540.やって来たあの男
アニータが愕然としているその頃、王都のシロッコから遠く離れた大砲のある森の広場の中に新たにもう一匹のワイバーンが着陸していた。
「うわっ、何だこれは!?」
思わず声を上げてしまったその男は、自分が手に入れていた情報以上の惨状に目を疑う。
先程、ワイバーンに乗っている時に自分の近くを掠めて行ったあの光は、恐らくここにあるこの大きな物体から放出されたのだろうと容易に想像が出来る。
その光のせいで一旦地上に降り、自分の身体とワイバーンにダメージが無いかどうかを確認していた為にここに到着するのが遅れてしまった。
それもこれも全ては、あの光のエネルギーが自分の近くを掠めて行った事によって耳鳴りや目の痛み、それからワイバーンの興奮を誘発してしまったのが原因だ。
(それにしても、この状況は一体何がどうなったんだ? 確かさっき、この森の近くから飛び立つ二匹のワイバーンの姿が見えた様な気がしたんだが、あれは俺の目の錯覚だったのか?)
未だに目がジクジク痛むので、もしかしたらそうだったのかも知れないと考えながらワイバーンから降りる男だが、そんな彼の目に倒れている二人の人間の姿が入った。
「お、おいあんた達大丈夫か!? しっかりしろ!!」
「……う……」
(良かった、まだ息はあるみたいだな!!)
倒れているのは赤いコートを着ている茶髪の女と、黒いコートを着ている金髪の男。
その二人ともどうやら息がある様だが、赤いコートの女はかなりの重傷を負っている様でこのままここに放置しておいたら命が危ない。
金髪の男は気絶しているだけの様なので、赤いコートの女に回復魔術を掛けてから彼をまず先に起こす。
「おい、おい、しっかりするんだ!!」
「ぐっ……う、いてて……何だ? あれ、ここは何処だ?」
「気が付いたか!」
身体をガクガクと揺さぶると脳にダメージを与えてしまう可能性があって大変危険なので、ぺちぺちと頬を叩いて意識を回復させられた金髪の男は、自分の置かれている状況と視界に飛び込んで来た見知らぬ一人の男の存在に驚く。
「あ、あんた……誰だ?」
「俺はエリアスって言うんだけど、こっちの方から物凄い光が飛んで来るのが見えたから急いで飛んで来たんだ。そうしたらここに君とあの赤いコートの女が倒れていてね。向こうの彼女は君の知り合いなのかい?」
「えっ……あ、エルザ!?」
エルザの事を思い出したレウスは、まだズキズキと痛む頭の事を気にしている余裕も無しに、倒れているエルザの方に駆け寄った。
そのエルザの様子と、それから近くの木が完全に木の幹の途中でポッキリと折れているその状況を見て、何が起こったのかをレウスはすぐに把握した。
「くそっ、あの筒のせいだ!」
「筒?」
「ああ。赤毛の二人が持っている筒のせいで多分こうなったんだ! だがそれよりも今はエルザを治療しなければな。あんた、回復魔術は使えるか?」
「使えるよ。実際、さっきこの女に少し掛けたんだ」
「そうか、それは助かった。だがまだ足りないから俺と一緒に回復魔術を掛けてくれ!!」
「分かった!」
詳しい話をするよりも先に、まずは重傷を負ったエルザの治療が先だった。
ワイバーンでここまでやって来た金髪の男とレウスは、二人揃って彼女に魔術を掛けながら軽く自己紹介をする。
「そうだ、俺はレウスと言うんだが……君は確かエリアスって言っていたな。どうしてここに?」
「俺は旅人でね。その旅人の仲間からこっちの方角で最近怪しい連中が多数目撃されているから、様子を見て来てくれないかって頼まれたんだよ。そうしてここに来てみたらこの有り様だったんだ」
「そうだったのか……でも、君がこうして様子を見に来てくれなかったら俺はともかく、エルザは息絶えていた可能性が高かった。本当に助かった」
その会話をしていた二人の目の前で、エルザの表情が苦悶のものから段々と落ち着きのあるものへと変化して、更に声も出せる様になった。
どうやら意識を取り戻して、死の淵から蘇ってくれたらしい。
「う、うう……ぐっ、な、何だ?」
「おいエルザ、しっかりしろ!」
「れ、レウス? あれ、貴様は一体誰だ……?」
「よし、これでようやく二人とも意識が無事に回復したみたいだな。詳しい話を聞かせて貰わないと」
目を開けてみれば、二人の男が自分の顔を覗き込んでいるその状況に困惑するエルザ。
とりあえず身体が満足に動く様になったので、ゆっくりとその身体を起こして状況を把握する為に今までの経緯を話し始めた。
「……そうだったのか、それは感謝する。私はあのヴェラルがあの筒を私に向け、そしてヨハンナに蹴り飛ばされてからの記憶が曖昧だ」
「俺はヴェラルに踵を落とされてからの記憶が無かった。エリアスは本当に命の恩人だよ」
しかしエリアスがこの場所に来た経緯を語る中で語られた、あの謎の光が飛んで行った先がまだ分からない。
一体あの光が何処に飛んで行ったのか分からないか? とレウスとエルザが聞いてみると、その光が自分の身体を掠めて行った経験のあるエリアスの口から驚きの回答が出て来たのだ!!




