544.ようやく到着した勇者
登場人物紹介にレメディオス・デル・モンテを追加。
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『ギャアアアアアアアアアアアアッ!!』
断末魔の絶叫とともに、目の見えない黒いドラゴンは息絶えて地面へと地響きを上げながら崩れ落ちた。
それを見た騎士団の団員達から、わあっと歓声が上がったのは次の瞬間の事である。
「うおおおっ、流石レメディオス団長だ!!」
「あの場所からまさかあんな形でとどめを刺すなんて、やはり第三騎士団の団長だよ!!」
「きゃーっ、レメディオス様ぁ~!!」
何時の間にか、逃げ遅れていた住民の一部もそのドラゴン討伐の光景を間近で確認して歓声を上げる。
しかしレメディオスはその声に動じる素振りも見せず、淡々と後始末を命じる。
「終わったには終わったが、まだ油断は出来ない。死んだふりをしている可能性もあるからまずは生死の確認。死んでいるのが確認出来たら騎士団でこのドラゴンを解体するから、すぐに騎士団の本部へと運べ」
「はっ!」
部下の騎士団員達にそう指示を出し、レメディオスはドラゴンに特攻して墜落して行ったロルフの元へと向かう。
だが、彼が向かうよりも先にそのロルフが槍を片手に現場へと戻って来た。
「団長、やりましたねぐあっ!!」
「……何がやりましたね、だ。私が何に対して怒っているのか、お前も分からない訳でもあるまい?」
「はい……すんませんでした」
ドラゴンを倒したレメディオスに嬉しそうに駆け寄ったロルフは、そのレメディオスに言葉よりも先に全力の右ストレートパンチを入れられて吹っ飛んだ。
何故殴られたのかは自分でも分かっているので、特に反論もせずに口の端から流れる血を拭いながら謝罪するロルフ。
とりあえず一発殴って気が済んだレメディオスは、このドラゴンが何処からどうやって飛んで来たのかの調査が必要だ……と険しい表情で物言わぬ肉片となったドラゴンを見つめる。
しかしその時、立ち上がったロルフが空に新たな影を見つけた。
「お、おい……何だあれは!?」
「ん?」
ロルフの指差す方向に目を向けてみるレメディオスは、副騎士団長が何を見つけたのかをすぐに察した。
「落ち着け、あれはワイバーンだろう」
「でもこのドラゴンの仲間って事も考えられますよ!!」
「だったら私達で倒せば良い……ん?」
そのワイバーンの背中には、良く見てみれば二人の人物が乗っているでは無いか。
そして高度を徐々に下げてドラゴンのそばに降り立ったその背中から、自分が初めて見る顔の人物達が降りたのを確認したレメディオスは、その人物達に近付いて声を掛けた。
「貴様等、何者だ?」
「何者……って、そっちこそ誰だ?」
「質問に質問で返すな。こっちが先に貴様達の正体を聞いているんだ」
目つきを鋭くしながら厳しい口調になるレメディオスの目の前には、黒いコートを着込んだ金髪の男と赤いコートを着込んだ茶髪の女の姿があった。
その内、金髪の男の方が訝しげに自分の身分を聞かれた事に対してレメディオスに先に名乗る様に促すが、不審者相手にこちらから名乗るつもりはレメディオスにはサラサラ無かった。
その彼の様子を見て、金髪の男は若干ダルそうに一歩前に踏み出てから自分の名前を名乗ろうとした……その瞬間だった。
「あれっ、レウス!?」
「エルザも一緒じゃないか。お主達、今まで何処で何をしていたんだ?」
「あ、ソランジュにサイカ……」
自分に対して自己紹介をしようとしていたこの金髪の男と、待機させていたボーセン城から止む無く城下町の救助活動に加わって貰った女達がそうやり取りするのを見て、レメディオスの表情が変わった。
「何だお前達、知り合いなのか?」
「あ、レメディオス団長……この二人が、私達がボーセン城で話していた残りのパーティーメンバーですよ。ほら、あの赤毛の二人を追い掛けてワイバーンで飛んで行ったってアレットが言っていた……」
しかし今の今まで立て続けにこんな事が起こって、その対処に追われていたレメディオスは記憶が混乱している。
「む……駄目だな、ちょっと記憶が曖昧だからとりあえず全員城に来るんだ。そこで改めて話を聞かせて貰う事にしよう」
名乗って貰うのもそこで纏めてして貰えば良い。
そう判断したレメディオスは、ドラゴンの後始末をロルフ達に任せてボーセン城へと戻る事にした。
◇
「と言う訳で、俺がこのパーティーのリーダーのレウス・アーヴィンだ」
「私は今アレットから紹介された通り、マウデル騎士学院の学生のエルザです」
二人からの自己紹介も終わり、ようやく話が繋がったレメディオスは遅れて合流して来たクラリッサと一緒に事情を呑み込んだ。
「分かった。それであのドラゴンについても、その赤毛の二人が絡んでいると言うのは本当か?」
「それは多分間違い無いと思う。それよりも俺達があの北東の森の中で本人達から聞いた砲台の事の方が気になるし、実際にこのメモだってあるからな」
レメディオスやクラリッサ、それから再び合流したパーティーメンバー達から聞いた、目の見えないあのドラゴンの突然の襲来。
野生のドラゴンにはとても思えなかったと言う数々の証言を聞き、レウスはあの赤毛の二人が絡んでいるだろうと真っ先に確信した。




