520.この国にとってセキュリティって何だ?
登場人物紹介にエリアス・ラヴェン・キーンツを追加。
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「分かった、魔術都市イズラルザだな!」
「ああ。冒険者仲間達が噂しているのを聞いていたからね。でもここからだとワイバーンでもかなりの距離があるよ?」
「そうなのか?」
他の二つのグループとは別の場所で情報収集をしていたマウデル騎士学院のトリオは、銀髪の若い男にそのイズラルザの場所を聞いて早速向かおうと考える。
赤毛のコンビがそこに行くと言っていたのであれば、そのイズラルザの町にその二人が居る間に辿り着きたい。
しかし三人はあいにくこのシルヴェンの土地勘がゼロなので、無理を承知でこの銀髪の男に頼んでみる。
「それで貴方にお願いがあるんだけど、そのイズラルザの町までワイバーンで案内して貰えないかしら?」
「ぼ、僕が?」
「そうよ、お願い、事は一刻を争う事態になるかも知れないの。このままだと、もしかしたらシルヴェン王国そのものが世界地図から消えて無くなるかも!!」
「おいおい、そんな大げさな……」
そこまで大げさに言わなくても良いだろうと、銀髪の男は苦笑いを浮かべてアレットの発言を信じようとしない。
しかし、国境の話をエルザが切り出してから話の流れが変わった。
「貴様は国境の襲撃事件を知っているか?」
「襲撃……国境?」
「その様子だとどうやら知らないらしいな。恐らくここの誰もがまだ耳に届いていないだろう。アイクアルとヴァーンイレスの国境が何者かによって襲撃された。それからこのシルヴェンとアイクアルの国境も同じく襲撃されたんだ」
「僕はそんなの初耳なんだが……一体お前等は何を言ってんだよ?」
キョトンとするこの男に対して、エルザがなるべく手短にその国境の城門に大穴が開けられたと言う話をすると、男の顔が急に引きつり始めた。
「……それ、本当の話なの?」
「嘘でこんな壮大な話をするもんか。それよりも何故この国の騎士団にその話が伝わっていないんだ?」
「いや、僕に聞かれても困るなあ。多分国境とはかなり離れているからじゃないのかな。それからその国境の担当者達が全員殺されたんなら連絡も取れないだろうし」
この男、完全に他人事である。
とにかくこの話も騎士団に伝えなければならないだろうが、それよりもイズラルザに向かうのを優先しなければならない。
なので若干迷いつつも、レウスはまたここでチームを分ける事にした。
「なぁあんた、ワイバーンには乗れるか?」
「えっ……まあ、乗れない事は無いけど」
「良し、それならアレットは騎士団に連絡を頼む。俺とエルザはこの男に先導して貰って先にイズラルザへ向かう。アレット達は残りのメンバーにも声を掛けて、後から追い掛けて来てくれ!」
「分かったわ。連絡は魔晶石で良いの?」
「そうしてくれ。頼んだぞ!!」
こうしてアレットに連絡役を任せ、レウスとエルザはワイバーンでイズラルザへと向かう。
「そうだ、あんたの名前は?」
「僕はイルダーだよ」
「じゃあイルダー、道案内は任せるぞ!!」
「えっ、あ……うん」
レウス達の気迫に押され、何が何だか分からない内にイズラルザへの道案内をさせられる事になったイルダー。
しかし、ここで懸念事項が一つあったのを思い出すレウス。
「……なあ、エルザは高い所が苦手だからやっぱりアレットと一緒に行けば良かったか?」
「ばっ、馬鹿にするな!!」
「なら大丈夫になったのか?」
「いや、怖い。怖いけどこの状況でそんな事も言っていられないからな。貴様の後ろに乗って我慢するだけだ」
「分かった。それならしっかり掴まっていろよ!」
この国にとって、セキュリティの概念とは一体何なのだろうか?
幾ら国境とこの王都シロッコの距離が離れているとは言え、魔術通信ですぐに連絡や確認出来ると思うのだが、リーフォセリアとシルヴェンの常識は違うので何とも言えない。
とにかく連絡係はアレットに任せたので、レウスとエルザはあの赤毛の二人がイズラルザの町を出る前にそこに辿り着くのが目的だ。
そのまま出発したレウス達は、自分達が乗って来てシロッコの出入り口で預けているワイバーンを出して貰い、大空へ向かって飛び立つ。
だがその一方で、レウスから命を受けて騎士団に国境の襲撃事件を伝えに行ったアレット達がとんでもない事になっていた。
「襲撃されたなんて報告は入っていないが……」
「おいお前等、口から出まかせ言ってたらぶっ飛ばすぞ!!」
「ちょっと待ってくれ、お主達はもっとちゃんと調べてくれ!!」
騎士団に通報しに行った他のパーティーメンバー達は、物騒な事を言って王国を混乱させようとしているのではと疑われてしまっていたのだ。
それもこれも、魔物への対応が主な騎士団の任務らしいので、なかなかそんなイレギュラーな仕事に対応している時間が無いのだと言うのがまず一つ。
そしてもう一つは、町の住人が目撃したヴェラルとヨハンナがあの謎の筒を持っていなかった事が、騎士団に調査を渋らせる原因になっている。
しかし国境の襲撃事件は紛れも無い事実なので、確認が取れるまでの間パーティーメンバー達は、この国の国王の居場所であるボーセン城の中で待たされる事になった。




