547.泥棒
エドガーがそう言い残して出発準備を始めた頃、レウス達も出発準備を始めていた。
何故なら、レウス達もそのガルレリッヒ村の話をレメディオス達から聞いて早速そこに向かおうと考えていたからだ。
ちなみに騎士団の三人は王都の復興があるので、一緒にそのガルレリッヒ村とやらには行けないとの話が出たがこれは仕方が無いとレウス達も諦める。
その代わり簡単に地図を書いて渡してくれたので、後はこれを参考にして人伝いに話を聞いて向かうしか無いだろう。
「それじゃあ世話になったな」
「私達の方こそ住民の避難を手伝ってくれて感謝する。せっかくだから城門まで送ろう」
「いえ、私達だけで大丈夫ですから皆さんは城下町の方に戻って頂いて、現場復興の指揮の続きを」
「そっか。それじゃ気を付けて行けよ。何か見つかったら俺達に連絡をよこせ!」
レメディオス、ロルフ、クラリッサの三人に見送られ、レウス達は崩壊した中心街の方をなるべく通らない様にしながら城門の出入り口を目指して歩き始める。
考えてみれば、この王都シロッコに居た時間はかなり短かったなーと今までの話の流れを振り返ってみて感じるレウス達だが、そんな一行が貴族街から迂回して城門へと向かっていると、前の方からパーティーメンバーの中の数人が見知った人物が歩いて来るのに気が付いた。
「ん? おい、あれって……」
「あの黄緑のコートに身を包んだ格好って、もしかしてエリアスって言う男じゃなかったか?」
「え? エリアス坊っちゃん!?」
「そう言えばあなた達、その砲台があったって言う森の中であのエリアスって言う人に助けて貰ったって言ってたわよね?」
「ああ、そうだ。あのエリアスは命の恩人だよ」
城門から出て行くよりも先に、この王都シロッコの中でエリアスと再会する事になった一行。
そのエリアスもどうやらこちらに気が付いたらしく、ハッとした顔になって小走りで近寄って来た。
「レウスにエルザ、それからヒルトン姉妹のお嬢さん達じゃないか。こんな所で大勢で一体何をしているんだ?」
「これから俺達、ガルレリッヒ村へと向かう予定なんだ。ちょっと野暮用があってな。そう言うエリアスこそ一体ここで何をしているんだ? 貴族街の住民に事情を説明して回っていたのか?」
しかし、その質問に対してエリアスは表情を曇らせてテンションが下がる。
「いや、そうじゃない」
「ならどうした?」
「……貴族達への事情説明はもう済んだんだが、その貴族達の屋敷の何件かが荒らされているんだ。どうやら泥棒に入られたらしい」
「ど、泥棒?」
「ああ。それもかなりの大貴族の屋敷を中心に狙いを定めている泥棒らしくて、調度品や貴金属等の金目の物がかなりやられたらしい。俺もさっき聞いてビックリして、一軒一軒の被害状況を確認して回っていたんだ」
いきなり不穏な状況を説明したエリアスに対して、レウスを始めとするパーティーメンバー達はざわつく。
こうした災害や緊急事態の時こそ、無防備な状態で家から避難してしまう為にこうした窃盗事件が起こりやすいのは世間での一般常識である。
それがまさか、こんな貴族街の中で行なわれているなんて……とエリアスのショックはかなり大きなものだった。
しかしレウス達には、その泥棒騒ぎが何時起こったのかが分からないので、エリアスにもう少し詳しく内容を聞いてみる。
「それってどのタイミングで起こったんだ? このシロッコが砲撃された後か? それともそれよりもっと前の話か?」
「シロッコが砲撃された後らしい。俺が貴族達に話を聞いて来た限りでは、今日このシロッコが砲撃されて避難指示が出るまでは特に何とも無かったって話だった。そしてさっき、それぞれの貴族達を家に送り届けた後に色々な物が無くなっているのを確認出来たらしいんだよ」
「らしい、が多いな?」
「そりゃあそうだろう。だって俺だって貴族連中から聞いた話で、俺の話じゃないからな。ちなみに俺の家も一緒に見て来たが、俺の家には何も被害が無かったんだ」
一体何処の誰がこんな泥棒騒ぎを起こしたのか定かでは無いが、エリアスは更に気になる話を今回その泥棒被害にあった貴族の一人から聞いたらしい。
「それとさ、貴族の中にガルレリッヒ村に親戚が居るのが居るんだが……その貴族の家に親戚から贈られた、ガルレリッヒ村の重要な物が盗まれていたらしいんだよ」
「重要な物?」
「まあ贈られたって言うか、正確にはその親戚がしていた借金のカタに奪い取ったらしい物だったらしいんだけど……小さな石像らしいんだよ。こんな手の平に乗るサイズだから、何か金目の物だったんじゃないのかな?」
確かに、借金のカタに奪い取られる様な物であればそれなりの値段はつくだろう。
しかし自分達がこれから向かおうとしているのもガルレリッヒ村で、その盗まれた石像の出所もガルレリッヒ村だと言うのは、これはただの偶然にしては少し出来過ぎている気がする……とレウスは思わざるを得なかった。
このシルヴェン王国での話はきっとまだ終わっていない、まだ何かある様な気がして仕方が無い。そう思いながらエリアスに別れを告げ、一行は城門へと足を進めた。




