525.噂になっているドラゴンの詳細
「くそっ、一体何が起こったんだ……!?」
「うう、まだ背中にあの変な感触が残っているぞ」
背中から爆風を受けて吹っ飛ばされた二人は、ろくに受け身も取れずに身体の前面を地面に強打していた。それでも事前にレウスが掛けていた魔術防壁のおかげでダメージを受けずに済んだのは、まさに不幸中の幸いと言って良いだろう。
二人はそのまま立ち上がって素早く周囲に視線を巡らせるが、ヴェラルとヨハンナの姿は何処にも無かった。
「あいつ等、逃げられたか……」
「そう言えばさっき私が吹っ飛ばされる寸前に見たんだが、あの二人はまたその家の中に入って行ったぞ」
「そうなのか? 良し、そうだとしたらさっさと追うぞ!!」
そう言ってレウスは廃墟の家の中に入ろうとするものの、エルザは爆風の方を見て唖然とする。
その廃墟の外壁にはまさに、あの国境の城壁で見た大穴と同じ位の大きさの抉られた跡が残っていた
「おいレウス、これだけ見てくれ」
「何だ……って、おいおい、これは……!?」
「あの城門の時の様に貫通こそしていないが、それでもこんなに外壁が抉られているって言うのは相当な破壊力だ。貴様が魔術防壁を掛けていたからこそ助かったものの、もし私達にあの筒から撃ち出されたエネルギーボールが直撃していたかと思うと……」
「ああ、ゾッとするな」
実際、魔術防壁があっても背中側から吹き飛ばされてしまったのは事実なので、どれだけその威力がすごかったのかを身をもって感じた二人。
しかし、自分達を狙う為に撃った筈なのに何故背後の廃墟を抉る様な軌道でヴェラルが自分達にあの筒からエネルギーボールを発射したのかが不明である。
踵を返した二人は、ヴェラルとヨハンナが逃げて行った廃墟の中に踏み込んで開けっ放しの裏口からその二人を追い掛けるべくイズラルザの町中に向かって駆け出した。
恐らくは、まだ自分達に利用価値があるかも知れないと考えて脅しのつもりでわざとあのエネルギーボールを外したのだろう……と推測しながら。
◇
「気を悪くしないで欲しいわ。一応、あれでもレメディオス団長もロルフ副団長もちゃんとやっているのよ」
「とてもそうは思えないんだけどね……」
王都シロッコのボーセン城。
レメディオスとロルフと仲が良い、あの茶髪の女騎士団員クラリッサがその二人のフォローをしていたのだが、サイカにはあっさりとそう評価されてしまった。
それよりも大事な話がある、と言われてボーセン城の中にある客室に通された六人の女達は、このシルヴェンの中で噂になっているドラゴンの詳細をクラリッサから聞く事になったのだ。
「それで……今までの大体の話は聞いたけど、貴女達は何匹ものドラゴンと勝負して来たんですって?」
「ええ。最近パーティーに加わったメンバーも居るんですけど、ここに居る私達六人全員が最低一匹はドラゴンと勝負した経験があります」
「へぇーっ、そうなんだ。それでそのドラゴンと、このシルヴェンに現われたって言うドラゴンと何か関係があるんじゃないかって事で話を聞きたいのね?」
「そう言う事です」
生物兵器の噂がこっちにまで届いているだけまだマシか……とこの国のセキュリティの脆弱性に危機感を覚えながらも、アレット達はクラリッサからそのドラゴンについて詳しく教えて貰える様だ。
しかし、その語られたドラゴンの詳細は今までのどのドラゴンとも違うパターンらしい。
「その黒いドラゴンは、このシルヴェン全土で目撃されているわ。シルヴェンは小さい国だからかなりの数の目撃情報があるんだけど、どうもそのドラゴンは妙なのよね」
「妙って?」
「普通、ドラゴンって自由に大空を飛び回ったり我が物顔で陸地を闊歩したりするでしょ。でもそのドラゴンは妙に大人しいって言うか、警戒心が異常に強いって言うか……変な動きをするのよね」
クラリッサの言っている意味がいまいち分からないので、その寄せられている目撃証言がどんなものなのかをもう少し詳しく突っ込んでみるパーティーメンバーの女達。
「例えばどんな風に大人しいんですか?」
「そうねえ、ジーッと伏せて動かない感じだって目撃者は言っていたわ」
「それで警戒心が強いのか。しかし、お主が言っている事だと普通のドラゴンと変わらないんじゃないのか?」
「それは私も思ったんだけど、人間や獣人が近くに寄ると突然機敏な動きで辺りを見渡すのよ。そして獲物を見つけたらすっ飛んで来るの」
「それって人間や獣人に限定した話って事?」
「いいえ、馬がカッポカッポと歩いているのにも反応していたわ」
「でも、別に普通のドラゴンと余り変わらない気がしますけどねえ……」
「そうなのよね」
ティーナ、ソランジュ、ドリスの三人の質問に答えたクラリッサを見て、思わずアレットが本音を漏らす。
それを横で見ていたサイカが、新メンバーのアニータにも質問してみる。
「アニータはそんなドラゴンの話は聞いた事あるかしら?」
「無いわね」
「あ、そう……」
アニータが本当に無口過ぎて何だか怖くなって来たサイカだが、その時ズボンのポケットの中がほんのり熱くなっている事に気が付いた。




