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52.カナカナの攻防戦

「お前の言っている話って、確か……カナカナの町で起こったって言い伝えのある、魔物の大行進の話か?」

「そうだよ……まさにそれさ。全部で五百体を相手にして大立ち回り。だけどこっちは十人にも満たないチームだもん、そりゃあこっちだって全力になるさ。この際だから言い訳させて貰うけど、あの状況で一人で大体百体以上を相手にするってなると、正直な話、民間人の避難までなかなか手が回らなかったしな」


 アークトゥルスは、その時の事を前世の記憶から引っ張り出しながら続ける。

 小さなものから大きなものまで、ありとあらゆる魔物がそのカナカナの町を襲っていた。

 当時、その町の近くに山の中に魔物の巣となっている大きな洞窟があり、そこから多くの魔物がカナカナの町を襲って人間や獣人を餌にしていた。

 アークトゥルス達は旅の途中でその話を耳にして、ドラゴンの討伐前にカナカナの町を通り掛かったのもあって、洞窟の方から迫り来る魔物の大軍を目にした。

 当然、勇者だの英雄だのと言われているチームだとすれば魔物の被害で困っている町があれば助けるのは当然だと思っていた。


「で、さっきも言った通り俺達はその魔物達を何とか全部倒した。けどその魔物達を倒して行く中で町長とその家族を巻き込んでトラブルになった。これは後で聞いた話なんだけど、そのカナカナの町ってのも凄くやばい町だったんだよ」

「やばい町って……どんな?」

「一言で言えば、その町の中で麻薬の精製やってたんだってさ」

「えっ?」

「だから、町ぐるみで麻薬の精製をやってたの。その麻薬ビジネスで裏の世界ではかなり儲けてたらしいんだけど、その指導者である町長を俺達が魔物を討伐する時に巻き込んで殺してしまったのを恨まれてな。それが真相だよ」


 その話を聞き、ドゥドゥカスはアークトゥルスをフォローする。


「それって、本当にお前達が悪かったのか?」

「俺達が?」

「ああ。僕は今の話を聞いている限り、どう考えてもそのカナカナの町の住人達の逆恨みや言い掛かりにしか聞こえなかったがな。確かに町長が巻き込まれたのは悲しいとは思うが、そんなあくどい事をやってたんだったらいずれ騎士団か何かに摘発されてたんじゃ……」

「いいや、それは無いね」

「何で?」


 町ぐるみで大規模な麻薬ビジネスをやって裏の世界でたんまり儲けていたのなら、その魔物達が町を襲ってタチの悪い者同士で潰しあっていなくてもいずれそのビジネスが明らかになって、そして壊滅されていた筈だろう……とドゥドゥカスは考える。

 しかし、実はこのビジネス自体がもう知れ渡っていたのだ。


「だって、当時カナカナの町があった国の騎士団の連中は、その麻薬ビジネスを見逃す代わりに大金を貰っていたんだもん」

「な……それって賄賂って奴じゃあ……」

「そうだよ? そりゃあ何時まで経っても町長は捕まらない訳だし、麻薬ビジネスだって無くならない訳だよ。口止め料として多額の金を渡したとしても、町ぐるみでやってた麻薬ビジネスを考えるとそんなのははした金に過ぎないんだし。見逃して楽に金が手に入るんだったらそっちを選ぶ奴が多かったってだけの話さ」


 吐き捨てる様な口調で、当時を振り返るアークトゥルスの目から零れ落ちていた涙は何時の間にか止まり、代わりに何かを悟った様な視線でドゥドゥカスの座っている椅子の後ろにある、窓から見える景色を見つめる。


「残念だけどこれが現実だよ、王様。もう五年の間、あんたもこのリーフォセリアで王様をやっているんだったら、多かれ少なかれそうした薄汚い話も出て来てんじゃないのか?」

「……」

「まあ、それで魔物達とカナカナの攻防戦をやって麻薬工場だった町中はほとんど壊滅し、挙句の果てに麻薬ビジネスの指導者だった町長を巻き込みで殺してしまった俺達は、カナカナの町の住人達から恨まれる事になった。貴重な収入源を潰されたんだもん、そりゃ当たり前さ。その時はまだ何で怒っているのか分からなかったからさっさとその場から逃げちまったんだけど、後になってその事実が分かった時からだな……戦いに対して、疲れを覚え始めたのは」

「疲れ……ね?」


 アークトゥルスの言わんとしている事も分からないでも無いドゥドゥカスに対し、かつての勇者だった男は更に続ける。


「そうさ。ドラゴンを討伐しても、こうやって根っこが腐った連中が居る限り争いは決して無くならないんじゃないかって思い始めた。虚しさと……悔しさと……悲しさで疲れちまったんだ。それでもその当時はドラゴンの討伐でチームを組んでいた訳だから、その後も旅を続けて最終的にドラゴンを倒した。そして俺はこの時代に転生した。アークトゥルスじゃなくて、レウス・アーヴィンとしてな」

「だから俺は戦う気は無い。それを僕に言いに来たんだな?」

「ああ。俺の言いたい事はそれだけだよ。幾ら王様の命令だと言ってもな、俺にだってちゃんと言い分があるんだ。もう俺は疲れちまったんだ。これからは勇者アークトゥルスじゃなくて、レウス・アーヴィンとして静かに暮らしたいんだよ。だから……追撃とか調査は他の腕の立つ奴に頼んでくれ。それじゃあな、王様」

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