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555.最深部にて

 その後、一旦体勢を立て直したレウスとアレットとエルザのグループは余り戦わずに済んでいた。

 先程まで魔物をかなり駆除したおかげか、今は時折り武器を握って魔術も併用して戦いながら順調に地下に向かって進む事が出来ている。

 それでもレウスの中から不安は消えてくれないばかりか、むしろその不安な気持ちが徐々に彼の心を蝕んで行く。

 このまま最深部まで進んで行ったら何か悪い予感がするのだ。


(杞憂で終われば良い……か)


 そのアニータのセリフが今になって思い返されるが、この先に一体何があるのかと言う気持ちもあるので杞憂で終わって欲しいのはレウスも一緒だ。

 道幅の広い坑道を総勢三人で、たまに現れる人間や獣人や魔物を倒しながら進む。

 どうやらあの行動の外で見かけた足跡の主達も、坑道の中に起こっている異変を察知して姿を見せ始めたらしい。

 そして何度目になるか分からない襲撃が終了した所で、レウスが地図を広げて今の場所を確認する。


「ここを通ってここまで来て……ここがこうで……こうなってるから……良し、この先が最深部だ」


 そう言いながら地図から顔を上げるレウスの視線の先には、大きく逆U字型にくり抜かれた岩壁がある。

 掘り出した鉱物や人員の出入りがしやすい様にこの形で穴を開け、崩れない様に固定されている事からも分かる通り、この穴の先に広がっている大きな広場がこの坑道の最深部になるらしい。

 今まで魔物達や武装集団が襲い掛かって来たのは、十中八九この最深部から始まっていると見て間違い無さそうである。


「二人とも、準備は良いか?」


 振り返って確認するレウスに、彼と一緒にここまでやって来たアレットとエルザは無言で頷きを返した。


「では行くぞ」


 自分の槍を構えて歩き出すレウスに続く二人の学生だが、いきなり広場の中に入る様な事はしない。まずは最深部の中の様子をじっくりと窺い、それから突入する予定だ。

 ここから魔物や武装集団が現われているとなれば、トラップの一つや二つがあったっておかしくないからだ。


「……どうだ?」


 エルザが恐る恐ると言った表情と声色で、広場の様子を覗き見るレウスに尋ねるが、彼のその表情は硬い。


「中は生物の気配がする。それも複数だ。それと……ここからでは顔は元より服装も良く判別出来ないのだが、誰かリーダー格の人間が居るのが分かる。ええっと……黒髪の人間だな。背格好からすると女かな。そいつが、坑道の奥にある鉄製の扉に向かって何かをしているらしいな」

「えっ?」


 鉄製の扉に向かって何かをしている、と言うと真っ先に思い出すのが「銅像」と言う単語。

 探査魔術で探れるのはあくまでも生物の気配と生体反応だけ。それが一体何者かと言う事までは、実際にその目で確認しない限り全く分からないのだ。


「そ、それ以外に誰かリーダー格の様な人間は居ないのかしら? 魔物が居たりとか……」

「魔物も居る。それもかなり沢山だ」


 レウスの目に映ったのは人間や獣人ばかりでは無く、明らかに自分達を待ち伏せている大小数々の魔物達であった。


「本当に貴方にはそう見えるの? 例えば何処に何が居るのよ?」

「ええと……あそこの一帯に見えるだけでも十人程の槍を持った連中、あっちには小型の魔物が一……七……二十匹位、でかい三つ首の真っ赤な四足歩行の魔物も二匹見える。あれはケルベロスだな」

「貴様、冗談で言っている訳ではあるまいな?」

「冗談で言える内容じゃないぞ、これは! とにかく俺は忠告したし、あんな数の敵を相手にこの人数じゃ絶対に踏み込むのは無理だ」


 必死に訴え掛けるレウスのその顔から真剣さが窺える。

 冗談で言っている訳では無いとすれば、この三人だけで踏み込むのは無謀としか言い様が無い。


「……じゃあここは再び一旦退散して、作戦を練ったり応援を呼んだりした方が良いと思う」

「他の出入り口から入ったメンバーの動向も気になるしね。その奥に居る魔物とか、扉の前で何かやっているって黒髪の人とかの仲間と戦っているかも知れないし」


 だが、そう言いながらエルザが通路の先を覗いたその瞬間に彼女の表情が変わった。


「え?」

「おい、どうした?」

「あ、あの格好……それからあの黒髪を後ろで束ねている人って確か……うん、間違い無いな!」

「何が?」

「ここから見えるだけでわかる。あの格好とあの背格好は、私がイルダーとともにイズラルザの後に入ったあそこで見かけた女だ。ほら……騎士団で備品の管理に使っている洞窟の中で、貴様が赤毛の男と出会ったって言っていただろう?」

「ああ、あの男だな」

「私がその時、イルダーと一緒に出会ったんだよ。あの扉の前で何かをしているのは……シンベリ盗賊団の団長を務めていると自分で言っていた、ウルリーカ・アザミ・シンベリに間違い無いな」


 その瞬間、その話を聞いていたレウスとアレットの頭の中で一本の線が繋がった。


「おいちょっと待て、まさかそれって……」

「あの扉の前で何かをゴソゴソしているのが盗賊団の団長だとすれば、シロッコの貴族街から盗み出されたガルレリッヒ村の銅像を盗んだのも、どうやら彼女って事になりそうね」


 もしそうじゃなかったらこんな場所のこんな奥まで入って、扉の前でゴソゴソ何かをする訳が無い。

 レウスとアレットはそう思えて仕方が無かった。

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