527.エレインの情報
登場人物紹介にイルダー・シバエフを追加。
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「えっと、エレインの情報についてなんだけどね。彼女が確かにこの国に来たって言うのは伝説に残っているわ」
「やはり来たのですね?」
「ええ。この国ではかなり有名な話なんだけど、彼女は頑なに自分の情報を国外に出す事を嫌がったって話も受け継がれているわ。それがどう言う理由でなのかは分からないけどね」
クラリッサからの話はまだ始まったばかりだが、パーティーメンバー達にはその自分の情報云々の理由が何なのか一瞬で察しがついた。
ガラハッドからの理不尽な暴力が原因で、このシルヴェン王国に逃げて来たのであろう。
実際にヴァーンイレスの地下通路の奥で見つけた手紙にも、私はガラハッドとアークトゥルスの二人に恋心を抱かれていたのが原因でそこまでのトラブルになったから、今度はシルヴェン王国にでも身を隠そうと思います……と書かれていた。
アークトゥルスの生まれ変わりのレウス曰く「とんでもないホラ話」を手紙に書き残してこのシルヴェン王国に逃亡した彼女は、どうやら秘密の日記を持っていたらしいので、それをこのシルヴェン王国に残した可能性があるのだ。
だからそれを遠回しに聞いてみようと考えたサイカは、慎重に言葉を選んで話を切り出す。
「そうですか……彼女にも色々あったんでしょうね。でもそう言うのって何か、人には言えない秘密だったりするから私だったら自分の日記に書き留めちゃいますよ。感情を剥き出しにして、文字も書き殴って」
「そ、そうなんだ……」
「だからエレインもそうやって、何かに書き残したとかそう言うのってあったりしません?」
「ううん、そう言う話は聞いていないけど。でもサイカって何か……そうやって爆発しちゃうタイプなの?」
「え、ああ、まあ……」
本当は日記なんて一文字も書いた事が無いし、言ってから自分の発言を振り返ってみたらかなりストレートに日記の事を聞く様なセリフになってしまった、と後悔するサイカ。
それにその嘘の話でクラリッサに引かれてしまったらしいので、目的の情報を得られなかったばかりか自分のイメージダウンにもなってしまったサイカは、この気まずい空気をどうしようか変な汗を流しつつ考えていた。
そこで彼女の代わりに話を切り出したのが、この部屋の中に居るメンバーの中で一番無口なアニータだった。
「それよりも、私達は何時までここに居なければならないの?」
「え? そうねえ……レメディオス団長が言うには、とりあえず国境の調査が終わるまでって話だったわね。筒の情報も調べなければならないし、貴女達が言っていた赤毛の二人の話と国境の事件との関係もまだ全然話が見えて来ていないから、やる事が山積みでね」
「じゃあ、もしその情報を早く手に入れられたら私達はすぐに解放して貰えるのかしら?」
「ええ、そうなる可能性は高いわね」
アニータに続いたドリスからの質問にそう返答するクラリッサ。
それを見て、かなり申し訳無さそうにサイカが手を挙げる。
「あ、あのぉ……実はさっきの魔術通信なんですけど、シルヴェン王国の全土に警備網を張ってくれって話があったんです」
「えっ? 何で警備網?」
「それがその、例の赤毛の二人を発見して今レウスとエルザがイズラルザって場所で動いているって連絡が……。それから噂にあった筒らしき物体を、その赤毛の二人が現在も所有して逃げているってのも言っていました」
「う、嘘でしょ……?」
「本当なの……」
更に気まずくなる室内。
その静寂を真っ先に打ち破ったのは、このパーティーメンバーの中で一番気性が荒いドリスだった。
「ふざけんじゃないわよおおおおおおっ!!」
「ど、ドリス……?」
「そう言うのって真っ先に言うべき事でしょうがああっ!! 何でさっき通話が終わった後にそれを一番に言わなかったのよおおっ!!」
「ほ、本当にごめん! 私もさっき聞いて自分でびっくりしちゃって……」
「いやいやいや、ごめんじゃないわよおお!! だってそんな物騒な人と物を放置していたら、また被害が出るかも知れないでしょうがああっ!」
部屋中に響き渡るドリスの怒鳴り声に、彼女のブレーキ役のティーナがまあまあと妹をなだめる。
その横ではサイカが目に見える形で落ち込んでいる。
「いや、あの……その気持ちも分かるけどちょっと落ち着きましょう? ね?」
「納得出来ないわよ! レウスから色々と話を聞いて、あの赤毛の二人がここに来ているって分かったんでしょ? だったらそれはちゃんと最初に言うべきでしょうが!!」
「確かにそれはそうかも知れないけど、ちょっと言い過ぎよ。ね、サイカもそんな落ち込んでないで……」
「言い過ぎたって構わないレベルの話よ!! サイテーよこの女! 報告と連絡と相談を遅らせてんじゃないわよおおっ!!」
まだ叫び続けるドリスに対し、サイカが意を決してポツリと呟いた。
「それはちょっと違うんじゃないかな……」
「ね、そうですわ! ちょっとこれは妹でも言い過ぎだと思いますわ!」
「いや、ティーナの方が違うんじゃないかな」
「え?」
「確かに私は言い過ぎてもおかしくないレベルの事をしでかしたわ。だからそこはきちんと謝る。そして今から通話の内容を全て話すわ!」
「……あ、そう……ですか……」
まさか、自分が違うと言われると思っていなかったティーナは呆気に取られつつも、サイカがそう言うなら……とそれ以上フォローする事を止めてサイカの話に耳を傾け始めた。




