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557.見えた人影

 ヒルトン姉妹とアニータのグループ、それからソランジュとサイカとイルダーのグループはそれぞれ襲い掛かって来る敵を倒しながら、少しずつ最深部に向かって進み続ける。

 最初こそ向かって来る敵の量が多くて苦戦していたが、段々とこの狭い坑道の中での戦い方が分かって来た。

 自分達が複数人のグループ、相手も人間や獣人や魔物の混成グループで入り乱れてのバトルになりやすい。その上、こうした坑道内はスペースに限りがある為、敵と味方を間違えて攻撃してしまいそうになる。

 だからこそなるべくバラバラに分散して戦う事で、同士討ちの可能性を出来るだけ低くするのだ。

 魔物の討伐を主な任務とするイルダーは、実際に森林地帯や渓谷の中と言う限られた場所での訓練や任務の経験も無い訳では無い。

 しかしまだまだその経験が少なく、しかもこうした大人数でのバトルも余り経験した事が無い上に、なかなか足元も悪いので最初は苦戦していた。

 それが場数をこなして行く内に、自分で考えて戦う事を覚えている。ソランジュとサイカがここでの戦い方を分かって来ている様に、イルダーもまた少しずつ進化しているのだ。


「ソランジュ!」

「三人とも! 無事だったか!」

「ええ、何とかね」

「ちょっと、僕も居るんだけど忘れないでくれる?」


 進化しながら最深部へと向かった二つのグループは、最終的に武装集団と魔物が集結していたあの広場を二階部分から見下ろす形で出口に辿り着いた。

 二つの出入り口が隣同士で開けられており、その出入り口の前の高台になっている場所で合流出来たまでは良かったのだが、お互いの無事を喜ぶ暇は無いらしい。


「なぁ、凄い足音みたいなのが聞こえないか?」

「うん……聞こえるわね」

「この広場全体から聞こえる、それも一つ二つじゃなくて沢山の足音……何か怪しい気がするね」


 そもそもこの広場はかなりのスペースがあるので、それこそ大きな魔物でも歩いていない限りはこの二階部分まで足音は聞こえない筈。

 それを不審に思った全員が広場に向かってゆっくりと顔を動かすと、広場の中を歩き回っている大小様々な魔物、それから人間や獣人と思われる影が続々と目に入った。


「えっ、な、何だあの敵の数は!?」

「ちょっと……あれは流石にあり得ないでしょ! 多過ぎよ!!」

「この最深部に、こんなに魔物や部外者らしき人影が居るなんて流石に見た事も聞いた事も無い。これはきっと何かがあるね」


 冷静にこの状況を解説するイルダーの横で、今も驚愕の表情を浮かべるソランジュが頷く。


「ああ。だがこれだけの敵が居るとなると、流石に私達だけでは厳しいかも知れないな。ケルベロスも複数居るし」


 やっとここに出て来たその勢いで、迂闊に踏み込んでやられていたら……と思うと思わず身震いしてしまう一行。

 偶然にも、ほぼ同時にこうして出入り口で出会った事によって足を止め、ここでじっくりと広場の様子を観察する事が出来ているが、観察途中でクラリッサが違和感を覚えたポイントがあった。


「ねぇ、あそこに妙な人影が無いかしら?」

「え?」


 広場の一角の壁際に、魔物や他の人影には目もくれずに壁に向かって何かをしている人間のシルエットが見える。

 こんな魔物や武装集団が闊歩している中でその姿勢は明らかにおかしいので、イルダーが懐から望遠鏡を取り出してその人影をもう少し詳しくチェックする。


「あれは……体格からするとどうやら男だな」

「男?」

「ああ。背が高い黒髪の男で、黄色いズボンに赤い上着で、水色のマントを着用していて、茶色の長い手袋とブーツを身に着けている」

「ふむ……ちょっと私にも見せてくれないか?」

「ああ、どうぞ」


 半ば奪い取る様にしてイルダーから望遠鏡を奪い取り、ソランジュもその人影を確認。


「本当だ。でも見た事の無い人間だな」

「ちょ、ちょっと、私にも見せてよ!」


 続いてサイカが望遠鏡を覗き込むと、ソランジュと同じ様な反応が返って来る。


「あれって誰なの!?」

「いや、私に聞かれても分からないわよ。でもこんな場所でああやって妙な行動をしているって事は、少なくとも普通の人じゃないわよね?」

「そうだな」


 続いてヒルトン姉妹とアニータも望遠鏡を覗き込んでみるが、三人とも戸惑いの色しか出て来ない。


「誰でしょう、あの方……」

「服装からすると貴族みたいな身なりをしているわね。となると、この下に見えている魔物達の発生原因の人間かも知れないわよ?」

「あれが私達の知らない誰かにしても、まだ敵か味方かは分からないわ」


 もしかしたら一般人かも知れないので、もしそうならここは危険なので当然助けに行かなければ。

 六人はひとまず、この二階部分の出入り口から螺旋らせん状に繋がる坂道の通路を下りる。

 しかしその六人の着ている鎧のガチャガチャと言う金属音や足音、それから気配等は当然広場の人間や獣人達、そして魔物達に伝わって行く。


「ん? おい、侵入者だ!」

「何ですって? 迎え撃つわよ!!」


 ソランジュやクラリッサもそれはある程度予想していたので、倒しやすい小型の魔物や人間や獣人相手に武器を構えて迎え撃ち始める。

 その一方で一般人のイルダーが、なるべく壁際を進んでその存在を悟られない様にしながら先程望遠鏡の中に見た黒髪の男の元へと近付く。

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