表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

533/875

530.えっ、居ないの?

 一方でエルザは一緒に分断されてしまったイルダーとともに、お互いに武器を構えて用心しながら進む。

 相変わらずの焼け焦げた臭いは鼻に漂って来るものの、殆ど感じられない位になった。


「ここまで上に上って来てからさっきの変な臭いが薄れて来たか。なら……火元は下って事なのか?」

「恐らくそうだろう」


 そもそもこの洞窟自体、様々な場所に様々な材料を貯蔵する為に造られただけあってかなり広い。

 それでこの今の時点で臭いがすると言うのは、火元が近いか火が大きくなっているかの二つしか考えられない。


「しかし、何処かが燃えているとなるとまずいな。とにかくもう少しだけ進んでみて、何も無かったら私達だけでも下に戻って脱出しないか?」

「そう……だな。あの男には申し訳無いが、道が無い以上は僕達にもどうしようも出来ないからな」


 勇者アークトゥルスの生まれ変わりだからこそ、自分達が居なくても前世での冒険の知識や経験で何とか脱出出来るだろう。

 そう思いながらエルザが道なりに通路を進んで行くと、やがて外の空気が入り込んで来る場所に近付いて来た。どうやら洞窟の出入り口の何処かに近づいているらしい。

 外に出られるのであれば一応の脱出口は確保出来ると思い、エルザは自然と早足になって駆け出した。

 だが、まずは早く外に出て今の自分達の状況を確認しようと考える彼女の横でふと、イルダーが気になる一言を呟いた。


「……でも、さっきの武装集団の恰好って何だか何処かで見た気がするんだよな」

「えっ?」

「いやあのな、僕の記憶違いかも知れないんだが……あの武装集団が胸につけている黒いバッジ、あれって確か何処かの盗賊団のバッジだった気がする」

「……え……?」


 まさかのイルダーからの話に対して、もしかしてこの先に待っている展開は……とエルザは突然襲って来たその嫌な予感が拭い切れない。その嫌な予感を無理やり振り払う様に、エルザは更に駆けるペースを上げて前方に見えて来た出入り口から外に出る。

 するとそこには、今まさに飛び立とうとしている一匹のワイバーンとその背中に乗っている人間の女の姿があったのだ!

 その女はエルザとイルダーの足音に気が付いたらしく、怪訝そうな表情で振り向く。


「どうやら、邪魔者がまだ居たみたいだねえ?」


 黒のロングヘアーを後ろで纏め、若干釣り上がった目の形。その瞳は青い。

 深紅の、しかし動きやすさ重視の為か袖無しのロングコートを着込んだその内側には銀色の胸当てを着け、黒のズボンを履いている腰の茶色いベルトには短剣が二本ぶら下げられている。

 足は保護の為か、茶色のニーハイブーツの上からこれまた銀色の足鎧を装着。コートから出ている肩も銀色の肩当てを装着し、指先から上腕までを保護する為に肘から少し上まである長い茶色の皮手袋をはめており、金色の柄に赤い刀身の湾曲した剣……エルザと一緒のパーティーメンバーであるサイカが使うのと同じシャムシールが握られている。

 この様に、この女だけは下で戦った武装集団の人間や獣人達とは何か雰囲気が違うのが分かる。

 イルダーは女の出で立ちを見て同時に確信した。この女こそが今、王国内の世間を騒がせている盗賊団のリーダーなのだと言う事を。


「貴様、何者だ?」


 答えは分かり切っている。だが自分達に刃向かうのであれば、その素性を尋ねない訳にはいかないエルザ。

 すると意外にも、女はすんなりと自分の身分を明かす。


「私かい? 私はウルリーカ・アザミ・シンベリ。シンベリ盗賊団の団長だよ」


 見た目では二十代中盤と思われる、クラリッサやサイカと余り年齢が離れていなさそうな女はウルリーカと名乗った。


「そうか。わざわざそうして名乗ってくれるのは捕まりたいと言う事だな」

「それは勘弁だ。お前達が何者かは知らないが、私はここで捕まる訳にはいかないんだよ!!」


 その一言と同時に、ウルリーカの手の中で煌めいたナイフがエルザとイルダーに投げ付けられる。

 二人はそれをギリギリで回避したものの、その隙を突いてウルリーカは素早く自分のワイバーンで飛び去ってしまった。



 ◇



 ワイバーンが飛び立つ前にその人物の元に槍が届いたおかげで、ワイバーンの背中からその人物が飛び降りる結果になったレウス側。

 これで何とかその人物に色々聞き出す事が出来る……と安堵するレウスの目の前で、フードをバサリと取って顔が明らかになったその人物の正体は、レウスの予想通りの因縁の人物……では無かった!!


「だ、誰だお前?」

「えっ……おい、ちょっと待て。俺を散々追い回しておいて、誰かと間違ってんのかぁ?」


 赤髪の若い男が、愛用のロングバトルアックスを片手にレウスと同じくポカーンと呆気に取られた顔をしている。確かに赤毛は赤毛なのだが、その正体は自分と因縁のあるヴェラルでもヨハンナでも無く全く別の人間だったのである。

 なら、そのヴェラルとヨハンナの二人は一体何処へ行ってしまったのか?

 その行方は多分この男が知っている筈なので、レウスは男に対してハナッから疑いの目を向けて質問をぶつけてみた。

 それがまさか、あの場所があんな事に陥ってしまう流れの始まりだとも知らずに……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お気に召しましたら、ブックマークや評価等をぜひよろしくお願い致します。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ