552.坑道への道
登場人物紹介にウルリーカ・アザミ・シンベリを追加。
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朝っぱらからの手合わせも終了し、イルダーが気絶から回復したのはそれから三十分後の事であった。
それまでにパーティーメンバー達は村の中で坑道に関する情報収集を済ませ、多数の出入り口がある事や、その扉の話を仕入れて色々と準備を整えておく。
心配事と言えば、その坑道に繋がる森の中は魔物の生息地となっており、駆除しても駆除しても繁殖して湧き出て来るので厄介な場所らしい。
「君達よりも何倍もこの辺りを知っている僕は、坑道の中で鉱物の採集を父さんから命じられて、この村の仲間達と一緒に森の魔物を倒して森の奥にある坑道の中にも入った事があるんだ」
自分の家のリビングで大きなテーブルを囲んで朝食を食べながら、自分の武勇伝と自慢話を語り出すイルダーのマシンガントークは止まらない。
「幾ら坑道までの道が整備されているとは言っても、手前の森の中には色々な魔物が居る訳だし、その生態系も僕はずっと見て来たんだよ。僕がまだ十五歳だからと言っても、ここの経験は君達より僕の方が圧倒的に上なの。それからそこの女に僕は勝ってるんだから、一定の実力は示したでしょ?」
「まぁ、それは確かに貴様の言う通りだが……」
「だから道案内は僕に任せて、さっさと着いて来なよ。報酬なんてこっちは君達と戦えただけで十分なんだからさ」
こうして朝食を終え、イルダーに案内されて坑道に向かうレウス達はまず、その坑道の前に広がっている森を抜ける。
最終的には森の先にある坑道の入り口に辿り着くまでが最初の関門だが、森に入って早々に魔物達の襲撃を受ける事になったのだ。
「おい、向こうからも来たぞ!!」
「お主達は向こうだ。私達はこっちから攻める!!」
ソランジュが落ち着いた指示を出し、エルザが実働部隊の先頭に立って騎士団員達を動かして襲い掛かって来る沢山の魔物達を相手にしている。
地元民のイルダー曰く、今の時期は魔物達の繁殖期らしく数が増えやすい上に繁殖する魔物達の親は子供が増えると言う事で、ピリピリと気が立って凶暴化しやすいのだとか。
その話を聞いていたレウスはイルダーと一緒に行動し、素手でも戦える小型の魔物を相手に戦っていた。
魔物のサイズも大小様々であり、ウサギ位の小さなものからライオンやドラゴンサイズの高さや幅のある大きなものも居る。
「キシャアアアアッ!!」
カマキリを中型犬サイズに大きくした様な小型の魔物が襲い掛かって来る。
そのカマキリもどきの突進をしっかりかわし、レウスは動かなくなるまで槍の刺突攻撃を何発も叩き込んで絶命させる。
そう、絶命するまで、徹底的に。
(この森にこんなに魔物が多いなら、俺はなるべく怪我を負わない様に戦うしか無いだろう!)
魔物達が完全に「殺る」気でこっちに向かって来ているのに、それに対して生半可な気持ちで対処していたのでは駄目だ。
息絶えてから次の魔物に対して対処しなければならない。中途半端に対処しては、後々になってその魔物が回復してまた襲われかねない。
それが一体だけ復活するならまだしも、何体も同時に復活されて取り囲まれて……となったらあっと言う間にジ・エンドである。
だからこそ確実に殲滅していかなければいけないのだが、余り一体にばかり構っていると他の魔物もやって来るのでバランスと状況判断が大事だ。
(一匹をやっと潰したと思ったら、すぐにもう次のが来る! これじゃキリが無い!)
自分だけで無くイルダーもそうだし、他のパーティーメンバー達も魔物を相手に戦いながら確実に坑道に近付いているのは分かる。
だが、その中でレウスは地面に目をやってある事に気が付いた。
「おい、ちょっとみんなストップ!」
「どうしたのですか?」
「え、何?」
レウスの声に最初に反応を示したティーナとドリスを始め、魔物達を相手にしていた全員が手を止めてレウスの元へと集まる。
その一行に対して、レウスは地面を指差して怪訝そうな表情になった。
「見ろ、人の足跡だ」
「そうね。それがどうかしたの?」
「考えてもみろ、アレット。俺達がまだ踏み入れていない筈の方向にこんなに足跡がある。それもかなりの数だ。しかも状態からすると真新しいものだから、坑道の方に向かって大勢で何者かが進んで行ったって事になる」
そこで一旦言葉を切り、レウスはイルダーに目をやって尋ねる。
「おいイルダー、昨日か一昨日か……とにかくこの数日中にこの森に魔物の討伐の為に村の住民が入ったのか?」
「いいや、そんな話は聞いていないよ。そもそも討伐には僕の父親である村長の許可が必要だし、何時この森に入って魔物を討伐したのかって言うのを僕の家に記録して残しておくんだけど、最後に討伐したのが僕が旅行に出る前日だったから……二週間前だったよ」
そのイルダーの証言を聞き、サイカが心配そうな表情になった。
「まさか、村の子供達が遊びで入る様な場所じゃないわよね?」
「あり得ないよそんなの。この村で育った人間や獣人は戦える様になるまで森に入るのを厳しく禁止されるんだから。それにこの足跡からするとどう見ても大人のサイズだろうし……これは何かあるね」




