529.先客
登場人物紹介にロルフ・エイセルを追加。
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しかし、今のレウスにとってはこんな連中は敵では無い。
魔術防壁を展開しつつ、「クレイジー・アルカディア」で魔力の四属性全ての大小様々なエネルギーボールを、愛用の槍から出る衝撃波によって縦横無尽に四方八方目掛けて乱射すれば、すぐにその武装集団は壊滅した。
だが、どうやらその中にあの赤毛の二人は居ないらしい。
その事実にもどかしさを感じつつもレウスが通路の奥に視線を戻すと、自分の記憶の中にある光景と一致するものがチラリと見えた。
「……ん!?」
「え、何?」
「あいつだ!!」
身体を弾かせて勢い良くスタートダッシュを決めたレウスが、迷い無く通路の奥に駆け出して行く。
「ちょ、ちょっとどうしたんだレウス!?」
少し遅れる形でエルザとイルダーもレウスの後に続き、荒れている不安定な道の状態で転ばない様に気を付けながら彼の進む方向に着いて行く。
何故急に駆け出したのかを走りながら問い掛けるエルザに対し、レウスも同じく走りながら答える。
「あいつだよ……あの時の赤毛の人影が通路を横切るのを見掛けたんだ!!」
間違いないと断言するレウス。
見えた人影は一つだけ。だがそのどちらかがここに居ると言う事は、やはりこの貯蔵庫の物品を奪いに来たのでは無いかと思えて仕方が無いのだ。
そのまま人影を追い掛けて通路を曲がってみれば、今度は突き当たりの通路を右に曲がる赤毛の人影の背中が見えた。
だがそれと同時に、二人の鼻に異様な臭いが引っ掛かる。
「ね、ねえ、何か臭くない!?」
「ああ、何か焦げ臭いな!?」
「もしかして、何処かで火事でも起こっているのか?」
通路中に立ち込め始めた、何かが焼け焦げているこの臭いは何処かで何かが燃えていると言う証拠だ。
それが何処なのかまでは分からないし、意図的に起こされたものなのか自然発生したのかも判断が付かない以上は、とりあえずあの赤毛の人影を追い掛けて行くしか無い。
その中で、後ろから着いて行くエルザはある事に気がついた。
「なぁ、もしかして……この通路ってどんどん上の方に上ってないか?」
「ん!?」
「だってほら、勾配がついているんだ!」
言われてみれば確かに……と自分の足元に視線を落として気が付くレウス。
今までずっと前だけしか見ていなかったので、足元の微妙な変化に気が付かずにこうして進んで来たらしい。
「上の方に何かがあるって事なのか?」
「それは分からないが……まだ前の方にあいつ等のどっちかが居るんだから、見失わない様にな!」
「ああ、分かってるよ。それじゃここから会話は無しだ!!」
口を動かすより足を動かし、赤毛の人影を見失わない様に洞窟内を上るレウスとエルザとイルダー。
上の方に続く通路がこうしてあると言う事は、この上にも貯蔵庫があると言う事になるのか、はたまた別の理由でこの通路が造られたと言う事なのか。
いずれにせよ追い掛けられる所まで追い掛けてみれば分かる事だと思い、引き続き三人は追跡を続けて行く……のだが!
「うおっ!?」
「うあ!?」
T字路の曲がり角を曲がろうとして、目の前を矢が二本掠めて岩壁の隙間に突き刺さる。
侵入者対策のトラップの類では無いらしい……と言う事はどうやら追跡に気が付かれたみたいで、更なる攻撃がそのT字路の曲がり角を曲がる三人を襲う。
「えっ!?」
「レウス、危ない!!」
後ろからエルザに思いっ切り押されたレウスは前に突き倒され、その上から天井が崩れて来た!!
「え……エルザ、イルダー!!」
まさか……と最悪の展開がレウスの脳裏を過ぎるが、岩壁に阻まれた通路の向こうからはエルザとイルダーの声が聞こえて来た。
「わ、私とイルダーなら大丈夫だ! こっちの道にも通路と看板があるからこっちに進む。レウスは奴を追い続けろ!!」
「……分かった! 何処かで何かが燃えているみたいだし、危ないと思ったら何処かに隠れるなり、すぐに逃げるなりしろよ!」
「うん、そっちも気を付けてな!」
エルザとイルダーの声が聞こえて来て二人が無事なのは分かったし、どの道この状況では自分は引き返せない事も明白なので、レウスはすぐに立ち上がって通路の先に進む。
走り出したレウスはまた上へ上へと洞窟を上がって行くが、今のT字路で分かれ道はどうやら終わりだった様で、残りはずっと一本道だったのだ。
(この先に一体何があるんだ?)
さっき追い掛けていた人物が逃げて行ったのはこの先しか無いので、不安な気持ちや引き返せないと言う絶望感と戦いながらレウスは足を動かして追い掛け続ける。
そうして最終的には、洞窟からずっと上へと進んで外の崖の上へと出る事に成功していた。
だが、その視線の先では赤毛の人間がここに待たせていたのであろうワイバーンに乗り込もうとしている。
(逃がすか!!)
レウスは考えるよりも先に身体が動く。
視線の先で大きな生物に乗ろうとしている人物目掛け、先程天井が崩れて来た時にも何とか無事だった槍を投げつける!!
「うわっ!?」
人間、奇跡と言うものはどうやら存在するらしい。
無我夢中で投げたその槍は綺麗な放物線を描き、ワイバーンの飛行を阻止する事に成功した。




