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561.手に入れた物

 しかし、その中身が何だったのかはエルザもエドガーの身体が壁になっていて見られなかったので、その事実をこれから調べに行かなければならない。

 それにはまず、あのウルリーカやエドガー達が何処に向かったのかを突き止めなければならないが、大方カシュラーゼだと予想がつくのが何だかもどかしい。


「エドガーが裏切っていたのはショックだが、前々から俺達がそう思っていた事がついに現実になったかって話だ。とにかく今はこの事を王都のシロッコに戻って、騎士団の連中に伝えよう」

「ええ。まだそう遠くへは行っていない筈だし、何か有力な手掛かりが掴めるかも知れないからね」


 レウスの提案にドリスや他のメンバーも頷き、王都に戻ってこれからの行動を練る事にする。

 しかし、気掛かりなのはやはりエルザの精神的ダメージである。


「まさか、エドガー叔父さんが……」


 坑道から出る事にした一行は、ブツブツとそう呟くエルザに声も掛けられずに気まずい状態が続く。


「現実に関わりがあったって事になるのか。しかし、こうなると本当に厄介な相手が現われたもんだな……」

「あの落ち込み様じゃあ……流石に声も掛けられないからそっとしておこう」

「そうね。それが一番だわ」


 ソランジュとアレットとサイカがそうヒソヒソと言い合うのを前で聞いていたイルダーが、ここで話題を切り替えて自分は着いて行けないと言い出した。


「あっ、そうだ。僕は王都には行けないからね」

「え、どうしてです?」

「どうしてって……分かるでしょ。僕は村の連中と一緒にこの中の盗賊団の死体とか、魔物の死体とかを片付けに来なきゃならないんだよ。ただでさえ森の中は魔物が生息していて危ないのに、その奥にあるここに血の臭いを嗅いでその魔物達が入って来たらとんでもない事になるからさ」

「そう言えばそうでしたわね」

「そうだよ。僕はガルレリッヒ村の村長の息子なんだから、こうした事も僕が主導しないとさ」


 生意気で自信家だと思っていたこのイルダーが、その一言で何だか頼もしく見えるのは気のせいでは無いのかも知れない。

 となれば確かに自分達に着いて来られないのは仕方が無いだろう、と思いながらガルレリッヒ村に帰った一行は、そのイルダーに別れを告げてワイバーンで王都のシロッコへと向かった。



 ◇



「で、手に入れたのはたったそれだけだったの? 暗かったから明かり用の魔晶石まで使って?」

「そーなんだよ。箱の中から出て来たのはこの手紙だけさ」


 ワイバーンを使ってカシュラーゼの研究室まで戻って来たエドガーに対し、ディルクは昼食として人肉のハンバーグを食べながら訪ねる。

 その様子を見ながら、エドガーは疲れた表情のまま古びた紙をピラピラと振る。


「あーちょっと、古い物だからあんまり雑に扱って破れちゃったりしても困るんで、そーやってやらないでくれる?」

「すまんすまん。でもこの中に書いてある事、まだ俺も読んでねえんだよ。だから一緒に読んでくれねえか?」

「えー? やだよ。だって僕、今食事してんだからさあ。とりあえず君が読み聞かせしてくれないか?」

「ん、分かった」


 あの暗闇の通路の奥にある箱の中から取り出したのは、この古びた手紙たった一枚だけ。

 しかもそれをまだ読んでいないと言う話なので、ディルクは昼食のおかずの一つとしてそのエドガーの読み聞かせに耳を傾ける事に決めた。


「えーと、じゃあ読むぜ。……私がここに来て、近隣の小さな村に身を隠しました。しかし、私一人では心細かった上に、風の噂であの男が私を追い掛ける為に動き出したのを耳にしました。あの男は自分の失態を隠す為に私を絶対に殺しに来ると思います」

「何だか物騒な話だね。それって誰の手紙なの?」

「分かんねえ。名前も何も書いてねえもん」


 初っ端から胸騒ぎがしそうな手紙の内容に、二人の心もざわめき始めながらも読み聞かせを続けるエドガーとそれを聞き続けるディルク。


「そうこうしている内に、ガラハッドが私を追い掛けて来ている噂と一緒にライオネルが西の国であるエレデラムに居る事を突き止めました。エレデラムまで逃げてライオネルに匿って貰えば、あのガラハッドの魔の手から逃れられる気がしました。……あれ、ガラハッドって確かエスヴァリークの初代皇帝だったよな?」

「そうだね。でもそれ以上に僕が気になるのは、ライオネルって男の話だよ。それってもしかして、ライオネルとガラハッドに関わる誰かが書いた手紙って事だよね?」


 ディルクはこの時点で、誰がこの手紙を書いたのか薄々感づいていた。


「内容からすると、それってもしかしてさ……レウスが生まれ変わる前にアークトゥルスとしてのパーティーメンバーとして一緒に活動していた、エレインって女の話じゃないかな?」

「エレイン? 五勇者の一人の?」

「そうそう。確かエヴィル・ワンの討伐後にエスヴァリークを建国したガラハッドと結婚したって言われている女の話さ。でもその手紙の内容が本当だとすると、色々と複雑な事情があるみたいだねえ?」


 そう言いながらハンバーグを口に運ぶディルクを見て、エドガーは苦笑いを浮かべながら突っ込んだ。


「あんた、何だか嬉しそうだな?」

「そりゃそうだよ。人と人がいがみ合うのを見るの以上に楽しい事なんか無いもん」

「かなり捻くれてんなぁ」

「君に言われたくないよ。エヴィル・ワンを復活させて世界に復讐しようとしている、君にはね……」

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