550.第2ラウンド
(えっ、何だ!?)
バトルアックスを構えながらもその光景を見逃さないエルザだが、かと言って止まる訳には行かないので、今度は前方に転がってからの横薙ぎでイルダーの右足を斬り裂く戦法に出る。
それをイルダーは小さくジャンプして回避し、腰から取り外した鞘を着地と同時に左手で横に振ってエルザの顔を殴り付けた。
「ぐへっ!?」
変な声を上げつつ再び地面に転がったエルザに、更に追撃を掛けるべくイルダーは小走りで接近。
だがそれはエルザの策略でもあった。
(掛かったな!!)
エルザは上手くそのまま転がって起き上がり、自分のバトルアックスを両手の二本とも地面に思いっ切り叩き付ける。
その瞬間、ドォン!! と大地を揺るがす強い衝撃がリングを取り囲む人間達の身体に伝わる。
そんな技を初めて見るアレット以外の他のパーティーメンバーの中で、ソランジュがその技についてアレットに聞いてみる。
「お、おいアレット。エルザの今のあれは何だ?」
「あれはエルザの必殺技の一つよ」
「必殺技……?」
必殺技があるのは知っているが、実際にエルザが使うのを聞いたのは初めてである他のパーティーメンバー達。
「ええ。インパクトバスターハンマーって言って、叩き付けたあのバトルアックスから衝撃波を出して、その衝撃波で相手を吹っ飛ばすのよ。本来はもっと大きな……こう両手で持つ様な大きなバトルアックスでやるのが効果的なんだけど、ああやって両手で同時に叩き付けても使えるのよね」
「ああ、そう言えばドリスのハルバードでも同じ技がありますわ」
説明するアレットと自分の妹の事を思い出したティーナの視線の先では、エルザのそのインパクトバスターハンマーから放たれた衝撃波で吹っ飛ばされたイルダーが、身体の汚れを手で払いつつ立ち上がっていた。
「へぇ、そんな技がね。じゃあ僕も……ヘルファイア!!」
「なっ……」
ニヤリと笑いながら、地面スレスレに繰り出されたイルダーの手から噴き出した炎が、物凄いスピードでエルザに襲い掛かる。
「くっ!」
間一髪でエルザはそれを回避するものの、大きな隙が出来た彼女の顔の前にはロングソードの先端が突き付けられていた。
「そこまで! 勝者、イルダー・シバエフ!!」
高らかにレウスの声が上がり、この瞬間エルザの負けが決定した……のだが、どうやらまだイルダーは物足りないらしい。
「何だよ……張り合いが無いなあ。もっと良さそうなの居ないの?」
そう言いながらキョロキョロと辺りを見渡すイルダーの視線と、レウスの視線がピッタリと合う。
その瞬間、まるで新しいおもちゃを見つけた子供の様な顔でイルダーは手招きをした。
「え、お……俺?」
「そう言えば君も一緒に僕と行動していたんだっけ? だったら今度は君と勝負してあげるよ」
まだ学生とは言え、未来の騎士団員として鍛錬を積んで来たエルザが負けてしまうと言うまさかの展開に、パーティーメンバー達の間にざわめきが走る。
そしてそのざわめきが証明するのは、このイルダーと言う男が未来の騎士団員を大勢の面前で負かしたと言う事実だ。
イルダーは次に、自分と目が合ったレウスに対してバトルフィールドに来る様に指示をする。
(戦ってあげるよ……って、結構な上から目線だがそれだけの実力はどうやら持っているみたいだな)
エルザが負けてしまった事で殺気立っている周りのパーティーメンバー達からの視線もあるが、それ以上に気に掛かるのはこの誘われた事態を彼女達がどう見るかだった。
「……俺、やらなきゃならないのか?」
別に戦う為にここまで来た訳じゃ無いんだが……と思いつつも、この状況だとどうすれば良いのかレウスは自分の中で冷静な分析が出来ていない。
すがる様な目つきでレウスをチラリと見るが、彼は腕を組んだままじっとレウスの方を見据えている。
それは「止めろ」と言うものか、それとも「やっちまえ」と言う意思表示なのか。
ロルフは戻って来たエルザに皮袋に入れて持って来た水を渡して、レウスと同じ様にレウスを見つめている。
「ねー、どーすんの? やるの、やらないの?」
急かす様な口調のイルダーを鋭い目つきで見据え、レウスは一言だけ発した。
「やってやる」
「そう来なくちゃね。でも、勝ちたいんだろうけど僕が勝つと言う事実は変わらない。そこはキッチリ覚えておいてよね。女相手じゃあ、僕だって本気を出せていなかった分ちゃんとしたバトルが出来るんだからさ!」
「な……何だと?」
その時レウス以上に、それを聞いていたドリスが何かにキレてしまった。
ドラゴン相手に戦って来た私達ををなめている。女の戦士をなめている。ここまで言われてしまっては、レウスが出るよりも自分が出て完璧に実力の差を分からせてやる。
その感情から、ドリスがレウスの前に立ち塞がる形でリングの中に飛び込んだ。
「ちょっと待ってよ。レウスの代わりに私がやってやるわよ!」
「君がかい?」
「ええ、問題無いなら良いでしょ? これでも私だって負けるつもりは無いんだからね!」
「ふーん、随分と自信があるんだね。それじゃさっさと始めようよ」




