563.盗賊団の繋がり
続いて、コックの狼獣人の男がミネットに話を振られる。
「ねえ、シリルコック長も知っているんでしょ? と言うかその盗賊団のお頭とやらに遭遇して、戦った事があるのよね?」
「まぁ……あるにはあるが」
何処か歯切れの悪い答え方をする、この狼獣人のコックのシリルと言う男。
だが、今はとにかくどんな小さな情報でも逃がす事が出来ないレウス達は、何とか彼から情報を聞き出そうと試みる。
「何か知っている事があったら教えてくれないか。俺達はこの国の騎士団から頼まれて、こうして追い掛ける為に準備をしているんだ」
「いや、それは分かってんだけどよぉ……追い掛けるっつってもあの盗賊団はメチャクチャ素早いって有名なんだぜ? そんなのに追い付けんのかぁ?」
ハナっから疑う様な視線を向けて来るシリルだが、それでも自分達が因縁を持ってしまった以上は追わなければならないし、エドガーの行方も掴めるかも知れない。
なのでそれでも行かなければならないと言えば、シリルは狼の鼻の部分をポリポリと指で掻きながら溜め息を吐いた。
「かーっ、全くどうして最近の若者は無茶をするかねえ?」
「あんただって十分若いと思うけど」
「俺はもう二十五のオヤジだぜ。こっちのミネットはまだ十八だから、お前等を見てると無茶しねーかって心配になるんだけどよ」
二十五と言えばまだまだ若い気がするが、そこは彼と自分の価値観の違いなんだろうとレウスは諦めた。
それでもその熱意に押されたのか、シリルは自分が知っている限りの情報を教える事にする。
「まぁ、それでも止めねえってんなら勝手にすりゃー良いさ。俺は一応忠告したかんな」
「ご忠告ありがとう。で、あんたの知っている事は?」
「俺の知っている事っつーか……昔の傭兵仲間から聞いた話なんだけどよぉ、その盗賊団はこのシルヴェン王国を囲っているアイクアルの全域で目撃されているらしいぜ」
「傭兵? 貴方、傭兵だったの?」
「そうだよ。俺は五年前まで傭兵やってて、それからここで働き始めたんだ。その時からの知り合いで現役で活動している奴も一杯居てさ、まだ繋がりがある連中から盗賊団の話を聞く為に魔術通信で連絡したんだよ。そうしたら今回の襲撃の前に、やっぱりあのウルリーカって女が率いている盗賊団が姿をちょいちょい見せているらしいぜ」
傭兵仲間を通じて得た情報を基に、今回の事件で姿を見せたシンベリ盗賊団の行き先についてアイクアルだと見当をつけるシリル。
何時までもこの小さな王国の中に居る訳が無い、と考えればもっと大きなアイクアル王国の中に行くのは明白だろうし、事実このシルヴェン王国の中にまだ居るよりも捕まるリスクは低い。
ドラゴン襲撃や魔力を使った大砲での砲撃と同時期に、自分達の周りであのウルリーカ達が暗躍していたのを考えれば、確かにその可能性は高いだろうとレウス達も考える。
だが、レウス達の考えはそこから若干違った。
「俺達としては、カシュラーゼに行った可能性もあると思うんだけどなぁ」
「カシュラーゼ?」
「ああ。今回の大砲の砲撃とあの黒いドラゴンを開発したのは、どうやらカシュラーゼの連中らしいんだ。俺達はずっと旅をして来て、その情報を手に入れた」
「か、開発したってどう言う事なのよ?」
シリルとミネットはこの話を聞くのは初めて。
なので自分達の正体を隠しつつ掻い摘んでその事情を説明すると、二人とも唖然とした表情になった。
「生物兵器に……魔力の兵器って、それは本当なの?」
「嘘でここまで詳しく説明出来る訳も無さそうだな。ってこたぁ、カシュラーゼの連中はその実験とやらの為に、このシロッコをこんなにボロボロにしやがったのか!」
「ああ。そのメモにもそう書いてあるだろう?」
証拠として持って行くべくレメディオス達から返して貰った、あの広場でヨハンナの懐から落ちたメモを二人に見せれば、二人とも悔しそうな表情を浮かべる。
「でも、カシュラーゼにはかなり強力な魔術防壁が張ってあって、その影響で部外者は入れない様になっているらしいの。それを何とか破れる様な方法があれば良いんだろうけどね」
今の所、その手立てが見つかっていないのでカシュラーゼに向かっても無駄足で終わってしまうだろうと考えるサイカ。
そのサイカを始めとする一行に対し、ふとシリルが思い出した事があった。
「あ、それとよぉ……そのシンベリ盗賊団の連中ってのは他の盗賊団と連携も取っているらしいんだよ」
「連携?」
「そうそう。他の盗賊団との繋がりを駆使して、何処にお宝があるとかそうした情報を共有してるらしいぜ。以前盗賊を捕まえた傭兵連中の奴等が話していたのを思い出したんだ。まぁ……ただでそんな情報を共有する訳にもいかねえから、「情報料」とかって名目で金のやり取りも同時に発生しているみてえだけどよぉ」
「情報料……ね。流石盗賊団と言うか、金になる事には抜け目が無いんだな」
苦笑いを浮かべるレウス達だが、カシュラーゼに自分達が入れそうに無い以上は、とりあえず少しでもシンベリ盗賊団の連中が逃げて行った可能性のあるアイクアル王国へと向かう事になった。




