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558.思わぬ再会

(一体誰なんだ?)


 見知らぬ男の正体を確かめるべく、イルダーはこっそりと扉の前で何かをしているその男に向かって近づく。

 だが次の瞬間、彼の目の前でいきなりその扉がゴゴゴゴゴ……と音を立てて開き始めたのだ。


「なっ!?」

「ん……てめぇは誰だ?」

「あっ……」


 思わず声が出てしまった事で、せっかく悟られない様に近づいていた自分の存在に気付かれてしまったイルダーは、咄嗟にロングソードの先端を男に向かって突きつけた。


「そ、それはこっちのセリフだ。お前こそ一体誰なんだよ!? それにそこの扉をどうやって開けたんだ!?」

「ん~? ここか。ここはまあ、この石像をここにはめ込んで魔力を送り込み続けてたら開いちまったよ」


 流石に魔力の消耗も激しいがな、と男はやや疲れた表情で呟くが、まだイルダーが聞きたいもう一つの答えを聞いていない。


「それは分かった。だからお前は誰なんだって聞いているんだよ!」

「俺か? 俺はカシュラーゼと仲良しのおっさんだよ。それ以上でもそれ以下でも無いのさ」

「何を気取ってんだ! 良いから名前と身分を明かせってんだよ!」

「おいおい……そんなにギャーギャー騒ぐなよ。ほら、そっちから敵が来てるしさ」

「え?」


 背後を指差され、思わず振り向いてしまうイルダーだったが、その瞬間腹部に強い衝撃を受けた。


「ぐほぉ!!」

「こんな簡単な手に引っ掛かってんじゃねえよ。戦場は何時誰が敵になるか分からねえんだぜ?」

「ぐおあああああっ!!」


 腹を蹴られて地面に倒れたイルダーは、素早く起き上がって反撃をしようと試みる。

 しかし、それは男の方が許してくれなかった。


「悪い、今は時間がねえから相手してらんねえのよ」

「うおああああっ……ぐへぇ!?」


 大柄な男はその自分の体格を利用して、イルダーを全力で持ち上げて後ろの岩壁にぶつける。

 全身に岩壁の衝撃を受けたイルダーは、一瞬呼吸が止まったまま受け身も取れずに地面に落ちる。だが、男はそんなイルダーにも容赦せずに全力で駆け寄ったかと思うと、立ち上がりかけた彼に向かって全力の飛び蹴りをお見舞いした。


「ぐぅあ……」

「さーて、扉も開いたし探し物っと」


 何度も身体に衝撃を受けて気絶してしまったイルダーを一瞥し、男は扉の奥へと進む。

 しかしそこは二十歩位歩いた所で行き止まりになっており、その場所には小さいながらも割としっかりとした作りの木箱が置いてあった。


(へー、これがこの場所にあるお宝か。これは一体何かなーっと)


 まるで盗賊団の団長にでもなった様な気分だが、今の自分は無理を言ってカシュラーゼからここに派遣して貰った身なので、さっさと中身を確認して立ち去ろうと考えた。

 しかし、そんな彼の後ろから大声で怒鳴りつける者が現われた。


「おいっ、そこで何をしているっ!?」

「ん~?」


 何だか聞き覚えのある声だなあ、と男が振り向いたその視線の先には、声の通り見覚えのある人物が一人立っていたのだ。

 その人物が男の姿を認識した時、その威勢の良い声が一気にトーンダウンした。


「……え?」

「何だ、エルザかよ。まさかここまで来ているなんてよっぽど暇人らしいな? ってか、お前が学院から居なくなったままでみんな心配してたぜ?」

「な、何で……」

「まぁ、それも仕方ねえかも知れねえなあ。だってレウスとアレットとお前を誘拐する様に、あのウォレスって奴に命じたのは俺だしなあ」

「……」

「それにお前は色々とカシュラーゼの事を嗅ぎ回ってくれているみたいだし、実際にカシュラーゼに被害だって出ている訳だから、これ以上邪魔されたくねえんだよなあ」

「う……うるさい! 何で? どうして叔父さんが……エドガー叔父さんが、何でカシュラーゼ側に回ったんだ!?」


 男の正体は、自分の叔父であり通っているマウデル騎士学院の学院長でもあるエドガー。

 その事実を知ったエルザは、先程遭遇したあのウルリーカと言う女が率いている盗賊団と戦い、そして広場を突っ切ってこの扉の前までやって来た。

 そうしたらこの扉が開いていて、中に居た人物がまさかのエドガーだった事で大変なショックを受けている状況なのだ。

 そんな彼女に対して、エドガーは当たり前の様に答える。


「俺には俺のやるべき事があるんでね。その為にはカシュラーゼの協力が必要だった」

「やっぱり……エドガー叔父さんだけじゃなくて、レウスの両親まで裏切った可能性があるんじゃないかて思っていたけど、それは本当だったのか!!」


 怒りに顔を赤くするエルザに対し、エドガーは鼻で笑って答える。


「はっ、お前達もそれなりに調べたんじゃねえか。じゃあ一つだけ良い事を教えてやる」

「良い事?」

「ああ。マウデル騎士学院の爆破事件は俺が引き起こしたのさ」

「な……」

「考えてもみろよ。あんなセキュリティが厳重な所に入れる人物はそうそう居ない。だが俺はあの学院の学院長だから、幾らでも理由をつけて入れるのさ。そう、全ては俺の自作自演って奴だよ!!」


 そのセリフを言い切ると同時に、ズボンのポケットから取り出した魔晶石をエルザに向かって投げ付けるエドガー。

 咄嗟にエルザは両手のバトルアックスでそれを弾き落とすも、その瞬間石が飛散して中から大量の白い煙が襲い掛かる。


「ぶほっ……ぐは!?」


 煙で視界が利かなくなったエルザの腹部を思いっ切り蹴って悶絶させ、彼女が後ろに転がって道が開けたエドガーは、残りの始末を仲間のウルリーカ達に任せてその場から素早く退散して行った。


 九章 完

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