541.これは何かありそうだぜ
「あの光だったら、確かシロッコの方に向かって飛んで行ったと思うが……」
「し、シロッコだって!?」
「シロッコと言えば確かこのシルヴェン王国の王都だった筈だ。おいあんた、そのシロッコに飛んで行った光はどうなった!?」
「いや、それはちょっと分からないが……俺がそれよりも気になっているのは赤毛の二人の話だよ」
レウスに肩を掴まれてガクガク揺さぶられながらも、冷静にそう受け答えするエリアス。
赤毛の二人と自分も会話をした事があるからこそ、もしかしたらその赤毛の二人と、ここでレウスとエルザが戦ったと言う赤毛の二人が同一人物では無いのかと睨んでいた。
「俺がボーセン城に行く前にあいつ等に会った時の様子だと、確かあの二人はそんな筒なんて持っていなかった気がするぞ?」
「えっ、それは本当か?」
「はっ、どうせ人目に付かない場所に置いておいたんだろう。あいつ等が根城にしていた、あの廃屋の中に隠しておくとかな」
やろうと思えばやり様なんて幾らでもある。
とりあえず今までにこの国で起こった事を全て話しながら、奴等は目的達成の為なら何だってやるので、舐めて掛かれないのだとレウスはエリアスにそう力説する。
だがエリアスは何だかピンと来ていないらしく、そばに設置されている大砲の方を向いてレウスとエルザに問い掛けた。
「じゃあこれも、あの赤毛の二人の造った物だって言うのか?」
「あんたの言っている赤毛の二人が、俺達の言っている赤毛の二人と同一人物だから、それは当たりだ。だがもっと正確に言えば、その赤毛の二人を傭兵として雇っているその雇い主が造った物だ」
「あー、さっきそれは言っていたな。確かカシュラーゼの連中が雇ったって話だろう?」
「そうだ。貴様がここに来る前に出会ったあの二人を、カシュラーゼの連中は有能な傭兵として各国に派遣している。それは全てさっき話した通り、かつてこの世界に混沌と破壊をもたらして暴虐の限りを尽くした魔竜エヴィル・ワンの復活を目論んでいるからだ」
だから自分達がここにこうして来たのだが、この国でそのエヴィル・ワンに関する情報を聞いた事が無いかどうか、地元の人間であるエリアスに聞いてみる。
しかし、彼は顎に手を当てて考えた後に首を横に振った。
「いいや、そのエヴィル・ワンについては何も聞いた事は無いな。もしかしたら国の連中が何かを隠しているのかも知れないが、俺の知り合いにも全然そんな話をしている連中は居なかったし、この国では見つからない可能性が高いかな」
「そうか、貴様は知らないか……。でも、だったら何故あの赤毛の二人は、この場所でこんな物を造っていたんだ?」
エヴィル・ワンの話も噂も無いのに、この国で何を企んでいたのか?
今の時点で考えられる答えとしては、この大砲を造って何かをしようとしていた位の事しか思い浮かばない。
レウスとエルザがそれで首を傾げていた時、エリアスがハッとした表情になって何かを思い出し、着込んでいる黄緑色のコートの内側に手を突っ込んでガサゴソと何かを取り出した。
「そう言えばさ、さっき倒れていたエルザの近くでこんな物を拾ったんだけど」
「何だこれは?」
「何かのメモみたいだな……」
折り畳まれた一枚の紙を取り出したエリアスから、レウスとエルザはその紙を受け取って目を通し始める。
しかし読み進めるに連れて、段々と二人の表情が険しくなり始めて身体もわなわなと震え始めた。
「おいエルザ、まさかこの内容ってさ……」
「多分貴様と私が考えている事は一緒だろうな。飛距離とか書いてあると言う事は、この内容って恐らくこの大砲の砲撃実験の話だろう!!」
「何だって!?」
二人が怒りで身体を震わせながらそう呟くのを耳にしたエリアスが、驚きの声を上げて反応する。
彼のそのリアクションに先に反応したレウスが、紙の一部分を指差して答える。
「間違い無い。ここに砲撃目標はシロッコと書いてあるからな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。だったら俺がここに来る前に掠ったあの光の出所はここで、砲撃先がそこに書いてある通りシロッコだとすると……」
「ああ。貴様の地元の知り合いがシロッコに居るのであればその知り合いも、それからシロッコに居る私達の仲間達も砲撃の餌食になってしまった可能性が高い!!」
もしかしたら、それでさっき魔晶石で連絡を入れても誰にも繋がらなかったのか……とここで全てがレウスとエルザの中で繋がった。
既に自分がイルダーを現地に向かわせているものの、自分達もシロッコに向かって現状を確認しなければならないと考えるレウスの横で、エルザが通話用の魔晶石を取り出してもう一度シロッコに居るパーティーメンバー達への連絡を試みる。
だが……。
「ダメだ、全く通じないぞ!」
「全員に掛けてみろ!!」
「多分それでも同じ結果になるだろう。それよりも今はさっさと一秒でも早くシロッコに戻るんだ!!」
「ああ、分かった!」
「俺も着いて行く。ここであった事を報告しなければならないからな !」
この大砲の砲撃は、かなり遠く離れた場所からでもハッキリと見える程に強大なものだった。
もしそれがシロッコに直撃したのだとすれば、どうなっているかは容易に想像出来るのが恐ろしい。
その悪い想像が現実になっていない事を願いながら、三人はワイバーンでシロッコに向かって全速力で急行し始めた。




