の一つを言う。


「それからライオネルの行方もね」

「そうそう。この国に来たって事は間違い無いと思うんだけど、やっぱり王都とかに行かなきゃ情報収集はダメか?」

「ダメって言うか……少なくともこの辺りじゃあ、まともな情報が集まらないのは確かね」


 地元民であるドリスが、自分達の牧場があるこの地域の周りの状況を考えてそう発言する。

 事実、この辺りにはこの牧場しかまともな住み家が無い上に、所々にポツリと点在している他の住宅も最近は人が出て行ってしまって近々取り壊しが決まっている家ばかりなのだとか。

 それもこれも、全てはこの近くにあるレイベルク山脈に現われる様になったブローディ盗賊団のせいなのだとか。


「私達が武術大会に出発する前に手に入れた目撃情報からすると、ブローディ盗賊団は黄緑や緑を基調とした服装に身を包むのが特徴的らしいですわ」

「緑系統の服か……それは何か理由があっての事か?」

「知らないわよ。私達はその盗賊団の関係者でも何でも無いんだし。大方、自然と同化しやすい色だから身を隠してコソコソやるのに丁度良い色だったとか、そんな所じゃないの?」


 何処かぶっきらぼうにそう答えるドリスだが、いずれにしても情報が手に入らない事には動き様が無い。

 そこでまずは、この牧場で働いている従業員達に何かライオネルやエレインについて知っている話が無いかを聞いてみる。

 すると、一人の熊獣人の女から気になる話を聞く事に成功した。


「あー、ライオネルねえ……それだったら確か、私の生まれ育った村で昔の噂になっていたねえ」

「昔の噂?」

「そうそう。そこでライオネルが使っていたとされる弓が出て来てビックリよ。村には大きな木があるんだけど、数年前に大きな地震が起きてその木が倒れてね。その木を植え直そうって事で一旦掘り起こしてみたら、そこから何と箱に入った古びた弓が出て来たの。それが後のアイクアル王国の鑑定で、ライオネルの弓だって判明したのよ!」

「ライオネルの弓だって!?」


 分散して聞き込みを続けていたメンバーの内、この女に聞き込みをしていたソランジュが驚く。

 その横では、その話を初めて聞くティーナも表情が引きつっていた。


「その話、ここが地元の私達も初めて聞いたんですけど……」

「それはそうですわ、ティーナお嬢様。何せ、ライオネルの弓が出て来たとなれば世界が大騒ぎになりますから、どうか他国には内密にして欲しいって言う事で今もまだ村に保管されていますのよ」

「えっ、王都に保管されているんじゃないのか?」

「いいえ。確かに最初は王都のロンダールに保管しようと言う話が持ち上がったわ。だけどこの弓を使っていたライオネルは、その昔に暴力的な人間や魔物達から私達の村を救ってくれた英雄様だからその村の守護神と言う事で、形見の弓を祀っているのよ」

「そうなのか……それで、その村って言うのは何処の村なんだ?」

「獣人だけの集落のルルトゼル。そこに行けば見つかる筈よ」


 と言うか、それこそいきなりやって来た他の国の人間にこうもあっさりペラペラと話して良い話なのか?

 その疑問を熊獣人の女にソランジュがぶつけてみると、彼女は複雑そうな表情で答えた。


「それは私も最初、話すべきかどうか迷ったんだけどねえ……他国には秘密にしている情報だし。でもティーナお嬢様のご友人だし、ルルトゼルに人間が入ろうと思っても入れてくれないから大丈夫だって思ってね」

「えっ、入れてくれないのか?」

「そうよ。今の話の中で、暴力的な人間や魔物からライオネルが村を守ってくれたって話をしたでしょ。それ以来、人間は絶対に村の中に入れないってのが村の掟になったの。それが例え、あの暴君で有名なソルイール帝国の皇帝でもね!」

「あ、そうなんですか……」

「私の知り合いだとしてもダメですか?」

「ティーナお嬢様のお知り合いの方でも、こればかりは承諾出来ませんね。ライオネル本人か獣人であれば村のみんなも歓迎するだろうけど、人間は立ち入り禁止。だからもし、人目でもあの弓を見たいと思っているなら貴女も諦めな。私も勿論村の掟に従って、あの村に人間が入るのは嫌だから場所も教えないよ」


 最後に何だかモヤモヤした会話になってしまったものの、ライオネルに関する重要な情報を手に入れたソランジュとドリス。

 場所も教えてくれないとなると、まずはそのルルトゼルの場所を探さなければならない。

 しかし、それについてはティーナが既に知っていた。


「あの人はああ言っているけど、私がルルトゼルの場所を知っているから教えてあげますわ」

「良いのか? 従業員を裏切る形になるぞ?」

「確かにそれはありますが、今は世界の危機が迫っているかも知れないんですのよ。ですからその状況で村の掟だとか何とかって言っていられないですわ」


 その瞳に強い決意を宿したティーナは、ソランジュとともに他のメンバーにこの事実を報告する事にした。

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